少年少女の異世界英雄譚 ~ みんなで異世界を生き抜きます ~

エイスト

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第二章 街での日常

第十六話『冒険の支度』

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 カトレアさんの服屋を出たあと、僕らはセチアさんの雑貨屋へ向かった。
 全員分の装備が揃ったことだし、あとは生活必需品を揃えるくらいだ。

 必要になるのは、店で見かけた回復薬と保存食に調理器具などの生産系の道具一式…

 そうこう考えてると、グゥと腹の虫が聞こえた。振り向くとジニアが腹をさすっていた。

「あはは、ずっと歩いてたから腹減っちゃった。」

 すると、ジニアが言ったのと同時に二人、三人と腹の虫が鳴った。

「…よしみんな。そろそろ食事でもしようか。」

 日も傾いてきたことだし、ちょっと屋台にでも寄って軽い食事でもしよう。

「そうしよう!」

「お腹ぺこぺこだよ。」

「でも夕食もありますから、軽い食事にしておきましょうか。」

 そういうわけで、僕たちはセチアさんの店に行く前に屋台に寄った。

 屋台には串焼きや焼き魚、ジュースにお酒などと色んなのがある。

「それじゃあみんな、一人銀貨三枚で食べたいものを買うようにね。夕食もあるから食べすぎないように気をつけるように。」

「「はーい/分かりました/了解。」」

 僕はみんなに銀貨を三枚ずつ渡しておく。みんなの意見で、お金の管理は僕に任せられることになった。なんでも一番安全な金庫番だそうだ。
 ちなみに、今の僕らの財産は金貨67枚と銀貨が多少ある。
 一人一人に渡すから、残り金貨63枚といったところだ。

「よーし。俺はあの店だ。」

「僕はあそこ。」

「みんな、一人だけで動かないようにね。必ず複数人で行動するように。」

 冒険者ギルドのように絡まれる可能性もあるし、一人だけのときに誘拐されるかもしれない。
 最悪の場合、奴隷として売られることもあるだろう。こんな世界だし、奴隷制度が当たり前のようにあるのは当然だ。

「それじゃあウツギ、一緒に屋台を回るぞ。」

「オーケー。俺肉食いたい。」

「わ、私もジニアたちと回ろうかな。」

「俺も同行しよう。」

「それじゃあ私も。」

 そうして団体行動で屋台を回り始める。
 全員で二組になり、ジニア、ダリア、ウツギ、パチラ、アロエ、ザルビア、ストックの七人。僕とアザレアさん、ノバラ、デイジー、アーモンド、ガーベラの六人だ。

「そうだ。ノバラに言っておきたいことがあるんだ。」

「なんですか?」

 屋台で肉の焼き串とジュースを買って食べ歩きながらノバラに話しかける。

「パーティのことでなんだけどさ、ノバラにはメインリーダーでいてほしいんだ。」

「メインリーダー、ですか。」

 冒険者ギルドで受付から聞いたのだが、パーティではメインリーダーとサブリーダーという役割があるらしい。
 メインリーダーは主に、スケジュール管理やメンバーの体調管理、お金にアイテムの管理等をする。そしてサブリーダーはメインリーダーのアシストをする。

「ですが、それならエイストがメインリーダーに適してるのではありませんか?僕よりも社交性が高いですし、何より戦闘の時に、真っ先に僕らを先導してました。なのでメインリーダーはエイストがやるべきです」

 ノバラは自分では僕をメインリーダーに推してくる。ノバラは僕の方が自分より優ってると思ってるのだろう。

「君の言う通り、僕は社交性は高いと思ってるし、絡まれた時の対処もちゃんとできる。でも、僕がメインリーダーよりサブをやりたいんだ。それにノバラがメインだとパーティ的には利点がある。」

 メインリーダーはパーティを導くのはもちろんの事だが、パーティの品位、及び貫禄とかの基準にもなる。
 例えば、メインリーダーが熱血でやる気満々な場合は、そのパーティはやる気が高いのだと思われるし、おっとりとしててのんびりな性格なメインリーダーなら、そのパーティはのんびりとマイペースなんだなと思われる。
 つまり、メインリーダーによってそのパーティの雰囲気とかが周りから決められるということだ。
 仮に、メインリーダーがダメだとそのパーティもダメだという印象になるし、メインリーダーが悪さをすれば、そのパーティも悪い奴らが集まってるのだと思われる。

「僕は見た目がひどいとかボサボサ頭ってよく言われるからさ。仮に僕がメインリーダーだとチームの雰囲気が悪いんだと思われるかもしれないだろ。」

 先ほどもボルツさんとカトレアさんにボサボサ頭と言われたし、カトレアさんから見た目が悪いとも言われた。
 雰囲気からリーダーだと思ったとボルツさんから言われたけど、他の人が分かるかというと違ってくるだろう。「あんな奴がメインリーダーとか、あのパーティ大丈夫か?」と思われるのも嫌だし。
 自分のせいでパーティを悪く思われるのはごめんだ。

「なら身だしなみを整えればよろしいのでは?」

「うむ。エイスト殿なら必ずやカッコよき男子になれるでござるよ。」

 身だしなみを整える、か。でも正直、目立つような姿形にはなりたくないんだよな。

「別にカッコよくなりたいから見た目を良くしたいとは思ってないよ。それにさっきも言ったけど、僕はサブリーダーになりたいんだよ。」

「サブリーダー、ですか?」

 サブリーダーはいわば副リーダー、もしくは軍師的ポジションだ。メインリーダー、つまりノバラのサポートをするというのだ。
 表舞台はノバラに、裏舞台は僕が担当すると言ったほうが分かりやすいか。

「僕はあまり目立ちたくないんでね。目立つ位置をノバラに任せたいんだ。僕は影からみんなのサポートに徹したいんだ。」

 表ではノバラが僕たちパーティの印象を良くする代わりに、裏では僕がパーティに降りかかる火の粉を振り払う、といった感じか。

「なるほど。確かにエイストなら面倒ごとが起きても直ぐに対処できますしね。それに商談とかの腹の探り合いには得意でしょうし。」

「でしょ!だからさ、僕の代わりにメインリーダーになってほしいんだ。頼んでくれるかい。」

 ここまで言えばノバラも了承してくれるだろう。ノバラは腹の探り合いや化かし合いとかは苦手だろうし、そこら辺は僕の専門分野だ。

「…分かりました。では…」

「ちょっと待って!」

 突然、アザレアさんが話に入ってきた。

「ど、どうしたのアザレアさん。」

 いきなり話に入ってきたからビックリした。

「さっきからの話を聞いてて思ったんだけど、エイスト君また無茶をしようとしてるでしょ。」

 無茶?どういうことかさっぱりなんだが。

「一角兎に襲われそうになったときや、冒険者ギルドで襲われそうになったとき、エイスト君いつも無茶してたでしょ。」

 え~っと…あのときって、そんなに無茶してたとは思えないんだけど。

「でも今こうして五体満足だし怪我も治ってるけど。」

 そう言うとアザレアさんが僕の目の前に出て真剣な顔で向き合ってくる。

「そういうことじゃなくて、エイスト君が自分の体が傷ついてもいいっていうその考え方がダメなの!このままじゃエイスト君、いつ大怪我してもおかしくないよ!」

 アザレアさんの顔をよく見ると、目が潤んでいる。
 周りのみんなもアザレアさんの言ったことを聞いて沈んだ表情になってる。

 …きっとアザレアさんは、自分のせいで僕が傷ついてるのを後悔してるんだろう。
 そういう気持ちはよく分かる。
 僕、俺も昔それを痛いほど知ったからな。特に自分を守ってくれた人が亡くなれば尚更だ。

「…心配させてごめんね。でもね、僕はみんなに笑顔でいてほしいからさ。一人が傷ついたら悲しむし一人でも欠けたら余計悲しむ。」

「…でも、エイスト君には無茶して怪我してほしくないよ。」

「…君だって、大切な人が傷つきそうなのを見ると、庇いたくなるでしょ。それと同じだよ。」

 もし目の前で大切な友人や家族、恋人が危険な状況に出くわしたら助け出したくなる。
 つまりそういうことだ。
 
「それに、僕は傷ついても簡単にポックリ逝くほど弱くはないさ。人一倍根性あるし往生際の悪さは誰にも負けないよ。まぁジニアとウツギが僕との勉強会から逃げ回ることの往生際の悪さは向こうが少しだけ上だけど。」

 自分は大丈夫であることを言うついでに軽くジョークを混ぜてみた。人とのコミュニケーションでジョークを混ぜるのがいいと聞いたことがある。

「…ふふ、そうだね。」

「確かに二人の勉強嫌いはそう弱いものではないでござるな。」

「お主そこは断定するのか。」

 お!どうやらジョークが通じたようだ。
 やっぱり暗いよりも明るい方がいい。みんなには笑顔でいてほしいからな。

「でもアザレアさんの言う通り、これからは余り無茶をしないように心掛けるよ。」

「エイスト君…ありがとう。」

 なんだかむず痒いな。昔から僕ってこんなキャラだったっけ。
 でも、こうして笑顔を見れるなら、いいのかもな。



 そうしてみんなで屋台を回ってると、目の前から僕らを呼んでる声が聞こえてくる。

「おーい、みんなー!」

「あっ、ジニアたちだ。」

 人通りの中にジニアたちが見えた。
 見たところ全員いるようで、みんな無事のようだ。
 
「エイストたちはもう屋台は回り終えたか?俺たちは回り終えたぜ」

「ああ。こっちも回り終えたとこだよ。」

「そうか。それじゃセチアさんの店に行こうぜ。」

「ああ。行こう。」

 そうして僕らはセチアさんの店に向かって足を運んだ。



「…それじゃあセチアさん。これとこれと…あとこれも買います。」

 僕らは今セチアさんの店に来ている。店に着いたら、冒険に必要なものと使えそうな雑貨を選んでいる。

「これで最後、と。セチアさん、これ全部買います。」

「あらら、これまたすごい量を買うのね。」

 セチアさんが驚き困惑しているようだ。
 でもこうなっても仕方ない。必要になるものを買うと決めてたが、とにかく多い。
 大体買うものは…

・回復薬数種類分→水薬(ポーション)、丸薬(タブレット)、軟膏薬の三セット×13
・非常食(燻製肉、ドライフルーツ等)×13
・中古の調理器具一式×3
・中古の調合機材一式×3
・中古の細工道具×3
・釣り道具一式×5
・解体道具一式×13
…etc

 とりあえずこんなとこだ。もともと持ってた護身用ナイフは解体で使って、もう心許ない状態だ。ここまで使われてくれてありがとう、ナイフ。君たちのことは忘れない。

「しかしこの店、本当になんでもありますね。中古だけどまだ使える物もあって、懐が助かります。」

 まさか回復薬や調合機材もあるのは驚いた。普通なら薬屋か調合屋とかにあるんじゃないかと思ってたけど。

「私の知り合いで薬屋をやってるのがいてね。そこからもう使わなくなった機材や性能が低い回復薬を私が売ってるの。それと調理器具も私の知り合いからのでね。もう使わないのを売ってるのよ。」

 なるほど。ここが雑貨屋ならば、少し古くても使えるものを売ることができるというのか。なんか店が百円ショップに思えてきたのは気のせいか?

「そういえばここってモンスターの素材も売却できるんですか?馬車では素材と魔石を交換してもらいましたが。」

「できるよ。でも、できればそれ専門の店に売ってほしいわ。さらに物が増えすぎると置ける場所が無くなっちゃうから。」

 それは…確かに一理あるかも。正直この店の移動できるスペースが少し狭い。なんでもある代わりにスペースが狭くなると思うとちょっと居心地が悪い。
 それにモンスターの素材がそのまま置かれたままだと腐って異臭を放って最悪だ。
 …セチアさんの言う通り、モンスターの素材は素材買い取りの店に持っていこう。

「でもいいの?調合機材に調理器具はまだ使えるんだけど、中古で壊れやすくもあるのよ。」

「いえ、問題ありません。僕ら調合で回復薬を作ってみようと思ってますし。初心者にはちょうどいいものですよ。」

 新品を買うのを考えたけど、これ以上の出費は少し抑えたい。
 回復薬は自分で調合して薬代の節約をしたいし、料理も少し手の込んだものを作って食べたい。
 中古でも数ヶ月は持つだろうし、それまでにお金を貯めて新品を買う予定だ。

「そう…それじゃあ今から代金の計算をするわね。」

 そう言ってセチアさんは、商品一つ一つ見ながらぶつぶつと値段の計算をしていく。

「え~っと、回復薬三セット一つで青銅貨三枚で、…中古の商品はもとの値段の五~六割だから…。」

 すごいブツブツと真剣な顔で言ってる。今のセチアさんの脳内では商品の合計金額の計算をしてるようだ。

「…よし。これら全部で金貨11枚よ!」

 金貨11枚て!
 銀貨も合わせると金貨12枚相当ってところだな。もとの世界だと12万円になる。
 学生が持ってる大金じゃないな。まぁ今手元に金貨50枚以上あるんだけど。

「…でもみんなはお得意様だから、特別に金貨9枚にしておくわ。」

 なんと!
 これは…三割り引きってとこだな。でも三万円も得したのは嬉しい。
 ちなみに今の僕らの合計金額は、支払いを済ませて金貨54枚だ。まだまだお金はある。でも、お金の管理はちゃんとしておかないといけない。

「「ありがとうございます!」」

 セチアさんと知り合えたうえにお得意様として値引きしてくれたのはとても嬉しい。異世界でセチアさんと出会えたことに感謝だな。

「そうだ。これからみんな宿屋に行くのよね。良かったら私の知り合いが経営してるところを紹介しようかしら。」

「え!いいんですか。」

 セチアさんの知り合いには宿屋を経営してる人もいるのか。いや、人じゃなくて獣人種か、多分。

「アチェロスっていう、馬の獣人種の知り合いなのよ。騎兵ノ宿場っていう宿屋の店主で、他の街や村にも店舗拡大しているのよ。」

 他の街や村にもあるって、どこかのRPGのゲームでも似た施設があったような気が…。

「ちなみに一泊お一人様で銀貨一枚。食事付きと清拭も合わせると銀貨三枚になるわ。あと、団体で十人なら一泊銀貨七枚。食事付きと風呂も合わせると金貨二枚よ。」

 てことは僕たちだと、一泊金貨一枚。食事と風呂もなら金貨三枚程ってことか。合計三万円ってとこか。結構安いな。
 逆に安すぎて怪しすぎるんだけど…セチアさんの知り合いなら多分大丈夫…まぁ一応警戒はしておこう。

「分かりました。それじゃ今日はそこに泊まります。教えていただきありがとうございます。」

 そうして僕らは店を出てセチアさんの知り合いが営んでる宿屋に向かった。



「…いらっしゃい。団体でお泊まりか。」

 セチアさんの知り合いが営んでる騎兵ノ宿場に着いて、入ったら店の中の奥にカウンターで一人の男性が新聞みたいな記事を見ながら椅子に座ってた。
 よく見ると馬の耳や尻尾が見える。この馬のような男性がセチアさんの知り合い、アチェロスなんだろう。

「はい。あの、僕たちセチアさんにここを勧められた者なのですが。アチェロスさんですよね。」

 そう言うと、馬のような男性はこちらを見つめてきた。

「セチアに…。なるほど、お前らがそうか。」

 ?僕らのことを知ってるような口振りだな。

「お前らのことは防具屋と服屋から聞いた。あの三人のお得意様だってな。」

「あ、はい。今後とも贔屓させてもらうつもりです。」

 こちらとしては、人脈が欲しくてお得意様になってる。コネが多ければ色々と役立つし。

「そうかい。まぁ俺からすりゃあ新人冒険者を甘やかしてるようにしか聞こえないがな。お前ら全員で一泊するなら金貨一枚、食事と風呂付きなら金貨二枚と銀貨九枚だ。」

 そう言い終わると同時に、再び新聞のような記事に目を通す。
 なんか無愛想な人…いや獣人だな。なんかどこかの誰かに似ているような気がする。

「どうした?俺の顔に何かついてるのか。」

 おっと。ストックに気づかれたか。

「いやなんでも。それじゃあはい。」

 そう言って僕はお金をカウンターに置く。

「…それじゃあこれ、団体用の客部屋の鍵五つ。部屋にはベット三つな。」

 あれ?そういえば僕たち、男子七人女子六人で合計13人だよな。そうすると一部屋に一人ってことになるぞ!

「ねぇみんな。一部屋一人になるんだけど、誰か行きたい人いる?」

 ちょっとみんなに聞いてみよう。最悪僕が行こうと思うけど。

「うーん。俺は一部屋に三人がいいな。みんなで泊まって寝たいし。」

「私たち女子は六人だから、二部屋がいいな。」

 う~ん。これはやっぱり僕だけかな。
 まぁ部屋で色々とやりたいことあるし。
 そうして僕らはアチェロスさんから鍵を受け取り、それぞれ部屋に入って寛いだ。
 ちなみにそれぞれ、アザレアさん、アーモンド、ガーベラ。ダリア、アロエ、ザルビア。ジニアとパチラ、ウツギ。デイジーとノバラ、ストック。そして一部屋に僕だけと、それぞれの部屋に分かれた。



「さてと、それじゃあ調合をやってみますか。」

 僕は部屋に一人、セチアさんの店で買った調合器具で回復薬を作ってみる。
 材料は森や道端で採取した回復草だ。これをベースとして回復薬を作る。
 まず回復薬についてだが、セチアさんの店で買った水薬と丸薬、軟膏以外のもある。
 薬の種類は多いが、それぞれいろんな特徴がある。

 回復水薬は飲み薬などの液体薬で、身体中の傷や病気の治療に使われる。また、複合調合で色んな薬を作ることができる。
 丸薬は錠剤みたいなもので、液体薬と効果は同じくらいだが長期間の保存ができる。
 軟膏は塗り薬であり、一ヶ所に塗れば液体薬や丸薬より効果が高い。
 あと最後に散剤というのがあって、散剤は粉状で液体薬と丸薬と効果は同じだが早い効果があり、液体薬と同じく複合調合に使われる。

 そして今から作るのは丸薬と軟膏の二種類だ。この二つは水薬より作りやすいから試しに調合してみる。
 もとの世界では免許無しに薬を作るのは非合法だったけど、こっちの世界では免許無しに薬を作っても問題無いらしい。ただし、個人で使うのはいいけど販売するには薬師ギルドで申請許可がいるらしい。
 まぁ薬を売って買った人が死んだら、売った人に責任があるし仕方ないか。それにできた薬は自分が使うものだから、責任を負う必要はない。

「えーと、まずは薬研で薬草をすり潰してと。」

 そうして僕は調合作業をして、薬を作ってく。そして数分後、薬が完成した。

〈回復錠(微小) 品質:やや悪い→普通〉
〈回復軟膏(微小) 品質:悪い→やや悪い〉

 …まぁ最初はこんなものだろう。『調合』による効果で品質が上がった。
 回復薬が残ってるからもう一度作ってみよう。

〈回復錠(微小) 品質:やや良質→良質〉
〈回復軟膏(微小) 品質:普通→やや良質〉

 なんとか良質のとこまでいけた。お陰で回復草全部使い切ったけど。
 とりあえず品質が悪いのだけど吸収しておこう。

〈回復錠(微小)を吸収…スキル『薬効果増加(微弱)』を獲得しました。調合レシピを取得しました。
 回復軟膏(微小)を吸収…スキル『薬効果拡大(微弱)』を獲得しました。調合レシピを取得しました。〉

 おお!なんか役立ちそうなスキルが手に入った。薬の効果が増加するのと…拡大はイマイチ分からない。拡大は広がるってことだから、塗ったところ以外の傷にも薬の効果が広がるのだろうか。

 …試しに買った回復瓶も吸収しとくか。なにかまた役立ちそうなスキルが手に入るだろうし。

〈回復水薬(普通)を吸収…スキル『回復種類増加(小)』を獲得しました。調合レシピを取得しました。〉

 これは…多分傷だけを治療する以外にも、病気や風邪などにも効果が出るようにするスキルだろう。
 これは役に立つだろう。毒や麻痺などの複数の状態異常にかかっていても、薬を飲むだけでそれらを消すことができるのだから。

「やっぱり吸収しといて良かったな。さてと、そろそろ食事にするか。」

 そうして僕はみんなを呼び、食堂で夕食を食べた。みんなに吸収したことを話しながら夕食を食べる。
 するとウェイターが来て、全員分にジョッキが置かれた。これは頼んだ覚えがないのだが。

「誰か頼んだ?」

 すると、デイジーがジョッキに手を伸ばして手にした。

「拙者でござる。異世界に来たのなら、これを飲んでみたいと思ったで候う。」

 飲んでみたいて…勝手に注文しないでほしいな。
 そう思いながら僕もジョッキを手にして嗅いでみると、一発で分かった。これは酒だ。
 柑橘類の匂いがするから、果実酒とでもいったところか。

「アルコール度数は低めだから、一杯だけなら問題無いでござるよ。」

 度数が低くても年齢的にダメだと思うけど、この世界だと成人年齢が15だし、…問題無いか。

「モノは試しでござるよ。それでは皆のもの、互いに盃を交わそうではないか。」

 デイジーがジョッキを掲げる。一応支払いはみんなのお金からなんだけど。

「…デイジー、まずは勝手に注文したことに対する謝罪は無いのかい。」

 僕はちょっと怒った口調で言う。勝手なことをしたのだから少しは怒らなきゃ。

「えと…ごめんなさい。」

 デイジーからまともな謝罪が出てきた。いつもはござるや候うと言ってるけど、人に怒られたりするときはまともな口調になる。

 …反省してるようだしそろそろいいか。

「まぁ頼んじゃったモノは仕方ないし、試しに飲んでみようか。」

 そう言って僕はデイジーと同じくジョッキを掲げる。

「みんなもせっかくだし飲んでみよう。一杯だけ飲んでも明日に支障が出ないだろうしね。」

 まぁ人によっては酔いやすいのもいるけど。

「ま、まぁ一杯だけなら大丈夫ですよね。」

「自分が酔いやすいのかも分かりますしね。」

 そうしてみんなジョッキに手を伸ばす。
 そしてみんなで掲げたら一言宣言する。

「それじゃあみんな、今後とも頑張っていこう。乾杯!」

「「乾杯!」」

 こうして僕らは祝杯を上げた。異世界に来て一日目の終わりを示すように、今日を生き抜いたのを歓喜するように。
 僕らは今日生き抜いた。明日も頑張って生き抜こう。この世界で。
 余談だが、このあとお酒を追加して全員三杯飲んだとか。そのあと部屋に戻ろうとしたら、部屋の前にお湯が入った桶とタオルが置いてあった。どうやらこれで体を拭くようだ。お風呂に入りたいが、この世界で入浴というのは温泉か貴族のお風呂くらいのようだ。

「いつか温泉に入ってみたいな。」

 そんなわけで、異世界の温泉に入るのを夢見ながらベットの上で眠りについた。

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