6 / 6
都市国家ヴァルムス
養護院からの依頼③
音がした茂みから人影が現れた。一人、二人と身をかがめ息を潜めた様子で畑へと足を進めていく。その手には大きな袋が握られていた。
三人現れたところで畑にしゃがみ込むと袋から何かを取り出し、育った野菜を袋へと詰めていく。
犯人だ。
「アイツらッ」
「おい、あっち」
アランに言われ視線を向けると、建物の方へ向かう人影。その手には細長いバールのようなもの者が握られている。
「ッ!?」
あんな物一体なんに使うというのだ。
恐ろしい惨状が脳裏を過ぎり、瞬間、身を潜ませていた薮から飛び出していた。
「あ!?オイッ!ジーク!」
静止する声に、後先考えない悪い癖だと気付いた時には遅かった。少し離れた距離にいた犯人にも気づかれてしまう。
当然だ。本来犯人を捕まえるなら気づかれないよう距離を詰めるのがセオリーなのに。
「チッ!警備隊の奴らか!」
「おい、逃げるぞ!」
脱兎のごとく駆け始める犯人を見て養護院に被害がなかったことが唯一の救いだが、ここで犯人を逃がせばまた被害が出てしまうかもしれない。
「しまった!」
「焦りすぎだッ!とにかく追うぞ!アランは応援を!」
「隊長、犯人が逃げる!」
苦い顔をするジークを他所に、アランが走りながら耳に手を当てて話し始める。念話の異能力だ。
数少ない異能力者だが自警団内には数人所属しており、各々がその能力を遺憾無く発揮していた。
アランの能力もこの緊急時や潜入時の状況報告に重宝されている。
「ディータは畑を荒らしていたヤツらを!ジークは俺と一緒に施設を狙ったヤツらを追いかけるぞ!」
「わかった!」
「えー、俺一人かよ!」
「隊長たちがすぐ合流する。見失うなよ」
二手に別れた犯人を追いかけるが、相手もなかなか足が早い。しかも逃走経路も計画していたのだろう、迷いを見せることなく路地を曲がっていく。
いくつかの角を曲がると、視界に岩肌が見えた。
「アイツらもしかして!?」
「ヤバいな……このまま砂漠に逃げる気かもしれないッ」
砂漠に逃げられてしまえば見つけるのに苦労するだろう。その砂漠に出るまでに足場の悪い崖があるのだが、隠れる岩場が多いそこは犯罪者がよく逃げ込む場所でもある。
どちらにしても見失ってしまえば詰みだ。
それにもし砂漠に逃げられてしまったら──。
「アイツらが来る前に捕まえるぞッ」
「わかってる!」
アランも同じ考えのようで、見失わないよう必死だ。
息を切らしながら追うが、とうとう家屋が無くなり開けた場所へと踏み込んだ。もうこの先の岩場を抜ければ砂漠だ。
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります