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第1章
18 父の娘、族長の娘として *残酷な描写あり
しおりを挟むダブじいに魔力の溜め方や母さんに魔力回復の仕方を教わり続け、ある程度人並みに出来るようになった頃、魔物が変異し始めていると警備隊員たちが話しているのが聞こえてくるようになった。
それに伴い母さんも治療室に詰めている時間が長くなっていた。
そして、母さんが僕に分からないように力不足を嘆いているのを見てしまい、母さんが心配だった。
今日は父さんが珍しく僕とラオス、イラザを連れて魔物退治にきていた。
僕達の役割は後方支援。人手がどうしても足りなくて仕方なくと父さんが言っていた。
前線で戦っている傭兵や隊員が使い切った魔道具を交換しに来たり、刃こぼれした剣を交換したり、魔力回復をしたり、することは山のようにあった。
父さんは前線で指揮を執りつつ魔物と戦っているようだ。
後方に戻ってくる人達の漏れ聞こえる言葉で戦況を確認出来るくらいだった。
それによると、出会った魔物は3体で動きがかなり素早く苦戦しているとのことだった。
戻ってくる人達の疲労の具合を見ていると、父さんのことが心配になった。
前線に戻っていく人達を見送っていると、肩を優しく掴まれた。
「ガルアさんは大丈夫ですよ。最強の獅子王なんですから」
イラザは安心させるように微笑んだ。
「そうだよね。父さんは強いもんね」
「そうそう、心配するだけ無駄だぜ?」
ラオスも父さんが怪我を負うとは欠片も思ってないようだ。
「そうだよね。よし、頑張ろ!」
僕が元気になったのを見て二人は笑って持ち場に戻っていった。
暫くすると魔物を退治した人達が戻ってきた。
その中の数人の人達が呪いを受けて体の一部分が黒く変色していた。
「あぁ、クソッ!」
その内の一人が苛立ちのまま、言葉を吐き捨てていた。
その傭兵の体を見ると片方の膝下が黒く変色していた。
「ああ、クソッ、クソッ、クソッ、クソーー!! …………はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
その傭兵が悪態を吐き続けるのを、周りの人達はやるせない顔で静かに見ていた。
あらかた、悪態を吐き終えたのか、顔を上げると、近くにいた隊員に声をかけた。
「すまん、やってくれるか」
「分かった」
頼まれた隊員は剣を抜くと、その傭兵の膝下を一刀両断した。
「うっ、アアアアアーーーッッ」
シャウは悲鳴を飲みこみ、反射的に目を閉じてしまった。
そしてイラザがシャウの獣耳を塞いでいた。
イラザが塞いでいなければ、自分で塞いでいたかもしれない。
塞いでいても、悲鳴が聞こえた。身を切られるような叫びだった。
呆然と目の前で繰り広げられる事態を見ていた。
足を切り落とした傭兵は止血され運ばれていく。
少ししてからあの傭兵が呪いをこれ以上広げないため、足を切り落としてもらったのだと理解できた。
話を聞いて知っていたけれど、実感を伴ったのは実際に自分の目で見てからだった。
自分が何の役にもたたないのが分かった。
見てることしか………ううん、見ることもできなかった。
さっきの隊員の悲鳴が頭から離れない。
ここに母さんが居れば足を切り落とさなくても済んだ筈なんだ。
母さんのように呪いを排除できる人が居れば、あの人も足を無くさなくても済んだ筈なんだ。
……………分かってる、もう母さん達だけじゃ間に合わないくらい魔物に襲われる人が増えていて、命を優先して助けているんだって……だから、間に合わなさそうだと判断したら命を優先して手足を切り落としているんだって………それしか、今は助かる方法がないんだって……………
無力でただ立ち尽くしているシャウの隣に、いつの間にか父さんが立っていた。
見上げた父さんは憤っていた。
握り締めた拳からは血が滴っている。
それを見て、父さんも苦しんでいるのが分かった。
族長として、警備隊を管理している長として、目の前で傷ついていく者達を救う手立てが無いのに苦しんでいた。
僕は何も出来ない。
でも、何かをしなければいけないと身に染みた。
父さんの娘として、獅子族の族長の娘として……。
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