呪いの子と公爵令息

ゆら

文字の大きさ
5 / 26

ラミア・サクラーティと呪いの子

しおりを挟む
  
 5

 月日が過ぎ、10歳を迎えたアロイスは結局魔力鑑定の儀は受けさせて貰えなかった。当然のようにヨゼフはアロイスの元を訪ねもしない。
 祝われた事などないからはっきりとした誕生日は知らない。だが、冬を過ぎた頃にこの小屋に来たのを覚えているため、その辺りが誕生日なのだろうと思っている。
 ある日思い立ってメイドに話しかけてみたが、青ざめた顔をして「そんな事旦那様は考えてもないっ」と吐き捨て出ていった。
 それ以来そのメイドを見かけていない。

 11歳を迎えしばらく経った頃、屋敷の方が騒がしくなった。
 なんだろうと僅かに扉を開いて見ると、門の外に馬車が見えた。時々来客があってるようだが、今日は何だか様子が違う。
 風魔法で屋敷の会話を盗み聞く。時々聞いていて気づいたが、屋敷の様子を知りたいなら厨房が一番らしい。噂好きのメイドがよく話をしてはシェフに怒られている。効率よく情報を得るのに重宝するのは噂好きのメイドだ。
 風魔法で厨房の会話に集中する。どうやら屋敷に少女を迎えたらしい。
 もしや、と胸のざわつきを抑えつつ、アロイスは初めて小屋を抜け出した。
 屋敷内の会話を聞きつつ、目的の声が聞こえる部屋をこっそりと覗く。窓から覗いた部屋は応接間のような造りで装飾を施されたソファとテーブルが並んでいた。
 中年の男女と向き合うように少女が座っている。
 ピンクの髪にオレンジの瞳。特徴的な外見に確信する。
 間違いない。ヒロインのラミアだ。
 子どもの頃引き取られたとゲームの冒頭で説明があったが、この時期だったのか。
 アロイスは息を飲んだ。
 本当にゲームの世界。そして目の前に居るのはそのヒロイン。
 理解していると思っていたが、まだ完全に受け入れてはなかったのだと漸く気づいた。

「ラミア、今日からここが君の家だ。私の娘なのだから好きに過ごすといい」

 中年の男性が優しい笑みでラミアに話しかける。
 この男性が父であるヨゼフだと声を聞いて気づいた。
 上背はそこそこだろうか。しかし座ったズボンにお腹が乗るのがわかるくらいにはふくよかだ。

「市井で暮らしてたなんて……男爵家に恥じないよう節度を持って生活してくださいね」

 語尾が強くヨゼフに比べ冷たい態度をとる女性が母なのだろう。痩せていて神経質そうに見える。
 どうやらラミアの事を心から歓迎はしていないようだ。
 なんという名だっただろうか。メイド達は奥様としか呼んでなかったことに気づく。

「まぁまぁロジーナ……慣れない環境で困ったことがあればメイドに言いなさい。稀有な癒しの力を持つと鑑定の儀で言われたんだ、大切に育てないとな…」

 意味深にロジーナへ目配せをしながらヨゼフが口角を上げた。

「はい!うまく癒しの力を使えるよう頑張ります!」

 急な環境の変化にも戸惑うことなく、だが庇護を誘うような甘えた声でラミアが答える。どんな逆境にも負けない姿勢は如何にもヒロインらしい。
 魔力鑑定の儀を受けたということは、10歳を迎えたという事だ。
 一つ下の妹。しかもロジーナの態度を見るに不義の子なのだろう。そんな母を思うと少し複雑な気持ちになるのは母恋しさだろうか。

「きゃーーーっ!!!」

 突然の悲鳴にビクッと肩を揺らす。一体何事かと悲鳴のする方へ視線を向ければ、それはアロイスのすぐ横からだ。
 驚いた表情でアロイスを見つめ、腰を抜かすメイド。入れ替わりが多いのだろうか、初めて見る顔だ。
 メイドの叫びを聞き、慌てた様子で屋敷から人が出て来た。
 同時に閉められていた窓がガチャっと開く。そこには憤怒の表情を浮かべるヨゼフと、壁際に下がって青褪めた表情を見せるロジーナ、状況がわからず不審な目を向けるラミアの姿が映った。

「どうしてコレがこんな所にいるっ!」

 カッと見開いた目を蔑むように変えアロイスを見下ろすと、ヨゼフは執事らしき壮年の男性に怒声を浴びせた。

「ソレを逃がすな!」

 野次馬のように出てきた青年に命令すると、ヨゼフはいかにも怒り心頭といった足取りで扉の方へと向かっていく。
 命令された青年はアロイスに対し恐怖の色を見せ、それでも主人の命に逆らうことも出来ないと戸惑いの表情で見下ろしている。
 触れることは嫌悪するのだろう、ジリジリと距離を詰めるが抑えつけてまで捕まえる気はないらしい。どちらかと言えば早く主人が次の命を出さないかといった雰囲気だ。

「なぜこんな所にいるっ!」

 漸く聞こえた声に青年はホッと息をつきながらも、アロイスが変な行動をしないかとまだ注視している。ここで逃がそうものなら大目玉を食らうのは青年だ。それはあまりに青年に申し訳ない。
 しかし青年の身を案じるよりも重大なことがアロイスにはあったのだ。それに気づくのが一歩遅いと知ったのは背中に強烈な痛みを感じてからだった。
 バシッと大きな音を立て痛みが走ったかと思うと、そこがジクジクとした灼熱感に変わる。一体何が起きたのかとヨゼフを見れば、その手には短鞭が握られていた。その鞭が高く掲げられると、勢いよく振り下ろされ、アロイスの背中を襲う。
 そこで漸く鞭で叩かれたことに気づき、一気に全身に痛みが広がった。

「う゛っ…ァァァッ!!!」

 ジクジクと痛むアロイスの薄い背に何度も鞭が振り下ろされる。拷問などしたことがないのだろう、ただただ力任せに振り下ろされる鞭はフラップだけでなく軸の部分すらしなりを忘れてアロイスの背を傷つけていく。
 痛みに涙が止まらない。

「た、助けてっ!!ごめんなさい!ごめんなさいっ!!」

 どうしてこんな目に遭うのか。
 一体何をしたというのだ。
 伸ばした手は無常に踏みつけられ、助けの言葉など誰にも届かない。皆、ただ傍観するばかりだ。

「た……けて…………ヴィ、ル」

 掠れた声で呟く。届くはずがないと分かっているのに――。
 開いた窓からピンクの髪が揺れた。
 薄れていく意識の中、アロイスの耳に届いたのは矢張り「呪いの子」という言葉だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 現在番外編を連載中。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

処理中です...