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第1章
15 母の覚悟と僕の覚悟
しおりを挟むあの後、涙が止まるまでラオスとイラザはゆっくり待ってくれた。
そして涙が止まった後、二人は何も言わずに家まで送ってくれた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
母さんが僕の声に玄関まで出てきた。
そして僕の顔を見ると、母さんはそっと抱きしめてくれた。
「母さん、聞きたいことがあるんだ」
「分かったわ、先にシャウの部屋に戻ってて、母さんは温かいお茶を入れていくわ」
「わかった」
僕は自分の部屋に戻ると、ベットに腰掛け母さんを待った。
直ぐに母さんはお茶を二つ持ってきてテーブルに置くと、僕の隣に座った。
僕は母さんが帰った後のことをぽつぽつと話した。
「僕、魔力譲渡は口移しするものだって思ってたんだよ? だから、…だから、嫌だったけど、しようとしたんだ」
母さんは静かに僕の話を聞いていた。
「でも出来なかった、ううん、したくなかったんだ。命がかかってたのに、死にそうだって分かっていたのにしたくなかった。したくないって思っちゃったんだ」
またあのとき感じた恐怖と不安と苦しさで涙が溢れてきた。
母さんは優しく優しく僕の頭を撫でた。
「そう。嫌だと思ったのね」
母さんは優しくシャウに言葉をかけた。
それから母さんは語りかけるように、シャウが返事をしなくても言葉を続けた。
「そう思うことは当たり前のことなのよ」と、
「誰でも思うの」と、
「そう感じたことは悪いことではないのよ」と、
「シャウはどうしてそう思ったのか一度考えてみるのもいいのかもしれないわ」とも、
母さんの言葉に、どうしてなのか今考えても答えが出てこなかった。
いつか分かる日が来るのだろうか? 判れば、こんな苦しい思いをすることがなくなるのだろうか?
シャウは判らなくて、母さんに質問した。
「母さんは出来るの?」
僕の問いかけに、母さんは力強く僕の瞳を見つめる。
「そうね、母さんはそれしか手がなければするわね。治療士だから」
母さんは言い切った。
「でも、それをしなくても済むように日頃から準備はしているし、いろいろと新しく出来ることがないか研究しているのよ」
シャウに淡々と語りながら、母さんの瞳には治療士としての誇りが宿っていた。
「でも、シャウはまだその準備もしていないし、覚悟もしていない」
もう一度優しくシャウの頭を撫でる。
「だから出来なくてもしょうがないの。それはね、シャウが悪いわけじゃないの。母さんがシャウに教えることをしてこなかったことが悪いのよ」
母さんは眉を下げ、謝るように言葉を続けた。
「まだ早いと思っていたの。そんな命の関わる場面に出会うなんて思っていなかったから」
母さんの方が泣きそうな顔をしていた。
「ごめんなさい。母さんのせいでシャウがこんなに苦しくて恐い思いをするなんて……、あのとき替わりの治療士が来るまで母さんが待っていれば良かったのよね。ごめんなさい、シャウ」
母さんの後悔している姿に、僕は慌てて首を振った。
「母さんが悪いわけじゃないよ。ねえ、母さん、僕もうあんな気持ちになりたくないんだ。だから、僕に魔力譲渡の仕方を教えてください」
母さんに頭を下げてお願いすると、母さんは涙で潤んだ瞳をぬぐい笑った。
「そうね。母さんも後悔したくないから家に居るときに教えるわね」
そう言い終えると母さんは立ち上がり深呼吸をしてから、ポンと手を叩いた。
「さあ、父さんが帰ってくる前にご飯作らないと!! 」
僕を見た母さんの瞳はまだ涙で潤んでいたけれど、いつもの明るい母さんに戻っていた。
母さんは僕を覗き込むと、僕の目尻辺りをツンツンと突いた。
「シャウはまだ瞳が赤いわね。ガルアが戻ってくる前に冷やしておきましょ。このままだとガルアが心配して心配して大泣きした後、家に閉じ込めちゃうかもしれないわよ?」
母さんは冗談ぽく言って、クスクス楽しそうに笑った。
本当に起こりそうで、恐くもあり可笑しくもあった。
母さんにつられるように笑うとさっきまであった苦しい気持ちが無くなっていた。
僕は最後にひとつだけ気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ、母さんはどうして口移しで魔力譲渡してたの?」
母さんはちょっと言いにくそうにしながら、教えてくれた。
「母さん、手からの魔力譲渡が苦手でね、ガルアにはキスの方が早く渡せるから、ついね」
一瞬、母さんの言葉が理解できなかった。
「キス? ……魔力譲渡ってキスだったの?! 」
「そうよ。だからどんなに苦手でもガルアにしかしないわよ?」
母さんの言葉が信じられなかった。
「…うそだ、……ウソだ! ……嘘だー!! 」
母さんは叫びだしたシャウを不思議そうに見ていたけれど、そんなことを気にしている場合ではなかった。
僕は母さんのせいで、勘違いをしていることに気づいた。
そして、ラオスとイラザが言っていた意味がやっと解った。
………僕は恥ずかしくてまた泣きたくなった。
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