【完結】追放された嫌われ魔法使いは、拾った毛玉を盲愛する

飛鳥えん

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世話焼き狼と、魔法使いだけが知っている夜【2】

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レネリウスが珍しく夜半に意識を覚醒させると、背後に温もりがあった。すっぽりと腕の中に仕舞われるように抱かれている。熱いくらいの体温が、冬の夜どれだけレネリウスを幸福で包んでくれるか、このでかい図体の狼は分かっているだろうか。
(子供の時はよく一緒に寝たりできたのに、大人になってからは、わたくしが寝ている時にだけ。業腹な……別にいいではありませんか、一緒に寝てくれたって。男と同衾が嫌だとか……?いや、さすがにそこそこ好かれているはずですが……好かれて、いますよね)
不安になって、ごろりと寝返りを打った。深い寝息が聞こえる。指先でそっとユシウスに触れた。寝ながらぴくぴく動いている耳、頬、鼻の先、顎。子供の頃、遠慮せずもっと触っておけばよかった。声変わりする前の声や、言ったこと、癖……全部覚えているが、顔の輪郭は成長につれてきっと変わっていることだろう。
(可愛い私のユシウス。こんなに甘やかしてもらえるなら、身体が弱る冬も悪くないですね)
二度寝しないでいよう。そうすればこのまま、ユシウスの体温を感じてぬくぬくしていられる。
(今晩はついてますね。そうだ、起きるまで寝息の数を数えてみましょうか)
自分の思い付きに楽しくなり、ふふ、と小さく笑うと、ユシウスがわずかに身じろいだ。慌てて口に手を当てる。
あぶない、あぶない。起きていると気づかれたら、レネリウスを残して出て行ってしまうに違いない。
ほっとして身体を摺り寄せると、何かが太腿に当たった。レネリウスは違和感に思わず下を向くが、当然何も見えない。
魔法使いに生来備わった勘のようなもので、目の前に岩があればわかるが、どんな色か材質かまでは分からない。
これは他人に説明しようとしても、なかなか理解してもらえない感覚だ。実際ユシウスも、レネリウスが本当は見えている、と思い込んでいた時期があったくらいだ。

なので、レネリウスはいつもと違うユシウスの身体の変化が気になった。固く持ち上がっているように思えるそれはユシウスの下半身辺り。レネリウスは自分の身体を思い浮かべ、途端に心配になった。
(ユシウス、あなた病気では……!?なぜそんな場所がこんなことにっ?ああ、どうしましょう、ええと、起こした方がっ……ああでもせっかく一緒に寝ているのに)
レネリウスは自分の頭をぶん殴りたくなった。
(そんなこと言って!もし本当に病気だったらどうするのです)
いやでも待てよ、と悪魔的ささやきが訴える。まずは触診してみて、明らかに異常があればユシウスを起こして詳しく診てやって、薬を調合してやるのがいいのでは?ユシウスだって冬ごもりの準備で疲れているだろうし。
そうだ。それがいい。決して自分本位な理由ではなく、ユシウスに余計な面倒を掛けないためにそうすべきだ。

そう決めると、さっそくゆっくりと下履きの紐を緩めた。家の中で過ごすゆったりした服装のまま、レネリウスを寝かしつけて自分もうっかり熟睡したのだろう。簡単に前をくつろげることが出来たので、慎重にその奥に手を伸ばした。
(本来でしたら相手の許可を取らず身体に触れてはいけませんが……傷つけるわけではないですし)
そこに触ると、ビクッとしてしまうほど熱い。ふに、と片手で触るが、大きくて重いせいで、うまいこと手の中におさまらない。
(これは……なんだかわたくしのと違うような……そもそもこんなに反り返っていて大きいなんて、やっぱりおかしい)
「う、……は、あ」
びくんと肩が震えた。苦しげな声はもちろんユシウスのものだ。そのまま固まっていると、仰向けになってしばらくもぞもぞしていたが、やがてまた寝息を立て始めた。
ほっと息を吐いた。それに仰向けになってくれたので、さっきより触りやすくなってありがたい。
気を取り直して、今度は両手をそれを包むようにして触った。根元から先端に向かって、慎重に少しづつ触って、怪我や異常がないか調べていく。
「っ、あ」
またユシウスが声を小さく呻いた。可哀想に、痛いのだろうか。正直、触っているだけでは何とも言えない。レネリウスはいたずらに痛みだけを与えてしまったと思うと、ユシウスに申し訳なくて胸の奥が痛くなった。
(駄目です、やっぱり起こして、本人にも話を聞きましょう……ごめんさないユシウス、わたくしが余計なことをして)
労わるようにもう一度、手の中の物を撫でた瞬間、それがぶるっと震えて、何かが勢いよくレネリウスの手を濡らした。
(え……?)
一瞬血かと思い心臓が止まりかけたが、違うようだ。粘ついているし、鼻に近づけると何とも言えない匂いがする。試しに少しだけ舐めてみると、えぐみがある。
ますます途方に暮れて、もう一度手を伸ばすとあることに気付いた。なんだかさっきまでと違う。
触ったそれはくにゃんと柔らかく……レネリウスのそれより大きいのはいいとして、変わったところはなくなっている。
(もしかして、治った?)
もしそうなら、こんなに安心なことはない。レネリウスは心配が大きかった分、安堵が胸を満たすとふぅ~と息を吐いた。
良かった。きっとさっきの液体が毒素で、出し切ったから元に戻ったのだろう。
自分は魔法使いだから毒にも強いが、舐めた時のあのひどいえぐ味も、説明が付けば納得だ。
(まったく……わたくしが隣で寝ていて良かったですね)
おかげで悪化する前にこうして助けてやれたのだから、大いに感謝して、これからはもっと一緒に寝て欲しいと頼むべきなのだ。
得意気にふんと鼻を鳴らし、レネリウスは足元の毛布を片足で引っ掻けて手繰り寄せた。ユシウスの胸に頬をくっつけて目を閉じる。

翌朝、ユシウスは朝の光の中で瞼を開き、ぼんやりと天井を見つめていた。
凄くいい夢を見た気がする。ユシウスの欲望が作り出したレネが、いつものようにしどけない姿で現れて、ユシウスは夢中になって好き勝手に彼を辱めてしまう。まるで初めての発情期に見た夢のようだ。あれは今思えば、さんざんだった。目が覚めた時の罪悪感といったら、レネに合わせる顔がなかった。
夢とはいえ、嫌がるレネを無理やり裸に剥いて、舐めて口づけて、噛んで、己の性器をこすり付けて腰を振る。見たことのないレネのそれも手で擦って口の中に頬張り、のたうつ太腿を押さえ込んで、小さな口から可哀想でかわいい悲鳴が……。

と、そこまで反芻してから、ユシウスは異変に気付いた。
(この天井、俺の部屋じゃない)
ハッとして起き上ると、肩に乗っていたレネの頭がずるっと滑り落ち、不機嫌な呻き声が聞こえた。
「んん~?」
ぎくしゃくと横を見ると、案の定レネが枕に顔を押し付け唸っている。
(昨日の夜、そのまま寝てたのか……しまった。完全に気が緩んでた)
発情してから、何度も夢の中でレネを襲っている身としては、同じ床に入るなんて彼に対する裏切り行為にしか思えない。
だから暖を欲するレネがいくら強請ってきても、断腸の思いで、朝までいることはしなかったのに。
寝台から這い出ようとした時、やけに下半身がスースーして、慌てて毛布を取り去った。
「な、んで履いてないんだよ」
思わず声が漏れた。正確には下履きを履いてはいたが、ずり下がって中身が空気にさらされている。
まさかと思いシーツを見るが、粗相をした形跡はない。
胸を撫でおろすが、この状態で朝までレネと密着して寝ていたなんで、空恐ろしい。
「れ、レネ様。ちょっといいですか?ごめんなさい、眠いですよね。ちょっとだけ起きてもらえます?」
「……っ、なんです、うるさい……ねずみにしますよ」
「寝ぼけてます?……あの、俺、昨日の夜、レネ様に変なこととか、してませんよね」
レネは自分が目隠しを付けていることを手で確認しているようだった。
「ちゃんと付いてますよ」
以前、ユシウスに見られて嫌がっていたレネを見て以来、寝る時も勝手に触らないようにしている。
「ん、変なこと?……ああ、ありました」
「なにを?俺、何をしたんですか?」
ユシウスは愕然として、レネの顔の傍で叫んでしまった。レネが両耳を押さえて寝返りを打った。
「うるさ……はあ。具合が悪そうにしてたから、わたくしが治療してあげました。すぐに治ったので心配いりません。感謝して……これからは、もっと……」
「レネ様?」
覗き込むと、すでに二度寝に入ってしまったようだ。気持ちよさげな寝息を立てている。こうなると駄目だ。放っておいたらお昼まで熟睡待ったなしである。

「治療って……いったいなにを」
ユシウスはのろのろと寝台から降りると、首を捻りながら、朝の支度をしに一階へ降りて行った。
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