なんだ、このハチャメチャな奴は

神栖 蒼華

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15 食材調達 Ⅱ

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森に足を踏み入れると、清々しい風が肌を撫でる。

森は町から少し歩いた所にある。そこから国境まで広がる広大な森林地帯。
樹々は青々と繁り、鳥のさえずる声がする。生き生きとした生命の息吹を感じる森が瞳の前に広がっていた。

ディルユリーネはこの地に来て初めて森に足を踏み入れていた。
ヒュドネスクラ国の敵兵と戦うか、メッツァー隊長の世話や嫌がらせに付き合って、他の場所を探索する時間がなかったためだ。

(気持ちの良い森……。こんな時期戦時中でなければ森林浴を楽しみたいくらい……)

とても素晴らしい森だった。地元の町の人達の憩いの場所でもありそうだった。
しかし、今は必要最低限しか森へ来られないのだろう。ディルユリーネ達以外の人の気配はしなかった。


先頭に森へ来たことがあるルルメさんとヤンさんが並んで歩き、その後ろにジルヴァンとロロさん、その後ろにディルユリーネとシグマさんで隊列というほどのものではないけれど、どこから敵が来ても対処できるようにして歩み進める。

しばらくすると、獣道らしきものを発見した。それに沿って歩いていくと、幸運なことに川辺で水を飲んでいるシカンを発見した。

先頭にいたヤンさんが口に人差し指を立てて沈黙を指示する。
物音を立てないように全員が身を隠した。

シカンは俊敏で脚力もあるので捕まえるのは難しいと言われている。程ほどに柔らかい肉質で旨味のある食肉としては上等な獣だった。
しかも3頭もいる。ここで捕獲できれば当分は肉を獲りに来なくても良さそうなくらいだ。

どういう作戦で行けば良いのだろう。
そう思ってヤンさん達を見る。
ヤンさん達は行商で移動中たまに狩りをすることがあると言っていたので、ディルユリーネは全てお任せしていた。何も知らない素人が口を出すのは、プロからしたら邪魔でしかないし、上手くいくものもいかなくなる。
だから、どうするのかと思ってヤンさん達を見ていたら、瞳の端に何か動くモノをとらえた。

気になって視線を向けた先に、シカンに走り寄るジルヴァンの後ろ姿があって驚いた。

「っ────」

ジルヴァンの名前を叫びそうになって、すんでのところで何とか言葉を飲み込むことが出来た。

ジルヴァンは足音も立てずにシカンに近寄ると、何かをシカン達に投げつけた。
すると!
シカンの足と足がくっつくように動いたかと思うと、バランスを崩して倒れ込んだ。

(……、なんか見たことあるような気がする)

既視感を感じた。

3頭とも同じ状態で倒れた所に、ジルヴァンが近づき、持っていた剣でシカン達を仕留めた。

……………
………

瞬きをする間もないほどのあっという間の出来事だった。

ジルヴァン以外、驚きとあまりにも早い展開に動くことが出来なかった。

「俺達、いらなくね?」

ロロさんの口から無意識に出ただろう言葉に心の中で頷いた。

(ほんと、ありえない……こんなに簡単に捕まえられるものなの?)

あまりにも呆気なく今日の目的の物が瞳の前に転がっていて、現実として受け止めてもいいものか。いや、現実として受け止めるしかないのだけれど。
ディルユリーネは自覚なく動揺していた。

とりあえず1人で動くのは危険だとだけは言わないと、という思いが湧き上がる。
昨日も戦闘地に1人で突っ込んで行った。そのこともまだ注意出来ていなかったから。

「ヴァン、シカンを捕獲できたのは凄いけれど、1人で突っ込んで行くのは危ないよ? 何のために皆で来たと思っているの?」
「獲物を運ぶためだろ?」
「違うよ」
「じゃあ早く獲物を探すためか」
「それも違う」

勿論そういう要素はある。人数を集めたのはその意味合いもあった。けれど今はそれを言ってはいけない気がする。

「じゃあ、なんでだ?」
「危険を減らすためだよ」
「危険?」
「役割分担をして、誰も怪我をしないようにするため、安全に行うためだよ」
「だから儂がシカンを獲りに行っただろ?」
「なんでそこで『だから儂が』になるの!」
「儂、狩り得意だし。いつもあれくらい1人で獲ってるしな!」

得意そうに胸を張るジルヴァン。
少しもディルユリーネの言いたいことが伝わっていない。

「そういうことはもっと早く言わなきゃ駄目でしょう」

どうすればジルヴァンに分かってもらえるのか。

「まあまあ、ディル様も心配なだけですよね」

過熱するディルユリーネの気持ちを宥めるように、ルルメさんが割って入る。

「そうだな。ヴァンもディル様に心配かけちゃいけないぜ?」

シグマさんの言葉にジルヴァンは驚いたように瞳を見開いた。

「ディル、心配したのか?」
「しっ……、心配したに決まってるでしょうが!」
「そっか、すまんな」

素直に謝られて言葉に詰まった。
そう来られて、今まで昂ぶっていた気持ちが一瞬で落ちついた。
ディルユリーネもなんでこんなにも気持ちが昂ぶってしまったのか分からなかったけれど、ジルヴァンに言われたとおり心配したからなのだろう。

ジルヴァンの行動はとても無茶なことをしているように見えた。
命を危険に晒すことに怒りが湧いたのかもしれない。
命を粗末にするような行動が許せなかったのだろう。

だから、言い方がキツくなってしまった。
もっと命を大切にして欲しい。怪我だってして欲しくない。
ジルヴァンを見ていると、出来ると思ったから行ったのだと分かる。けれど何も知らないこちら側はヒヤヒヤして、動揺して心配してしまう。
それをジルヴァンに分かって欲しかった。



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