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第1章
閑話 ガルアの記憶
しおりを挟むシャウがプロポーズをされて悩んでいる姿を眺めながら、俺は生まれたばかりの頃のシャウを思い出していた。
ミイシアと結ばれて、割とすぐに子供が出来た。
シャウが生まれる日、俺は朝からそわそわとしていて、ミイシアに笑われていた。
ミイシアの腹が大きくなり産み月が近づくにつれて、仕事が手につかなくなっていた。
それでもミイシアに言われて渋々仕事に行っていたのだが、その日はなんだかそわそわしてしまい我が儘を言ってミイシアの側にいた。
するとミイシアが腹の痛みを訴えはじめた。慌てて産婆を呼びに行くと、このまま赤子が産まれると言われた。
俺には耐えられぬ長い時間の中、ミイシアは部屋に入ってからずっと痛みに耐える呻き声を響かせていた。
苦しむミイシアの側に居てやりたくても、産婆に追い出された俺はただ部屋の外でうろうろと歩き続けていた。
そんな苦しい時間が続いた中、部屋の中から赤子の産声が聞こえてきた。
ようやく産まれたのかと安堵して、部屋に駆け込むとすぐに産婆に叱られ、まだ近づくなと見ていることだけは許された。
そしてようやく近づく許可が産婆から出ると、ミイシアに近づき顔中にキスを降らせた。感謝と労りのキスを降らせていると、ミイシアが笑って腕の中にいる赤子を見せてきた。
「ガルアと私の子よ」
「ああ、可愛いな」
ミイシアの腕の中で静かに眠る赤子に自然と笑顔が浮かぶ。
顔はまだクシャクシャだったが、どこもかしこも小さくて可愛かった。
「女の子か」
「ええ、可愛いでしょう」
「そうだな。ミイシアに似て美人になりそうだ」
「ふふ、まだ早いわよ?」
眉間にしわを寄せて未来の予想図で悩んでいる俺にミイシアはしょうがなさそうに笑っている。
だが、ミイシアに似るということはとてもモテるということだ。今までどれだけ俺が苦労してきたかミイシアは解っていない。
可愛い娘に野獣どもが群がるかと思うと赦せない。
そうだな。可愛い娘が苦労しないように俺が蹴散らせておけば良いか。
フッフッフッと悪い顔で嗤う俺を呆れた顔でミイシアが見ていた。
嗤っていると、部屋の外から軽い2人の走る足音が聞こえてきた。
その足音はどんどん近づいてきて俺達のいる部屋の扉を開けると、獅子族の幼子が2人入ってきた。
2人はミイシアの腕の中で眠るシャウを目で捉え、目にも留まらぬ速さで近づき匂いを嗅ぎはじめた。
そしておもむろにシャウの顔中を嘗め始める。
俺とミイシアは目の前で起こった出来事に呆気に取られ、見ているだけだった。
嘗められているシャウがぐずりだした声にやっと我に返った俺とミイシアは、2人を引き離そうとしたが何処にそんな力があるのかシャウを掴み嘗め続けていた。
シャウを掴んでいるため、あまり手荒なことが出来ずにいた俺は獅子王の支配力で威圧した。
すると、事切れたように2人は意識を失った。
「ガルア?!」
ミイシアは驚いた声を上げたが、とりあえず状況を確認するために意識を失った2人を引き離し空いているベットに寝かせる。
「こいつらはラオスとイラザか?」
俺の言葉にミイシアも顔を確認して驚きの顔をしていた。
「ええ、ラオスとイラザだわ」
「確かまだ2歳だったよな…」
「そうね。2歳とは思えない動きだったけれど」
そうだ。普段の様子も知っていたが、ここまで俊敏に動けてはいなかったはずだ。
そこで、ふと、ある考えが過ぎった。
まさか……!
俺が愕然と2人を見つめていることに気づいたミイシアが問いかけてきた。
「ガルア? どうしたの?」
「………ああ、これは番を見つけたときの行動に似ている」
「!? まさか──!」
ミイシアは悲鳴に近い声を上げる。
番の大変さを身を持って知っているミイシアは驚きを隠せずにいた。
いや、ほんとにすまん、ミイシア。番であるミイシアを見つけたときは理性がなくなっていたんだ。
その時のミイシアの困惑顔を思い出して反省した。
いや、それよりも今は目の前にいるラオスとイラザのことだ。
番の相手と巡り会えるのさえ奇跡と言われている中で、出会えるのは幸運といえる。
俺はその幸運に巡り会えたのだが、まさか娘も番に巡り会うとは思わなかった。
しかもどう考えても2人同時に番相手に対する行動を行っている。
これを見るにどちらかが違うとは考えにくい。近くに番がいたことを幸運に思うべきなのか、何とも判断しにくかった。
それにしても番とは2人もいるものなのか。今までにそんなことは聞いたことがない。
だが、2人居ることに意味がある可能性もある。それは神のみが知る領域なのかもしれないが、俺の独断で判断するにはまだ判断材料が足りなさすぎる。
まだ、シャウは生まれたばかり。番相手はまだ2歳だ。
もう少し様子を見るしかないな。
ただ気がかりなことがひとつ。
シャウは半獣だから、もしかしたら番に気づけない可能性もある。
どうしたものかと悩んだが答えが出なかったのでミイシアに聞いてみた。
「ミイシア、どうやらこの2人がシャウの番であることは間違いなさそうなんだが、シャウは半獣だから番に気づけない可能性もある。どうしたらいいと思う?」
「それは…………」
俺の言葉にミイシアは考え込んだ。
そして答えを見つけたのか、俺を見つめて話し始めた。
「シャウの意思に任せましょう。この子が大きくなって自分の意思で決めたことを私は応援するわ。だから、選択肢を増やしてあげたいの」
「選択肢か…」
「ええ、もちろん番の2人を選んでもいいし、それ以外の人を選んでもいいと思うの。ただ番が2人居るというのは聞いたことがないから、2人を選んでも大丈夫な環境も用意してあげたいわ」
「そうだな、その根回しもしとくか」
ミイシアの意見も聞いて、俺はシャウを見守ることに決めた。
ただ、このままのラオスとイラザを放置するとシャウを囲い始めるのは目に見えているので、シャウが自分で考えられるまではラオスとイラザのシャウへの番による執着を封印することにした。
それはミイシアも納得してくれたので、ラオスとイラザに改めて獅子王の支配力の威圧をかける。
あとは、ラオスとイラザの両親に事情を説明することと、シャウと同世代の子を持つ親世代にシャウの番が2人居ることを説明することだな。
ただ、番が居ることを知って納得してもらっても、子供には何も伝えずに自由意志を尊重して欲しいことだけはしっかりと理解してもらわないとな。
骨が折れそうな仕事だが、半獣の子も増えてきているから理解してもらえるだろう。
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