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ラミア・サクラーティと呪いの子
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月日が過ぎ、10歳を迎えたアロイスは結局魔力鑑定の儀は受けさせて貰えなかった。当然のようにヨゼフはアロイスの元を訪ねもしない。
祝われた事などないからはっきりとした誕生日は知らない。だが、冬を過ぎた頃にこの小屋に来たのを覚えているため、その辺りが誕生日なのだろうと思っている。
ある日思い立ってメイドに話しかけてみたが、青ざめた顔をして「そんな事旦那様は考えてもないっ」と吐き捨て出ていった。
それ以来そのメイドを見かけていない。
11歳を迎えしばらく経った頃、屋敷の方が騒がしくなった。
なんだろうと僅かに扉を開いて見ると、門の外に馬車が見えた。時々来客があってるようだが、今日は何だか様子が違う。
風魔法で屋敷の会話を盗み聞く。時々聞いていて気づいたが、屋敷の様子を知りたいなら厨房が一番らしい。噂好きのメイドがよく話をしてはシェフに怒られている。効率よく情報を得るのに重宝するのは噂好きのメイドだ。
風魔法で厨房の会話に集中する。どうやら屋敷に少女を迎えたらしい。
もしや、と胸のざわつきを抑えつつ、アロイスは初めて小屋を抜け出した。
屋敷内の会話を聞きつつ、目的の声が聞こえる部屋をこっそりと覗く。窓から覗いた部屋は応接間のような造りで装飾を施されたソファとテーブルが並んでいた。
中年の男女と向き合うように少女が座っている。
ピンクの髪にオレンジの瞳。特徴的な外見に確信する。
間違いない。ヒロインのラミアだ。
子どもの頃引き取られたとゲームの冒頭で説明があったが、この時期だったのか。
アロイスは息を飲んだ。
本当にゲームの世界。そして目の前に居るのはそのヒロイン。
理解していると思っていたが、まだ完全に受け入れてはなかったのだと漸く気づいた。
「ラミア、今日からここが君の家だ。私の娘なのだから好きに過ごすといい」
中年の男性が優しい笑みでラミアに話しかける。
この男性が父であるヨゼフだと声を聞いて気づいた。
上背はそこそこだろうか。しかし座ったズボンにお腹が乗るのがわかるくらいにはふくよかだ。
「市井で暮らしてたなんて……男爵家に恥じないよう節度を持って生活してくださいね」
語尾が強くヨゼフに比べ冷たい態度をとる女性が母なのだろう。痩せていて神経質そうに見える。
どうやらラミアの事を心から歓迎はしていないようだ。
なんという名だっただろうか。メイド達は奥様としか呼んでなかったことに気づく。
「まぁまぁロジーナ……慣れない環境で困ったことがあればメイドに言いなさい。稀有な癒しの力を持つと鑑定の儀で言われたんだ、大切に育てないとな…」
意味深にロジーナへ目配せをしながらヨゼフが口角を上げた。
「はい!うまく癒しの力を使えるよう頑張ります!」
急な環境の変化にも戸惑うことなく、だが庇護を誘うような甘えた声でラミアが答える。どんな逆境にも負けない姿勢は如何にもヒロインらしい。
魔力鑑定の儀を受けたということは、10歳を迎えたという事だ。
一つ下の妹。しかもロジーナの態度を見るに不義の子なのだろう。そんな母を思うと少し複雑な気持ちになるのは母恋しさだろうか。
「きゃーーーっ!!!」
突然の悲鳴にビクッと肩を揺らす。一体何事かと悲鳴のする方へ視線を向ければ、それはアロイスのすぐ横からだ。
驚いた表情でアロイスを見つめ、腰を抜かすメイド。入れ替わりが多いのだろうか、初めて見る顔だ。
メイドの叫びを聞き、慌てた様子で屋敷から人が出て来た。
同時に閉められていた窓がガチャっと開く。そこには憤怒の表情を浮かべるヨゼフと、壁際に下がって青褪めた表情を見せるロジーナ、状況がわからず不審な目を向けるラミアの姿が映った。
「どうしてコレがこんな所にいるっ!」
カッと見開いた目を蔑むように変えアロイスを見下ろすと、ヨゼフは執事らしき壮年の男性に怒声を浴びせた。
「ソレを逃がすな!」
野次馬のように出てきた青年に命令すると、ヨゼフはいかにも怒り心頭といった足取りで扉の方へと向かっていく。
命令された青年はアロイスに対し恐怖の色を見せ、それでも主人の命に逆らうことも出来ないと戸惑いの表情で見下ろしている。
触れることは嫌悪するのだろう、ジリジリと距離を詰めるが抑えつけてまで捕まえる気はないらしい。どちらかと言えば早く主人が次の命を出さないかといった雰囲気だ。
「なぜこんな所にいるっ!」
漸く聞こえた声に青年はホッと息をつきながらも、アロイスが変な行動をしないかとまだ注視している。ここで逃がそうものなら大目玉を食らうのは青年だ。それはあまりに青年に申し訳ない。
しかし青年の身を案じるよりも重大なことがアロイスにはあったのだ。それに気づくのが一歩遅いと知ったのは背中に強烈な痛みを感じてからだった。
バシッと大きな音を立て痛みが走ったかと思うと、そこがジクジクとした灼熱感に変わる。一体何が起きたのかとヨゼフを見れば、その手には短鞭が握られていた。その鞭が高く掲げられると、勢いよく振り下ろされ、アロイスの背中を襲う。
そこで漸く鞭で叩かれたことに気づき、一気に全身に痛みが広がった。
「う゛っ…ァァァッ!!!」
ジクジクと痛むアロイスの薄い背に何度も鞭が振り下ろされる。拷問などしたことがないのだろう、ただただ力任せに振り下ろされる鞭はフラップだけでなく軸の部分すらしなりを忘れてアロイスの背を傷つけていく。
痛みに涙が止まらない。
「た、助けてっ!!ごめんなさい!ごめんなさいっ!!」
どうしてこんな目に遭うのか。
一体何をしたというのだ。
伸ばした手は無常に踏みつけられ、助けの言葉など誰にも届かない。皆、ただ傍観するばかりだ。
「た……けて…………ヴィ、ル」
掠れた声で呟く。届くはずがないと分かっているのに――。
開いた窓からピンクの髪が揺れた。
薄れていく意識の中、アロイスの耳に届いたのは矢張り「呪いの子」という言葉だった。
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