シャウには抗えない

神栖 蒼華

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第1章

42 ユリベルティスの治療

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「どうにか皆生きているな」

父さんが全員の姿を見て息を吐いた。
確かに、運良く生きていられただけで、全員満身創痍だった。
シャウはこうなってしまった原因について謝罪した。

「父さん、すみませんでした」
「いや、俺も少し甘くみていたようだ。シャウの石礫で落とせると思っていたからな。魔物の方が強かったというだけだ。それに一度は動きを止められたから魔トントンを倒せたのだからいい。気にするな」
「はい」

父さんの言葉に自分の未熟さを思い知り、悔しくて情けなかった。

「それよりも早く傷を治せ」
「そうね。シャウ、傷口を見せて」

母さんが手をかざそうとしているのを、ルティスが止めた。

「ミイシア夫人、傷は私が治します。それよりもガルア族長の呪いの治療をお願いします」

母さんはシャウの傷の深さと、父さんやルティスの広範囲の呪いの多さを比べ、ルティスの言葉を受け入れたようだ。

「分かったわ。シャウをお願いします」
「承りました。必ず綺麗な肌に戻しますのでご安心下さい」

母さんとルティスは互いに頷きあうと、母さんは父さんに近づき、ルティスはシャウに近づき治療を開始した。
治療の間、また魔物に襲われても敵わないので、ラオスとイラザは左右に分かれて見張りをしている。

「シャウ、今治しますからね。すぐに痛みもなくなるでしょう」
「ありがとう、ルティス」

ルティスの方が全身に呪いを受けて苦しいはずなのに、そんな素振りも見せずシャウの心配をしてくれる。
本当にルティスには敵わない。
人間が出来過ぎている。
だから傷が治ったら、父さんと母さんの許可を得て、ルティスの呪いを治療したいと思った。
僕はまだ触れてしか呪いを治療出来ないから、呪いの治療ができることをルティスに知られないようにしてきたけれど、ルティスだけに知られるなら父さんも母さんも許してくれるような気がする。

「ええっ!?」

ルティスの常にない驚きの声に、全員が振り向いた。
その視線の先にあり得ない現象が起こっていた。
シャウの傷が塞がっていくと同時に、呪いが消えていっていたのである。

「「「「「 !! ───── 」」」」」

驚きで動けない全員の目の前で、どんどん傷が塞がっていき呪いが消えていって、最後には何もなかったかのように綺麗な肌があるだけだった。

誰も何も言えない、いや言葉が出てこない静寂が続いた。
そんな中いち早く立ち直ったのはシャウだった。
なんとなくそんなことになるような気もしていたのだ。あれだけの呪いの葉が張り付いても呪いによって黒く変色した肌が全くなかったのだから。
それでも、あり得ないことが起こったのは確かだったので、明るく言って誤魔化してみた。

「あ、呪いも治ったみたいだね。よかったー。いつの間にルティスってば呪いの治療出来るようになったんだよ」

軽口をたたきながら、ルティスの肩を叩く。

「父さん、母さん、僕も治していい?」

唖然と見ていた父さんと母さんは、シャウの言葉に我に返ると僕の言いたいことも汲み取ってくれたみたいで渋々と許可をくれた。
ルティスに向き直ると、軽口を続けながら話しかける。

「僕もね、呪いが治療出来るようになったんだ。ちょっと違うやり方なんだけど……」

ルティスはまだ驚きから立ち直れていなくてシャウを愕然と見つめたままだったけれど、シャウは気にせずにルティスの顔にある呪いに手で触れた。

手で触れた瞬間に、ルティスはびくりと身体を震わせ飛びずさった。

「な…、な、何をしているのですか?!」

シャウに触れられたことに驚いているのか、シャウが呪いに直接触れたことに驚いているのか、目を白黒させている。

「いいから、じっとしてて」

初めて見るルティスの慌てた姿に、なんだかシャウは面白くなって先ほどまであった気まずさもどこかへ行ってしまった。
シャウは両手でルティスの顔を挟み込み、ルティスを見つめながら祈った。

(元に戻りますように…、綺麗な肌に戻りますように…)

祈りを捧げるとシャウの中から力が流れ出して、手のひらが温かくなる。そして手のひらからルティスの肌に力が流れ込んでいくのが分かる。流れ込んでいく力が感じられなくなるまで触れてから、そっと手をずらしてみると呪いが消えていた。
それを確認してからシャウはルティスの顔にある他の呪いの方に手を這わしていく。

「ルティス、目を閉じて」

目元近くにある呪いも治療するために声をかけると、シャウを見つめていたルティスの目が僅かに揺れ動き、その後ゆっくり目を閉じた。
それを確認してから、ゆっくり手を呪いに這わしていく。
顔から首へ徐々に手を移動させながら、シャウはあることに気がついた。

直接触れないと治せないということによる弊害があることに。

(どうしよう、やっぱり服は脱いでもらわないと治せないよね)

服から出ている部分は治せたけれど、服の下の肌にも呪いはあるはずで、治療室でだったら気軽に言える事もここで言うのは気が引ける。
──いやいや、恥ずかしがっている場合じゃないよね。
治療なんだから、何でもないようなことに見せてさらっと言わないと。

「ルティス、服脱いでくれる?」
「ぅえ?! ───あぁ、分かりました」

シャウの言葉に、ルティスは驚き過ぎて裏返った声を上げたあと、すぐに意図を理解して上半身の服を脱いでくれた。
服の下にはやはり呪いで黒く変色している部分が多くあった。
その場所に手を這わしながら祈りを捧げて呪いを治療していく。

心臓辺りにあった呪いを治療しているときにルティスの鼓動がすごく早く脈打っていて、呪いで苦しいのかと思ってシャウは出来る限り早く呪いを治療しようと頑張った。
頑張っても速さが変わらないことは分かっていたけれど、気持ちの問題だった。

上半身の呪いは全て治療が終わって、後は下半身の方だけ。
シャウはもうひと息入れると、ルティスに声をかける。

「じゃあ、下も脱いでくれる?」
「っ…、ええ」

流石にルティスも今度は驚かずにシャウの言葉に従ってくれる。
流れ的に言われるだろう事が分かっていたのだと思う。

下穿き姿のルティスを出来る限り目に入れないようにしながら、足先から触って呪いを治療していく。
そして、足の根本近くまで手を這わせたときに、シャウは躊躇した。
そのまま進めていいのだろうか。
そんな戸惑いが隠せなかったシャウの手をルティスが掴む。
それと同時に、母さんが声をかけてきた。

「シャウ、ガルアの治療が終わったわ。後のユリベルティス殿下の治療は引き受けるから、シャウはラオスとイラザの呪いの治療をお願いしてもいい?」
「はい」

母さんにもシャウの戸惑いが解っていたみたいで、本来なら母さんがラオスとイラザの治療を受け持つところだけれど、シャウの呪いの治療法だと秘部にまで触れなければならなくなってしまう。それが解っていた母さんが代わってくれたのだろう。

シャウはほっとしてルティスから離れようと身体を起こす。
まだシャウの手を掴んでいたルティスに気づき、ルティスを見ると顔が少し紅く色づいていた。
ルティスはシャウと目が合うと、パッと手を離し視線を逸らす。

「シャウ、ありがとうございました」
「ううん、こちらこそ傷治してくれてありがとう」

ルティスがシャウに視線も合わせずに話すのは珍しいことだったけれど、ルティスもシャウと同じで恥ずかしかったのだと思ってそっとしておくことにした。





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