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ノヴァーリス領
しおりを挟む「では、また夏季休暇が終わる前に伺います」
「ああ、待ってるよ」
「……行ってきます」
昨日の2人を思い出し、苦い気持ちを抱えながら馬車へと乗り込む。
馬車は街道を通り、山道を抜け、ノヴァーリス領へと向かった。
農村の多いアイル領から馬車で2日。
鉱山と国の守りを担う辺境伯領へと着いた。
「相変わらずの活気だな」
鉱夫が多くいる街は荒くれ者も多いが、活気に溢れている。
ならず者も少なからずいるが、辺境伯領はその役割柄騎士も多いため犯罪は少ないと有名だ。
昼夜問わず働く鉱夫のため、鉱山に近い酒場や飲食店は夜中でも開いている。隣国が攻めてこようものなら鉱夫ですら戦に参加表明するほど血気盛んだ。
最後にこの領地に来たのは10歳位だったと思う。
ノヴァーリス邸のバラの香りが濃く香ったのを覚えている。
毎年どちらかが領地を訪れていたが、バース性検査以降、ローレンツがアイル領を訪ねるようになったように思う。
王都に近いという理由だったが、もしかすると間違いが起こらないように配慮されていたのかもしれない。
今更ながらそんな考えに至ると、やはりローレンツから番として望まれていなかったのだと胸が痛んだ。
「……」
「ユーリ、どうした?」
「ううん、なんでもない」
結局、ルーサーとの話については聞けずじまい。
グダグダするのはらしくないが、聞いてしまえば現実に直面するしかなくなる。
覚悟していたつもりの現実が突然目の前に突きつけられると、こうも逃げたくなるものなのか。
向き合いたくない。しかしいつかは向き合わなくてはいけない現実。それはもう目の前にあるのだ。
握った拳はいつの間にか冷たくなっていた。
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