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第1章
40 守り人の一族 Ⅴ
しおりを挟む帰り支度をしていると、ラオス達が帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま……、もしかして、もう帰るのか?」
「うん、だからみんなも準備して」
「分かった」
ラオス達は自分の荷物を取りに部屋へと消えていく。
「こんにちは! ─シャウ、もう帰っちゃうって本当?」
玄関の扉を開けたと同時に話しかけてきたミスリーに、シャウは頷いた。
「そうなんだ」
「えー、寂しいよー。もう一泊くらいしていけばいいのにー」
「そうしたいけど、街でも治療士不足しているし、魔物も出て退治しなきゃいけないから長居は出来ないんだ」
「そうなんだー。街も街で大変なんだね」
「うん。いつか魔物がいなくなるようになったらいいね」
「だねー。そうしたらわたしも街に遊びに行けるかも!」
「あはは。そしたらたくさん遊ぼう」
シャウもミスリーもそうならないことは現状では理解していたけれど、湿っぽくなるのは嫌なのでいつかの話をして明るく別れたかった。
ミスリーと話していたら、みんなの準備も終わったみたいで全員が集まっていた。
「じゃあ、行くか」
父さんのかけ声で全員家を出る。
お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、マークル叔父さんにミスリーも外塀の所まで見送ってくれるみたいだった。
全員で外塀に向かいながら、シャウはあらためて村を見回した。
ここにいる人全員で街の人達を護ってくれている。
それがとても有り難くて、うまく言葉には表せられないけれど、いつか恩返しが出来ればいいと思った。
村を見ているうちに外塀の扉に着いた。
マークル叔父さんが初めて会った場所まで案内してくれるとのことなので、言葉に甘えることにした。
この村までの道は迷路のような木々が覆い繁っていて、しばらく離れていた母さんも迷うかもと言っていたからとても助かった。
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、会えてとても嬉しかった」
「こちらこそ、シャウちゃんに会えて嬉しかったわ」
お祖母ちゃんとお祖父ちゃんに順番に抱きついて別れの挨拶をする。
母さんもシャウと代わりばんこに抱き合って別れの挨拶をしていた。
最後にお祖父ちゃんが言ってくれた言葉がとても嬉しかった。
「また、来い」
「はい! また来ます」
「ほんとにまた来てね!」
「うん、またね」
ミスリーの言葉に元気よく返事を返した。
「それでは、お邪魔しました。失礼します」
父さんの言葉に全員が頭を下げる。
そして、外塀の扉を潜った。
「じゃあね」
「またね」
扉の中と外で手を振って最後の挨拶をすると、扉が閉まった。
シャウが寂しく思っていると、母さんが抱きしめてくれた。
「また、来ればいいわ」
「そうだね」
母さんと笑い合ってから、一度深呼吸した。
ここから先は魔物が棲む森。
油断していたら、命を落とす事だってあるかもしれない。
だから、気を引き締めて帰らなければいけない。
シャウの気持ちの変化に父さんは肯くと、マークル叔父さんに話しかけた。
「すまないが途中まで道案内よろしく頼む」
「気にしないで下さい。結界を見回るついでですから」
マークル叔父さんのおどける言い方に、見回る方がついでなのだろうと思った。
そして、僕たちに気を使わせないように歩き始める。
迷路のような木々が覆い繁る道なき道を進む。
そうして、昨日マークル叔父さんと出会った場所まで到着した。
「それでは、皆さん気をつけてお帰り下さい」
「マークルも気をつけてね」
「ありがとう、姉さんも気をつけて」
そして、マークル叔父さんはお辞儀をすると森の中へ消えていった。
ここまで運良く魔物と出会わなかったけれど、帰りも絶対にそうだとは限らないのでシャウは気を引き締めた。
周囲の気配を探りながら、気になっていたことを父さんに聞いてみた。
「父さん、魔物が変質した理由わかったの?」
「いや、マジルダ殿も分からないと言っていた」
「そうなんだ」
「ああ、マジルダ殿も魔物の変質については気になっていたらしいので理由を探してみると約束してくれた。そして何か分かったらマークル殿が知らせに来てくれるらしい」
「そっか、何か分かるといいね」
「そうだな。俺達も俺達で原因を調べるしかない」
父さんの言葉で魔物の変質については振り出しに戻って自分たちで調査して行くしかないのだと分かった。
どこから、何から調べればいいのだろう。
父さんの厳しい表情からも難しい事が窺える。
シャウが少し考え事をしていたとき、耳元で《シュッ》と音がした。
と同時にルティスに抱えられて横跳びされた。
シャウの目の端に映った黒い物体に身体が本能的に震えた。
視線の先に魔物が5体、音もなく出現していた。
その内の1体が鞭のように枝を伸ばして攻撃してきたようだった。
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