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本編
奴は美貌の変態執事
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サラには、ささやかな夢がある。
最愛の主人にして友人、リリアーヌの幸せな結婚生活を支え、やがて生まれる彼女の子どもたち(予定)の養育に尽力。晩年で体にガタが来たら引退し、こぢんまりした家で可愛い犬とのんびり余生を過ごす――――名付けて『気ままなおひとり様人生計画』。
諸事情により男に苦手意識をもっているサラは、自分の結婚について全く夢を見られなかった。男など、稼ぎが増えれば浮気をするし、独身だと息をするように偽をついて無垢な乙女を食い散らかすケダモノばかり。挙句、別れ話を切り出せば「お固い女はこれだから」とか「不倫は男の嗜みだよ」とか吐かしやがる。何が嗜みだ。サラからすれば、不倫も浮気も最低の行いだ。特に、結婚しておきながら外に愛人を囲うような屑は総じてもげ落ちる呪いにかかればいい。………まぁ、そうではない男も、きっと世の中にはいるだろうが。
でも、そんな男にはこれっぽっちも縁がない。
「この人いいなぁ」と思っていたら既婚者。「優しい人だなぁ」と思っていたら妻帯者。「ずっと一緒にいたい」と告白した相手は田舎から出稼ぎ中。
それに関しては元同僚曰く、手に職をつけバリバリ働くサラは『金の世話がいらない女』であり『出先の愛人』にするにはもってこいなのだそうだ。(飲みの席でサラに対しそう得意気に演説したソイツは、他ならぬサラに腹パンされ床に沈んだ)
数多の恋を経て、サラはついに悟ったのだ。……『結婚に夢は見ない』『自分は男に頼らず強く生きていこう』と。
そんな男運のないサラだが、仕事に関しては順風満帆だった。新しい職場にも馴染めたし、穏やかな老後の為にこれからも頑張ろう!と決意を改にした矢先…………あの、変態野郎に、目をつけられたのである。
「マクシム・レイドン。ライル様付きの執事でございます。どうぞ宜しく」
主であるリリアーヌの嫁ぎ先…サラの新たな職場で、割と最初に引き合わされたのがこの男だった。あまりに美しい色彩と端正な容姿に内心驚愕したのを覚えている。しかし、逆上せ上がる心は冷静かつ迅速に鎮められた。『仕事に私情は(なるべく)持ち込まない』のが、彼女なりのポリシーだ。それに、ここまで度を越した美男なら女に不自由はないだろう。なんなら立食パーティーの一口サンドイッチばりにムシャムシャ食っているに違いない。すなわち、コイツは女の敵だ――――――サラは勝手にその美青年を心の『嫌い・苦手』カテゴリーに分別し、あくまでそつのない事務的な対応を心掛けた。
だが、あろうことかその塩対応が変態マクシムの心に火をつけた。
類まれなる美貌で、何もしなくても女がチヤホヤしてくれる環境に慣れきっていたマクシムには、サラの媚びない対応がとても新鮮で好ましく映ったらしい。どんな恋愛小説だ。チョロすぎるぞ、マクシム!そんな行き場のないモヤモヤを抱え、サラは主に頼まれていた特注サンドバッグを安全確認がてら連打していた。……まさにその時、サラに天啓が舞い降りた。
――――そうだ!媚びない態度が良かったのなら、あえてマクシムに媚びればいいのだ!そうすれば、「何だ、この女も他の奴らと同じだ」とか何とか言ってサラへの興味を失くすはず。さようなら粘着変態執事、こんにちは平和なおひとり様人生!サラは早速、その計画を実行に移した。
が、これがさらにいけなかった。
「サラ………貴女の目は本当に正直ですねぇ。まるで死んだ魚のようです」
それから数日、サラは粘着執事に媚びに媚び……心にもない台詞とブリっとした仕草を繰り返した。徹底して『マクシム様大好き!』というオーラを出しまくった。これで、ヤツはサラから手を引くはずだ。精神的に限界を迎えながらも、勝利を確信し油断していたサラを人気のない部屋に呼び出したマクシムは、扉を背に恍惚とした表情で言った。
「媚びれば私が興味を失うかと思いましたか?お馬鹿ですねぇ、可愛いサラ。貴女ごときの作り笑顔、この私が見破れないとでも?…………あぁああ何という目で私を見るのですか。最高でしたよこの数日間!媚びたくもない男に懸命に媚びる貴女の姿、内心では悪態をついているのに私に懐くその表情!ゾクゾクしますサラ!貴女のような頭が良いのに間抜けな女性は初めてだ!……一生そういう目で私を蔑んで良いから、お嫁に来なさい!」
滑らかな頬を染め、息を荒げながら壮絶な色気を振りまく美貌の変態がそこにいた。
……サラはとりあえず、気持ち悪かったので特注サンドバッグで鍛え上げた三連続パンチでマクシムを床に沈め、部屋の外へ逃げ出した。変態は蹲って「あぁあなんて新鮮な対応!やはり貴女は最高です!」と悦んでいた。実に気持ち悪い。
こうして、図らずもさらなる変態を呼び覚ましてしまったサラは…………同じ屋敷に住む変態に、常に追い回されるという、ハードかつノンピースフルな生活を強いられることになったのだ。
最愛の主人にして友人、リリアーヌの幸せな結婚生活を支え、やがて生まれる彼女の子どもたち(予定)の養育に尽力。晩年で体にガタが来たら引退し、こぢんまりした家で可愛い犬とのんびり余生を過ごす――――名付けて『気ままなおひとり様人生計画』。
諸事情により男に苦手意識をもっているサラは、自分の結婚について全く夢を見られなかった。男など、稼ぎが増えれば浮気をするし、独身だと息をするように偽をついて無垢な乙女を食い散らかすケダモノばかり。挙句、別れ話を切り出せば「お固い女はこれだから」とか「不倫は男の嗜みだよ」とか吐かしやがる。何が嗜みだ。サラからすれば、不倫も浮気も最低の行いだ。特に、結婚しておきながら外に愛人を囲うような屑は総じてもげ落ちる呪いにかかればいい。………まぁ、そうではない男も、きっと世の中にはいるだろうが。
でも、そんな男にはこれっぽっちも縁がない。
「この人いいなぁ」と思っていたら既婚者。「優しい人だなぁ」と思っていたら妻帯者。「ずっと一緒にいたい」と告白した相手は田舎から出稼ぎ中。
それに関しては元同僚曰く、手に職をつけバリバリ働くサラは『金の世話がいらない女』であり『出先の愛人』にするにはもってこいなのだそうだ。(飲みの席でサラに対しそう得意気に演説したソイツは、他ならぬサラに腹パンされ床に沈んだ)
数多の恋を経て、サラはついに悟ったのだ。……『結婚に夢は見ない』『自分は男に頼らず強く生きていこう』と。
そんな男運のないサラだが、仕事に関しては順風満帆だった。新しい職場にも馴染めたし、穏やかな老後の為にこれからも頑張ろう!と決意を改にした矢先…………あの、変態野郎に、目をつけられたのである。
「マクシム・レイドン。ライル様付きの執事でございます。どうぞ宜しく」
主であるリリアーヌの嫁ぎ先…サラの新たな職場で、割と最初に引き合わされたのがこの男だった。あまりに美しい色彩と端正な容姿に内心驚愕したのを覚えている。しかし、逆上せ上がる心は冷静かつ迅速に鎮められた。『仕事に私情は(なるべく)持ち込まない』のが、彼女なりのポリシーだ。それに、ここまで度を越した美男なら女に不自由はないだろう。なんなら立食パーティーの一口サンドイッチばりにムシャムシャ食っているに違いない。すなわち、コイツは女の敵だ――――――サラは勝手にその美青年を心の『嫌い・苦手』カテゴリーに分別し、あくまでそつのない事務的な対応を心掛けた。
だが、あろうことかその塩対応が変態マクシムの心に火をつけた。
類まれなる美貌で、何もしなくても女がチヤホヤしてくれる環境に慣れきっていたマクシムには、サラの媚びない対応がとても新鮮で好ましく映ったらしい。どんな恋愛小説だ。チョロすぎるぞ、マクシム!そんな行き場のないモヤモヤを抱え、サラは主に頼まれていた特注サンドバッグを安全確認がてら連打していた。……まさにその時、サラに天啓が舞い降りた。
――――そうだ!媚びない態度が良かったのなら、あえてマクシムに媚びればいいのだ!そうすれば、「何だ、この女も他の奴らと同じだ」とか何とか言ってサラへの興味を失くすはず。さようなら粘着変態執事、こんにちは平和なおひとり様人生!サラは早速、その計画を実行に移した。
が、これがさらにいけなかった。
「サラ………貴女の目は本当に正直ですねぇ。まるで死んだ魚のようです」
それから数日、サラは粘着執事に媚びに媚び……心にもない台詞とブリっとした仕草を繰り返した。徹底して『マクシム様大好き!』というオーラを出しまくった。これで、ヤツはサラから手を引くはずだ。精神的に限界を迎えながらも、勝利を確信し油断していたサラを人気のない部屋に呼び出したマクシムは、扉を背に恍惚とした表情で言った。
「媚びれば私が興味を失うかと思いましたか?お馬鹿ですねぇ、可愛いサラ。貴女ごときの作り笑顔、この私が見破れないとでも?…………あぁああ何という目で私を見るのですか。最高でしたよこの数日間!媚びたくもない男に懸命に媚びる貴女の姿、内心では悪態をついているのに私に懐くその表情!ゾクゾクしますサラ!貴女のような頭が良いのに間抜けな女性は初めてだ!……一生そういう目で私を蔑んで良いから、お嫁に来なさい!」
滑らかな頬を染め、息を荒げながら壮絶な色気を振りまく美貌の変態がそこにいた。
……サラはとりあえず、気持ち悪かったので特注サンドバッグで鍛え上げた三連続パンチでマクシムを床に沈め、部屋の外へ逃げ出した。変態は蹲って「あぁあなんて新鮮な対応!やはり貴女は最高です!」と悦んでいた。実に気持ち悪い。
こうして、図らずもさらなる変態を呼び覚ましてしまったサラは…………同じ屋敷に住む変態に、常に追い回されるという、ハードかつノンピースフルな生活を強いられることになったのだ。
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