シャウには抗えない

神栖 蒼華

文字の大きさ
18 / 67
第1章

18 父の娘、族長の娘として *残酷な描写あり

しおりを挟む

ダブじいに魔力の溜め方や母さんに魔力回復の仕方を教わり続け、ある程度人並みに出来るようになった頃、魔物が変異し始めていると警備隊員たちが話しているのが聞こえてくるようになった。

それに伴い母さんも治療室に詰めている時間が長くなっていた。
そして、母さんが僕に分からないように力不足を嘆いているのを見てしまい、母さんが心配だった。



今日は父さんが珍しく僕とラオス、イラザを連れて魔物退治にきていた。
僕達の役割は後方支援。人手がどうしても足りなくて仕方なくと父さんが言っていた。

前線で戦っている傭兵や隊員が使い切った魔道具を交換しに来たり、刃こぼれした剣を交換したり、魔力回復をしたり、することは山のようにあった。

父さんは前線で指揮を執りつつ魔物と戦っているようだ。
後方に戻ってくる人達の漏れ聞こえる言葉で戦況を確認出来るくらいだった。
それによると、出会った魔物は3体で動きがかなり素早く苦戦しているとのことだった。

戻ってくる人達の疲労の具合を見ていると、父さんのことが心配になった。

前線に戻っていく人達を見送っていると、肩を優しく掴まれた。

「ガルアさんは大丈夫ですよ。最強の獅子王なんですから」

イラザは安心させるように微笑んだ。

「そうだよね。父さんは強いもんね」
「そうそう、心配するだけ無駄だぜ?」

ラオスも父さんが怪我を負うとは欠片も思ってないようだ。

「そうだよね。よし、頑張ろ!」

僕が元気になったのを見て二人は笑って持ち場に戻っていった。



しばらくすると魔物を退治した人達が戻ってきた。
その中の数人の人達が呪いを受けて体の一部分が黒く変色していた。

「あぁ、クソッ!」

その内の一人が苛立ちのまま、言葉を吐き捨てていた。
その傭兵の体を見ると片方の膝下が黒く変色していた。

「ああ、クソッ、クソッ、クソッ、クソーー!! …………はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

その傭兵が悪態を吐き続けるのを、周りの人達はやるせない顔で静かに見ていた。
あらかた、悪態を吐き終えたのか、顔を上げると、近くにいた隊員に声をかけた。

「すまん、やってくれるか」
「分かった」

頼まれた隊員は剣を抜くと、その傭兵の膝下を一刀両断した。

「うっ、アアアアアーーーッッ」

シャウは悲鳴を飲みこみ、反射的に目を閉じてしまった。
そしてイラザがシャウの獣耳を塞いでいた。
イラザが塞いでいなければ、自分で塞いでいたかもしれない。
塞いでいても、悲鳴が聞こえた。身を切られるような叫びだった。


呆然と目の前で繰り広げられる事態を見ていた。
足を切り落とした傭兵は止血され運ばれていく。

少ししてからあの傭兵が呪いをこれ以上広げないため、足を切り落としてもらったのだと理解できた。
話を聞いて知っていたけれど、実感を伴ったのは実際に自分の目で見てからだった。

自分が何の役にもたたないのが分かった。
見てることしか………ううん、見ることもできなかった。

さっきの隊員の悲鳴が頭から離れない。
ここに母さんが居れば足を切り落とさなくても済んだ筈なんだ。
母さんのように呪いを排除できる人が居れば、あの人も足を無くさなくても済んだ筈なんだ。



……………分かってる、もう母さん達だけじゃ間に合わないくらい魔物に襲われる人が増えていて、命を優先して助けているんだって……だから、間に合わなさそうだと判断したら命を優先して手足を切り落としているんだって………それしか、今は助かる方法がないんだって……………



無力でただ立ち尽くしているシャウの隣に、いつの間にか父さんが立っていた。

見上げた父さんはいきどおっていた。
握り締めた拳からは血が滴っている。
それを見て、父さんも苦しんでいるのが分かった。
族長として、警備隊を管理している長として、目の前で傷ついていく者達を救う手立てが無いのに苦しんでいた。

僕は何も出来ない。
でも、何かをしなければいけないと身に染みた。
父さんの娘として、獅子族の族長の娘として……。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...