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第1章
35 母の故郷
しおりを挟む「まず、これから話すことは秘匿されてきたことだ。だから、けして誰にも話すな。親兄弟にもだぞ? 今から話すことは国王もウルガも知らんことだ」
父さんの言葉に空気が張り詰める。
隣に座る2人からも緊張が感じられた。
シャウもそこまでの重大な秘密を明かされることに戸惑いが隠せなかった。
そこまで言われる母さんの一族ってどんな人達なんだろう?
父さんは僕たちひとりひとりを確認するように見てから話し始めた。
「ミイシアが生まれた場所は魔物が棲む森のずっとずっと奥深い場所にある。俺達が魔物退治に行く場所よりももっともっと奥にある場所だ」
そこで父さんは言葉を区切った。
父さんの様子に次の言葉が重要なのだと嫌でも分かる。
父さんは僕たちの注目を集めると話しだした。
「ミイシアの一族はな、全員呪いを治療できる力を持っているんだ」
その言葉に僕たちは息を飲んだ。
──全員?
それを聞いて魔物退治に行って呪いを受けた人達が脳裏に浮かぶ。
その人達がいれば、呪いで手足を失わずに済んだ人達がもっとたくさんいたのではないか、そう思えてならなかった。
なんで街に来てくれないのだろう?
呪いを治療できる人がたくさんいるなら少しくらい街に来てくれてもいいのに。
そうすれば、呪いで苦しむ人達が少しでも減るはずなのにと悔しく思う。
父さんは僕の顔を見て、何が言いたいのか分かったらしい。
そんな僕を見てしょうがないやつだなとでも言うように父さんが見ていた。
「ミイシアの一族は…、守り人の一族はな、森から魔物が出ないように結界を張り、それを維持し続けるためにその力を使っているんだ。その意味が分かるか?」
僕たちは首を振る。
僕は父さんの次の言葉を聞いて浅はかな考えを持った事を恥ずかしく思った。
「一日中誰かしらが結界に力を注ぎ続け、結界から魔物が出ないようにしてくれている。俺達を人知れず護ってくれているんだ」
シャウは告げられた驚愕の事実に耳を疑った。
(一日中?! それは朝昼夜もずっとって事?! しかも、僕たちを護ってる?)
「その為、村を出ることもできないし、そんな余力もない」
そんなに力を使い続けたら身体の方が保たないんじゃないの?
街にいる治療士は長時間の治療が身体に負担がかかりすぎるのを防ぐため、法で身体を休められるように決められている。
それよりも、なんで結界を張って魔物を食い止めていることを誰にも知られないようにしているのかわからなかった。
「何故、誰にも知られないようにしているのですか? 讃えられる程の行いをしているのに」
腑に落ちないのかイラザが問いかけていた。
イラザの質問に父さんの目には苛立たしげな感情が浮かぶ。そして、視線を逸らして吐き捨てた。
「さっきミイシアも言っていたはずだ。呪いの治療ができる者がどうなってきたのか」
父さんの声が低く響き怖かった。
「いつの時代も馬鹿の考えることは変わらないのさ。だからこそ隠れ住んでいるんだ」
「…そう言うことですか。考えが足りず申し訳ありません」
悔やむように口を噛みしめるイラザに、父さんはハッとしたようにイラザを見る。
「すまん。今のは八つ当たりだ。お前に怒ったわけではない。俺もその話を初めて聞いたときは同じ質問をしたからな。すまん」
「いいえ、こちらこそ話の途中で質問してしまい申し訳ありませんでした」
父さんはそれに首を振ってから、話を続けた。
「まあ、そんな一族だからこそ魔物についても俺達よりは詳しい筈なんだ」
確かにそうかもしれないと理解できた。
それはラオスもイラザも同じようだった。
「だから3日後にその守り人の一族の所に行く事になっている。その時にはお前達も連れて行く。他の者には魔物の変質についての調査という名目で、守り人の一族の所に行くことは隠している。それを自覚して覚悟決めて準備して待つように」
「「「はい」」」
3人の声が揃った。
重大な任務が課せられたことに気を引き締めた。
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