なんだ、このハチャメチャな奴は

神栖 蒼華

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16 食材調達 Ⅲ

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「さて、ディル様。思っていたよりも早く獲物を確保出来ましたが、どうしますか?」

ヤンさんの冷静な声に、ジルヴァンだけに意識を向けていたことに気ずき、気まずくなった。
ディルユリーネがお願いして協力してくれた人達の事を、一瞬でも忘れてしまったことに深く反省しなければならなかった。
今回の狩りの責任者はディルユリーネである。みんなの安全を守り、動向を確認して、任務を達成しなければならない。
それなのに1人のことだけに意識をとられたのはディルユリーネの失敗だった。

「目的の物は確保出来ました。あとはキノコや野草を採取して帰りたいと思います」
「分かりました。シカンは私達3人で担ぎます」
「宜しくお願いします」

ジルヴァンよりも体格の良いヤンさん達に運ぶのを任せる。

「ルルメさん、キノコや野草が取れる場所はここから遠い所にありますか?」
「ここから帰る道沿いの少しだけ道を外れた所に、いつも採取している場所があります」
「そうですか。では帰る途中で寄って行きましょう」
「分かりました。ご案内します」

ルルメさんに頷いて返すと、ディルユリーネはシカンの側に近寄る。
そしてシカンの傍らに跪き、手を合わせた。

(命をいただきます)

祈りを捧げ、視線を上げるとジルヴァン以外のみんなが驚いたように見ていた。──ジルヴァンは嬉しそうに笑っていたけれど。
みんなのその視線が鋭く突き刺さるように感じられて怯んだ。

「…な、何でしょうか?」

ディルユリーネの怯えに、ハッとしたようにみんなが笑顔を浮かべる。

「いえ、それでは参りましょうか」
「そうですね」

ぎこちない笑いを浮かべるヤンさんやルルメさんに違和感を感じる。けれど、さっと動き始めたみんなに僅かな違和感はうやむやになった。


   □□□

ヤンはシカンを肩に担ぎ、先頭で歩き始めた。
それに続くように、ルルメさんが横に並び、その後ろをシカンを担いだロロとシグマ殿が続く。
後ろからついてくるディル様を感じながら、口の端に浮かぶ笑みを抑えられなかった。

ヤンは貴族であるディル様がまさか食材である獣に祈りを捧げるとは思っておらず、驚愕していた。
貴族という階級の者は、誰かに感謝を捧げることをしないというのが平民の常識だった。平民を同じ人間とも思っていないような態度をとるのが当たり前で、だから獣に祈りを捧げている姿を見て驚いてしまったことをディル様は知るよしもないだろう。

ヤンが所属しているココエラ商会はヒュドネスクラ国の敵兵に荷馬車を襲われた。何とか商品は守ることが出来たが、旅を続けるには難しい深傷を負ってしまった。町で怪我が回復するのを待っていた間、駐屯地に治癒魔法を使う者がいると聞き及んだ。
俺達は治癒魔法を目当てに駐屯地に潜り込んだのだが、幸運なことに人柄の良いディル様に出会えた。
これならば頼み込めば、治癒魔法を使う者に仲介してもらえるかもしれない。治癒魔法を使う者は無償で治してくれるほど人が良いみたいだし、俺達の持っている商品や金銭を支払うと伝えれば、もしかしたら治癒魔法を使ってもらえるかもしれなかった。
 
直接治癒魔法を受けた町の者達は決して治癒魔法を使った者の特徴を教えてくれることはなかったけれど、駐屯地にいることだけは聞き出せた。
その情報をくれたルルメさんが駐屯地に押しかけるというので便乗させて貰うことになり今に至る。

俺達は運が良い。
メッツァー隊長と呼ばれていた騎士は典型的な貴族階級の者のようだったけれど、今一緒にいるディル様とマルロ部隊長殿は話の分かる人のようだったから。
メッツァー隊長のような典型的な貴族だけしかいないような駐屯地でなくて本当に良かった。
貴族に嫌気がさしていた俺達は、それでも商売柄貴族を相手にしなければならなかった。
苦汁をなめたことなど数え切れないほどだった。
そんな中出逢えた稀有な人柄の良い貴族階級の者に当たったことに嬉しくなる。

治癒魔法とは別に、人柄の良いディル様とマルロ部隊長殿に、今後も付き合いが続けられるように縁を結べたらいいと思った。

   □□□


「ディル様、こちらです」

ルルメさんの案内で辿り着いた場所は森が少しひらけた場所だった。
陽の光が降り注いで、草木が光り輝いている。

「ディル様、これが味が一番いいと言われているシイケタシです。たくさん採っていきましょう」
「そうですね」

ルルメさんに示されるまま、シイケタシを採っては籠に入れていく。

「おっ! これ、すげえ旨いキノコじゃん! へえー、シイケタシっていうのか!」

その側でジルヴァンがルルメさんの手にしているシイケタシを見て感心していた。そしてキノコ採取を楽しそうに始める。

「ヴァン、あまり遠くに行かないようにね」
「おう」

キノコ採取に熱中してあまり聞いてなさそうな生返事に不安になる。

「ディル様、私が見てますよ」

ヤンさんが助け船を申し出てくれた。

「ですが……」
「私は今は見ているだけですから、構いません。お任せください」
「分かりました。お願いします」
「はい」

ジルヴァンをひとりにしておくと、何をしでかすか分からない不安がある。
だから、目を離さないようにつきっきりで見ているしかないのだが、それだとしなければいけない事が出来ない。
ここはヤンさんの申し出をありがたく受け、出来るだけ早く終わらせることにしなければならないと思った。
一度ジルヴァンを確認して、ルルメさんに向き直る。
するとルルメさんは新たな野草を手にしていた。

「そしてこれが肉料理に欠かせない臭み消しの香草です」

見ると、細い枝に細い葉が付いている、どう見ても雑草にしか見えないものだった。
ルルメさんに説明されなければ、絶対に分からないと思う。

「ルルメさんは物知りですね」
「まあ、ディル様。必然的に知っているだけですよ」

鈴を鳴らしたかように可愛らしく笑うルルメさん。

(とても可愛らしい女性ひと……)

謙虚に微笑むだけのルルメさんに好感が持てる。
こんなに可愛らしい女性ひとはメッツァー隊長に狙われるに決まっている。ジルヴァンとは違う意味で心配なルルメさんを頑張って守らなければ、と心の中で改めて決意した。

ルルメさんに説明されているうちに、籠がいっぱいになるくらい採れた。

「そろそろ良さそうですね」

ジルヴァンとルルメさん、ディルユリーネの3人で採取していたため、そんなに時間がかからずに採ることが出来た。

「それでは帰りましょう」
「はい」

ルルメさんの元気な返事に疲れも吹き飛んだ。
まだそんなに疲れるようなことはしてはいないけれど……。気分的に癒し効果があった。





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