3 / 5
ふしだらな狼と、二匹のネズミ
3 ※
しおりを挟む
❖
「つまらない……ああもう、つまらないったら!」
レネはそう叫ぶと、うつ伏せになって両足をバタバタさせた。
春の宵はうっすらと肌寒い。
森をそよいで平野に抜けていく風は、芽吹く前の固い蕾の香りと、冷たく澄んだ水の匂い、青々とした草の匂いをまとって、レネが横たわるシーツの端をゆらん、とそよがせた。
明日の朝には水車小屋を出て行くので、いつもならきっちりと端を折ってある白いシーツは寝台を覆っているだけだ。その上でレネが足をばたつかせるものだから、白いシーツにはさざ波のようにしわが寄ってしまった。
ユシウスはいつものの癖で、レネに見つからないように几帳面な仕草でシーツのしわを伸ばした。
「せっかくわたくしが捕まえてきてやったのに、貴方ときたら、ちっとも喜ばないなんて……ああ、つまらない!」
レネはぷりぷり怒っていた。いつもなら、ユシウスの手料理をたらふく食べた後のレネはご機嫌な猫のように扱いやすいのだ。優しく抱っこされ寝室に連れて来られて、やっとこれから自分がどうされるのかを思い出してじたばたする。だが今夜は……ユシウスの反応が期待通りでなかったので、高貴な猫、もとい魔法使い様はすっかりご機嫌斜めになってしまった。
あの後結局、ユシウスはレネの「遊び」の提案に乗らなかった……いや、乗れなかった。
レネの破天荒な挙動には慣れたと思っていたが、これは斜め上に予想外だった。
まさか昔の顔見知りが突然ネズミになって目の前に差し出されるとは思わなかったし、最愛のレネから笑顔で「さあ今から一緒にこれを虐めて遊びましょう」なんて誘われるとは……いろいろと思考が追いつかなかったのである。
レネに悪気が微塵もないのは雰囲気で分かった。ただ、ユシウスを喜ばせようと思ってしたことなのだろう。ユシウスは戸惑いながらも、レネの真心を疑うことだけはなかった。
レネの厚意を拒絶するのも忍びないし、かといって、目の前の「これ」をどう扱っていいのかもわからない。
ユシウスの頭の構造は人間よりもずっと単純に作られていて、レネと二人で暮らしている分にはそれで何の問題もないのだが、こんな風に前触れなく「予期せぬこと」が降りかかると、どうしていいか分からず困り果ててしまうのだった。
一方で、レネはせっかく用意した贈り物が不発に終わり憤然としている。一切興味を失くしたように、ネズミ籠は寝室の床の隅っこに放り投げられている。時折ガサゴソと音がする以外は、息を殺しているのか、鳴き声ひとつしなくなっていた。
レネは相変わらずごろりとうつ伏せになったまま、枕に顔を埋めてぶつくさ文句を垂れていた。
「わたくしの贈り物が気に入らないと? 何様なのですか、まったく。わたくしは、ただ……ただ喜んで貰おうと」
「レネ様、ごめんなさい……嬉しかったよ。だってレネ様が俺のためにしてくれたことなんだから」
言いながらレネの靴を脱がせると、床の上に綺麗にそろえて置いた。
自分も靴を脱いでから寝台に上がると、そろそろとレネの背後に這い寄った。
「ねえ、レネ様。どうやってあの連中を見つけたんですか? 今日行ったのはどこのお屋敷? 教えてください」
レネはツンと反対側を向いたまま返事をしない。
ユシウスは一生懸命ご機嫌を取ろうと必死になった。この家で過ごす最後の夜だというのに、レネに無視されたままなのは悲しすぎる。
ユシウスはレネに振り向いてもらえないのが、何より怖い。飽きて捨てられるのが、死に別れるよりもずっと辛い。
「レネ様ぁ。俺、レネ様が何をしてたか詳しく知りたいんです。大好きなレネ様が俺のいない時にどんな風に過ごしてたのか教えて? ねえ、いいでしょう?」
反応がない。ユシウスは腕を伸ばして、レネの白い服の上からすー、と背中をなぞった。ビクッとレネの身体が震え、横向きに伸ばした足の膝がきゅっと曲がった。
「レネ様、こっち向いて」
「……」
ユシウスはそのままつー、と指を下に下ろしていった。背骨をなぞり、腰骨の間……そして布越しに柔らかな肉の割れ目へと——。
「ユシウスっ! この色情狼!」
レネが勢いよく振り返り、ユシウスに向かって枕を投げつけた。乱れた髪の隙間から見えた顔は熟れた林檎のように真っ赤だ。
「あ、また言いいましたね。レネ様、その悪口気に入ったんですね」
「ふん、本当のことを言って何が悪いのです。恥ずかしくないのですか? この、ふしだら狼」
どうやら「なんとか狼」という言い方が気に入ったらしい。
ユシウスはレネが自分を見てくれたので嬉しくて尻尾をパタパタさせた。
「俺ばっかりそんな風に言うのは狡いですよ、レネ様」
抗議の意を込めてを込めてウー、と喉の奥で唸る。レネは冷たい一瞥を寄越した。
「ふしだらなのは貴方だけでしょう。いつもあんな、……いえ、何でもありません。とにかく、わたくしは貴方のように常に発情していませんから」
「だけど、……ならどうしてレネ様は俺とこういうことしてくれるの?」
くうくうと鼻にかかった鳴き声を出しながら、レネの喉を舌でべろりと舐めた。レネが首を竦める。
「こら、ユシウス」
「舐められるの好きですよね。俺も好き。レネ様の身体で俺が舐めてないところ、もうないですもんね」
あ、と小さな吐息がレネの唇から零れた。
「レネ様が俺のためにしてくれることは全部嬉しいです……あんなネズミのことはもう気にしないで放っておこう、ね? この家には俺とレネ様だけいればいいんだ……遊ぶなら俺と遊んでください。ね? 俺だけ構って、俺だけ見て。レネ様、レネ様」
「この……どうしようもない狼ですね、まったく……」
「レネ様といると、俺頭おかしくなっちゃんです……どうしたらいいですか、ねえ、レネ様、どうしたらいい?」
「煩いですね。わたくしが知るものですか……馬鹿」
熱に浮かされたようにレネの身体のあちこちに口づけ、吸い上げ、舐めていく。服の上から布を噛み、隙間に指を入れて引っ掻いた。上目遣いにレネを見て強請ると、レネは目元を赤く染めて怒ったように息を熱くしていた。
「服、脱がせてもいい? 邪魔だからいいですよね。早くレネ様に触りたい。ねえ、いい? いいでしょ、お願い、ちゃんといい子にするから」
はやくはやく、と服を噛んで引っ張る。
早く許可して。俺に差し出して。あなたのことぐちゃぐちゃにしても良いって、その口からちゃんと言って。
「ウー、ウー……」
唸り声をあげながら胸元に甘えるユシウスの頭を、レネが両手で抱いた。
「ほんとうに躾のなっていない狼ですね……こんなに甘えて。だらしないったらありません。わたくしでなければとっくに追い出されているところですよ。聞いているのですか?」
ユシウスの髪をかき混ぜるように撫で、ハァ、と湿った息を吐く。
「……もう、いいから、好きにしなさい」
念願のお許しが出た瞬間、ユシウスの双眸がギラリと光った。威嚇にも似た唸り声をあげて、歯を剥き、レネの両足を割って身体を押し付ける。
レネが口元を手で隠し、羞恥と期待の篭った目でユシウスを見つめると、ユシウスの頭の中は目の前の愛しい番を貪ることしか考えられなくなった。
❖
ユシウスは交尾の正しいやり方など知らない。本能のままにレネを求め、レネが少しでも反応したら絶対に見逃さず、宝を探り当てた盗賊のようにどこまでも深く掘って暴いていく。
レネの白い裸体に圧し掛かり、手でまさぐって揉んだり擽ったり時には引っ掻いたりつねったりしながら、無我夢中になって舐めて唾液で濡らしていく。
やがて「あ、……あ」と喘かな声を上げ始めたレネの唇にしゃぶりついて舌を差し込むと、ユシウスの勢いはさらに獰猛に、同時にねっとりと執拗になっていった。
レネの舌を捕まえてしゃぶりつくし、上顎も、舌の付け根も、夢中になって舐めまわす。その間、レネはろくに息継ぎもさせて貰えない。酸欠で頭がぼうっとなる。どうにか空気を吸おうと唇をずらそうとした瞬間、顔をユシウスの大きな手に挟まれて固定され、強引に大きく口を開けさせられたと思ったら、びちゃびちゃと舌を絡めとられ吸い上げられてしまう。
口内を蹂躙されている間、レネの足の間の窄まりにはユシウスの指が一本、二本、三本と入り込み、ばらばらに動いてかき混ぜたり、しこりのようなものをグリグリと圧し潰してくる。
小さなしこりを腹側に押されるたび、レネの緩く持ち上がったものからはたらたらと白っぽい粘液が垂れてきて、レネはわけもわからないままに、これからもっと大きな波が来るのを予感して震え出した。
ふいに、指が抜けていく。ぽかりと空いた隙間から、じわじわと痒みに似た感覚が広がっていった。
「ン、ふっ、……っ、は、あ」
歯茎をつついて、上唇と下唇を交互に甘噛みすると、レネの目がとろんとし「んう」と鼻にかかる声が漏れた。
ユシウスが唇を離した。
——ああ、これでやっと息ができる。
そう思った瞬間、ぬるぬるとした奥の窄みに熱い肉塊がぴちゅ、と触れた。
「あっ、だめ、ユシウス、お待ちなさいっ」
静止を拒むように、また唇が覆いかぶってきた。
いよいよ息ができなくなった時、ようやく解放される。レネはぷはっと息継ぎをして、涙目でぼうっと天井を見上げる。口の中をなぶられている間も、熱くて硬いものが脅すように尻のあわいに擦り付けられ、今にも入ってきてしまうのではないかと気が気ではなかった。
レネの舌は痺れて、唇は半開きになっている。口の端からはたらりと唾液がまるで涙のように伝い落ちた。
「レネ様、こっち見て。気持ちいい? ねえ、教えて。気持ちいいですか? 教えてくれたら、やめてあげるから、ね?」
言いながら、レネの白くすべすべした太腿を持ち上げ、角度を変えて、濡れた肉の奥にずちゅん、と腰を突き上げた。
「ああっ、あ、ユシ、だめっ、うごかないで、ひっ」
チカチカと、あまりの快感に瞼の裏に星が散った。はあ、はあ、と息を荒げ、ごくりと喉を上下させる。
汗の雫が、ぽたぽたとレネの平らな胸に落ちて弾ける。
視線の先に、ユシウスが大好きなものがあった。固く尖った紅い胸の粒だ。無我夢中でじゅうじゅうと吸いつく。
「……っ、うそ、嘘つきっ、あ、ああ、ひ、っいや」
「っは……レネ様に嘘は吐かないよ」
乳首に軽く歯を立て、舌で押しつぶしてから、もう一度舌をねじ込んで虐めた。慎ましかった先端が赤くなり、ぽってり腫れて、唾液で濡れている。濡れているのはレネの身体のあちこちもだ。どこもかしこも舐め尽されて、レネの体の隅々までユシウスの匂いが染みついている。えも言えぬ満足感が胸を満たしていく。
「や、奥、もうだ、めっ、……い、いつも、そう言って、あ、あ……おわらない、くせにっ」
だめと言われて、ユシウスは渋々胸の果実から口を離した。ここが駄目なら、別の「奥」に入れてもらうしかない。
ふー、ふーと息を荒げ、ぎらついた目でレネの喉にかぶりつく。
「だってレネ様が可愛くて、きれいで、あったかくて、気持ちいいのが、いけないから!」
「ばかっ、わたくしのせいじゃなっ、……あ、んう、奥、だめって!……ああっ!」
レネの跳ねる腰を逃がさないよう押さえつけ、足を広げさせて、ぐじゅぐじゅに溶けたぬめりに押し入っていく。突いて、揺さぶって、腰を引く。温かい肉の壁が追いかけてきて、無数の手で離すまいとしてくるみたいに絡みついてくる。
「は、あ……レネさま、レネさまっ」
ずちゅ、ずちゅと体液が泡立つほど奥を擦られ、レネが泣き出した。
肉の襞がうねり、包まれて搾り取られる。狂いそうなほど、気持ちいい。
レネは白目を剝きそうになっていた。かは、と息を吐いて、ビクンと大きく痙攣したかと思うと、何度もびくびくと震えた。
「……あ、ああ」
快楽の波が止まらず、ひいてもすぐに次の波が来る。なすすべなく何度も押し寄せる快感に、レネの身体がぶるぶると痙攣し続けた。半開きの唇の端から唾液が垂れて喉を伝い落ちていく。
「レネ様っ、っく、ん……」
頭が真っ白になったのはユシウスも同時だった。熱いものを吐き出すと、レネが泣き濡れた目でユシウスを見つめ、ぼうっと、自身の薄い腹の上を撫でた。さっきまで泣き喘いでいた顔に、ユシウスはふらふらと口づける。
ちゅ、ちゅ、と子供じみた口付けをしていると、レネがよたよたと腕を上げ、ユシウスの頭を撫でてくれた。
「……すこし、やすみます」
「はい、レネ様が元気になるのを良い子にして待ってます」
ゆっくりと自身を引き抜いたユシウスが嬉しそうにパタパタと尻尾を振って、レネに腕枕をせがんだ。
「……」
力が入らない腕をユシウスに貸してやりながら、レネは心底げんなりした顔をした。
ユシウスが一度で満足してやめた試しなど、これまでなかった。
「つまらない……ああもう、つまらないったら!」
レネはそう叫ぶと、うつ伏せになって両足をバタバタさせた。
春の宵はうっすらと肌寒い。
森をそよいで平野に抜けていく風は、芽吹く前の固い蕾の香りと、冷たく澄んだ水の匂い、青々とした草の匂いをまとって、レネが横たわるシーツの端をゆらん、とそよがせた。
明日の朝には水車小屋を出て行くので、いつもならきっちりと端を折ってある白いシーツは寝台を覆っているだけだ。その上でレネが足をばたつかせるものだから、白いシーツにはさざ波のようにしわが寄ってしまった。
ユシウスはいつものの癖で、レネに見つからないように几帳面な仕草でシーツのしわを伸ばした。
「せっかくわたくしが捕まえてきてやったのに、貴方ときたら、ちっとも喜ばないなんて……ああ、つまらない!」
レネはぷりぷり怒っていた。いつもなら、ユシウスの手料理をたらふく食べた後のレネはご機嫌な猫のように扱いやすいのだ。優しく抱っこされ寝室に連れて来られて、やっとこれから自分がどうされるのかを思い出してじたばたする。だが今夜は……ユシウスの反応が期待通りでなかったので、高貴な猫、もとい魔法使い様はすっかりご機嫌斜めになってしまった。
あの後結局、ユシウスはレネの「遊び」の提案に乗らなかった……いや、乗れなかった。
レネの破天荒な挙動には慣れたと思っていたが、これは斜め上に予想外だった。
まさか昔の顔見知りが突然ネズミになって目の前に差し出されるとは思わなかったし、最愛のレネから笑顔で「さあ今から一緒にこれを虐めて遊びましょう」なんて誘われるとは……いろいろと思考が追いつかなかったのである。
レネに悪気が微塵もないのは雰囲気で分かった。ただ、ユシウスを喜ばせようと思ってしたことなのだろう。ユシウスは戸惑いながらも、レネの真心を疑うことだけはなかった。
レネの厚意を拒絶するのも忍びないし、かといって、目の前の「これ」をどう扱っていいのかもわからない。
ユシウスの頭の構造は人間よりもずっと単純に作られていて、レネと二人で暮らしている分にはそれで何の問題もないのだが、こんな風に前触れなく「予期せぬこと」が降りかかると、どうしていいか分からず困り果ててしまうのだった。
一方で、レネはせっかく用意した贈り物が不発に終わり憤然としている。一切興味を失くしたように、ネズミ籠は寝室の床の隅っこに放り投げられている。時折ガサゴソと音がする以外は、息を殺しているのか、鳴き声ひとつしなくなっていた。
レネは相変わらずごろりとうつ伏せになったまま、枕に顔を埋めてぶつくさ文句を垂れていた。
「わたくしの贈り物が気に入らないと? 何様なのですか、まったく。わたくしは、ただ……ただ喜んで貰おうと」
「レネ様、ごめんなさい……嬉しかったよ。だってレネ様が俺のためにしてくれたことなんだから」
言いながらレネの靴を脱がせると、床の上に綺麗にそろえて置いた。
自分も靴を脱いでから寝台に上がると、そろそろとレネの背後に這い寄った。
「ねえ、レネ様。どうやってあの連中を見つけたんですか? 今日行ったのはどこのお屋敷? 教えてください」
レネはツンと反対側を向いたまま返事をしない。
ユシウスは一生懸命ご機嫌を取ろうと必死になった。この家で過ごす最後の夜だというのに、レネに無視されたままなのは悲しすぎる。
ユシウスはレネに振り向いてもらえないのが、何より怖い。飽きて捨てられるのが、死に別れるよりもずっと辛い。
「レネ様ぁ。俺、レネ様が何をしてたか詳しく知りたいんです。大好きなレネ様が俺のいない時にどんな風に過ごしてたのか教えて? ねえ、いいでしょう?」
反応がない。ユシウスは腕を伸ばして、レネの白い服の上からすー、と背中をなぞった。ビクッとレネの身体が震え、横向きに伸ばした足の膝がきゅっと曲がった。
「レネ様、こっち向いて」
「……」
ユシウスはそのままつー、と指を下に下ろしていった。背骨をなぞり、腰骨の間……そして布越しに柔らかな肉の割れ目へと——。
「ユシウスっ! この色情狼!」
レネが勢いよく振り返り、ユシウスに向かって枕を投げつけた。乱れた髪の隙間から見えた顔は熟れた林檎のように真っ赤だ。
「あ、また言いいましたね。レネ様、その悪口気に入ったんですね」
「ふん、本当のことを言って何が悪いのです。恥ずかしくないのですか? この、ふしだら狼」
どうやら「なんとか狼」という言い方が気に入ったらしい。
ユシウスはレネが自分を見てくれたので嬉しくて尻尾をパタパタさせた。
「俺ばっかりそんな風に言うのは狡いですよ、レネ様」
抗議の意を込めてを込めてウー、と喉の奥で唸る。レネは冷たい一瞥を寄越した。
「ふしだらなのは貴方だけでしょう。いつもあんな、……いえ、何でもありません。とにかく、わたくしは貴方のように常に発情していませんから」
「だけど、……ならどうしてレネ様は俺とこういうことしてくれるの?」
くうくうと鼻にかかった鳴き声を出しながら、レネの喉を舌でべろりと舐めた。レネが首を竦める。
「こら、ユシウス」
「舐められるの好きですよね。俺も好き。レネ様の身体で俺が舐めてないところ、もうないですもんね」
あ、と小さな吐息がレネの唇から零れた。
「レネ様が俺のためにしてくれることは全部嬉しいです……あんなネズミのことはもう気にしないで放っておこう、ね? この家には俺とレネ様だけいればいいんだ……遊ぶなら俺と遊んでください。ね? 俺だけ構って、俺だけ見て。レネ様、レネ様」
「この……どうしようもない狼ですね、まったく……」
「レネ様といると、俺頭おかしくなっちゃんです……どうしたらいいですか、ねえ、レネ様、どうしたらいい?」
「煩いですね。わたくしが知るものですか……馬鹿」
熱に浮かされたようにレネの身体のあちこちに口づけ、吸い上げ、舐めていく。服の上から布を噛み、隙間に指を入れて引っ掻いた。上目遣いにレネを見て強請ると、レネは目元を赤く染めて怒ったように息を熱くしていた。
「服、脱がせてもいい? 邪魔だからいいですよね。早くレネ様に触りたい。ねえ、いい? いいでしょ、お願い、ちゃんといい子にするから」
はやくはやく、と服を噛んで引っ張る。
早く許可して。俺に差し出して。あなたのことぐちゃぐちゃにしても良いって、その口からちゃんと言って。
「ウー、ウー……」
唸り声をあげながら胸元に甘えるユシウスの頭を、レネが両手で抱いた。
「ほんとうに躾のなっていない狼ですね……こんなに甘えて。だらしないったらありません。わたくしでなければとっくに追い出されているところですよ。聞いているのですか?」
ユシウスの髪をかき混ぜるように撫で、ハァ、と湿った息を吐く。
「……もう、いいから、好きにしなさい」
念願のお許しが出た瞬間、ユシウスの双眸がギラリと光った。威嚇にも似た唸り声をあげて、歯を剥き、レネの両足を割って身体を押し付ける。
レネが口元を手で隠し、羞恥と期待の篭った目でユシウスを見つめると、ユシウスの頭の中は目の前の愛しい番を貪ることしか考えられなくなった。
❖
ユシウスは交尾の正しいやり方など知らない。本能のままにレネを求め、レネが少しでも反応したら絶対に見逃さず、宝を探り当てた盗賊のようにどこまでも深く掘って暴いていく。
レネの白い裸体に圧し掛かり、手でまさぐって揉んだり擽ったり時には引っ掻いたりつねったりしながら、無我夢中になって舐めて唾液で濡らしていく。
やがて「あ、……あ」と喘かな声を上げ始めたレネの唇にしゃぶりついて舌を差し込むと、ユシウスの勢いはさらに獰猛に、同時にねっとりと執拗になっていった。
レネの舌を捕まえてしゃぶりつくし、上顎も、舌の付け根も、夢中になって舐めまわす。その間、レネはろくに息継ぎもさせて貰えない。酸欠で頭がぼうっとなる。どうにか空気を吸おうと唇をずらそうとした瞬間、顔をユシウスの大きな手に挟まれて固定され、強引に大きく口を開けさせられたと思ったら、びちゃびちゃと舌を絡めとられ吸い上げられてしまう。
口内を蹂躙されている間、レネの足の間の窄まりにはユシウスの指が一本、二本、三本と入り込み、ばらばらに動いてかき混ぜたり、しこりのようなものをグリグリと圧し潰してくる。
小さなしこりを腹側に押されるたび、レネの緩く持ち上がったものからはたらたらと白っぽい粘液が垂れてきて、レネはわけもわからないままに、これからもっと大きな波が来るのを予感して震え出した。
ふいに、指が抜けていく。ぽかりと空いた隙間から、じわじわと痒みに似た感覚が広がっていった。
「ン、ふっ、……っ、は、あ」
歯茎をつついて、上唇と下唇を交互に甘噛みすると、レネの目がとろんとし「んう」と鼻にかかる声が漏れた。
ユシウスが唇を離した。
——ああ、これでやっと息ができる。
そう思った瞬間、ぬるぬるとした奥の窄みに熱い肉塊がぴちゅ、と触れた。
「あっ、だめ、ユシウス、お待ちなさいっ」
静止を拒むように、また唇が覆いかぶってきた。
いよいよ息ができなくなった時、ようやく解放される。レネはぷはっと息継ぎをして、涙目でぼうっと天井を見上げる。口の中をなぶられている間も、熱くて硬いものが脅すように尻のあわいに擦り付けられ、今にも入ってきてしまうのではないかと気が気ではなかった。
レネの舌は痺れて、唇は半開きになっている。口の端からはたらりと唾液がまるで涙のように伝い落ちた。
「レネ様、こっち見て。気持ちいい? ねえ、教えて。気持ちいいですか? 教えてくれたら、やめてあげるから、ね?」
言いながら、レネの白くすべすべした太腿を持ち上げ、角度を変えて、濡れた肉の奥にずちゅん、と腰を突き上げた。
「ああっ、あ、ユシ、だめっ、うごかないで、ひっ」
チカチカと、あまりの快感に瞼の裏に星が散った。はあ、はあ、と息を荒げ、ごくりと喉を上下させる。
汗の雫が、ぽたぽたとレネの平らな胸に落ちて弾ける。
視線の先に、ユシウスが大好きなものがあった。固く尖った紅い胸の粒だ。無我夢中でじゅうじゅうと吸いつく。
「……っ、うそ、嘘つきっ、あ、ああ、ひ、っいや」
「っは……レネ様に嘘は吐かないよ」
乳首に軽く歯を立て、舌で押しつぶしてから、もう一度舌をねじ込んで虐めた。慎ましかった先端が赤くなり、ぽってり腫れて、唾液で濡れている。濡れているのはレネの身体のあちこちもだ。どこもかしこも舐め尽されて、レネの体の隅々までユシウスの匂いが染みついている。えも言えぬ満足感が胸を満たしていく。
「や、奥、もうだ、めっ、……い、いつも、そう言って、あ、あ……おわらない、くせにっ」
だめと言われて、ユシウスは渋々胸の果実から口を離した。ここが駄目なら、別の「奥」に入れてもらうしかない。
ふー、ふーと息を荒げ、ぎらついた目でレネの喉にかぶりつく。
「だってレネ様が可愛くて、きれいで、あったかくて、気持ちいいのが、いけないから!」
「ばかっ、わたくしのせいじゃなっ、……あ、んう、奥、だめって!……ああっ!」
レネの跳ねる腰を逃がさないよう押さえつけ、足を広げさせて、ぐじゅぐじゅに溶けたぬめりに押し入っていく。突いて、揺さぶって、腰を引く。温かい肉の壁が追いかけてきて、無数の手で離すまいとしてくるみたいに絡みついてくる。
「は、あ……レネさま、レネさまっ」
ずちゅ、ずちゅと体液が泡立つほど奥を擦られ、レネが泣き出した。
肉の襞がうねり、包まれて搾り取られる。狂いそうなほど、気持ちいい。
レネは白目を剝きそうになっていた。かは、と息を吐いて、ビクンと大きく痙攣したかと思うと、何度もびくびくと震えた。
「……あ、ああ」
快楽の波が止まらず、ひいてもすぐに次の波が来る。なすすべなく何度も押し寄せる快感に、レネの身体がぶるぶると痙攣し続けた。半開きの唇の端から唾液が垂れて喉を伝い落ちていく。
「レネ様っ、っく、ん……」
頭が真っ白になったのはユシウスも同時だった。熱いものを吐き出すと、レネが泣き濡れた目でユシウスを見つめ、ぼうっと、自身の薄い腹の上を撫でた。さっきまで泣き喘いでいた顔に、ユシウスはふらふらと口づける。
ちゅ、ちゅ、と子供じみた口付けをしていると、レネがよたよたと腕を上げ、ユシウスの頭を撫でてくれた。
「……すこし、やすみます」
「はい、レネ様が元気になるのを良い子にして待ってます」
ゆっくりと自身を引き抜いたユシウスが嬉しそうにパタパタと尻尾を振って、レネに腕枕をせがんだ。
「……」
力が入らない腕をユシウスに貸してやりながら、レネは心底げんなりした顔をした。
ユシウスが一度で満足してやめた試しなど、これまでなかった。
13
あなたにおすすめの小説
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
王太子殿下は悪役令息のいいなり
一寸光陰
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」
そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。
しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!?
スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。
ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。
書き終わっているので完結保証です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる