シャウには抗えない

神栖 蒼華

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第1章

47 離れた距離

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決闘の次の日からラオスとイラザが、護衛としての役割を他の人に任せて姿を見せなくなった。

今のシャウは治療室への送り迎えだけなので、護衛の仕事としては誰がしてもそんなに難しくはなかった。
だから、別の人が護衛としてシャウの送り迎えをしても別に問題はなかった。
代わりの護衛は警備隊の新人さんでも良かったのだが、父さんの過保護っぷりが発揮されてウルガかザンガが交代で治療室への送り迎えの護衛を引き受けてくれた。

ウルガが初めてラオスとイラザの代わりに護衛に来てくれた日。
どうしてウルガが護衛に来たのかを尋ねると、ラオスとイラザに頼まれたのだと言われた。
理由を聞いてみたら、もっと強くなりたいから今は稽古に集中したい、それまでは護衛を代わって欲しいとお願いされたらしい。そして、父さんやウルガに稽古をつけてもらっているらしい。

全て他の人から聞いた言葉だった。

どうしてラオスとイラザは僕に直接言ってくれなかったのだろう。
強くなりたいと思った気持ちは分かるから、僕は反対するつもりもなかったし応援する気持ちもあるのに、ラオスとイラザから直接言ってもらえなかったことに淋しさを感じていた。

あれから本当にまったくラオスとイラザに会えくなった。
父さんやウルガから、いいというまでは訓練場に来るなとも言われているから、ラオスとイラザに会う機会がない。

こんなに姿を見ない日は今までに一度もなかった。
喧嘩をしていたときでさえ偶然に会うこともあったのに、今はそれさえもなくて避けられているのかと思えるくらい全く会えなかった。


  ***


「おはようございます」
「おはようございます、シャウ」

治療室へ入ると、すでに来ていたルティスが挨拶を返してくれた。
ラオスとイラザには全く会わないのに、ルティスとは反対に毎日のように会っていた。
ルティスの今の仕事が治療士として働いているのだから、同じ治療室に来ていれば会うのは当然なんだけれど、なんだかその事実がシャウの心にやるせない気持ちを溜めていく。

決闘が終わった次の日から、僕は母さんに呪いの治療の仕方を教わっていた。
まだ、他の人には僕が呪いを治療できることを知られるわけにはいかないので、最近はずっと母さんとルティスと一緒の治療室で仕事をしている。
そんな中、手をかざしての呪いの治療がうまく出来なくて苦戦していた。
直接触れて祈れば、自然とシャウの魔力が流れ込んで呪いを治療することが出来るのだけれど、肌との距離があると魔力の操作がうまく出来なくて呪いの治療がなかなか進まなかった。

このままだといつまで経っても治療士としての資格が取れない。
普通の治療は大体出来るようになってきたけれど、折角呪いの治療が出来ることが分かったのだから呪いの治療も出来る治療士としての資格が欲しかった。

それなのに、ちっとも進まない自分の魔力操作の不器用さにイライラが溜まっていく。

はぁー

シャウは息を吐いてから、気持ちを入れ替えるために周りに視線を向ける。
すると、ルティスの治療している姿が目に入った。
相変わらずの速さで患者を治療していく。

(凄いな…。ルティスは本当に何でも出来る)

ルティスから見たら、僕もラオスもイラザも子供に見えるのかもしれない。
だから、いつもルティスには心に余裕があって冷静でいられるのかもしれないと思った。
ルティスのいつもと変わらない様子に、シャウは少し気になっていたことがあった。

ルティスは決闘の後も態度が全く変わらなかった。
父さんからプロポーズを断ったのを聞いているはずなのに、それでも態度に変化がないのはやはり僕を護るための手段だったからということなのだろうか。

知らずのうちにじいっとルティスを見つめていたシャウに気づいたルティスが不思議そうに見返して声をかけてきた。

「どうかしましたか?」

ルティスの問いに、ハッとして何でもないと答えようとして、やっぱり気になったから聞いてみた。

「……ルティスは父さんから聞いたんだよね? 僕のこと」
「──ええ、プロポーズの返事は聞いてますよ」

シャウを見つめるルティスの目は優しさを湛え、真っ直ぐにシャウを捉えていた。
ルティスが知っていた事実にいたたまれなくなって、その真っ直ぐすぎる視線に耐えきれず視線を外してしまった。

「なんでルティスは変わらないのかなとちょっと気になったんだよ」

少しはルティスと気まずくなるのを覚悟していた。
でも、全くルティスは変わらなかった。だから、父さんからまだ聞いてないのかなとも思ってたんだ。

「シャウに受け入れられても断られても、私のすることは変わらないからでしょうね。私はシャウを護りたい。私がそうしたいと思っているだけです。だから、側に居させて下さいね」

その言葉にルティスに目を向けると、先ほどと同じようにルティスの優しくも強い想いが宿った目でシャウを真っ直ぐに見つめていた。

「ありがとう、ルティス」

ルティスの言葉が嬉しかった。
だから、お礼の言葉しか返せなかったけれど、笑顔を浮かべてお礼を言った。
そんなシャウの笑顔を見て、ルティスもほっとして嬉しそうに笑った。

そういえば、久しぶりに笑った気がした。
いつから笑ってなかったかなと思い出すと、ラオスとイラザに会わなくなった決闘の次の日からだと気づいた。




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