転生した世界で深愛に触れる

ゆら

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懐古と憧憬

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「ユーリ、花祭りに行こう」

 そう誘われたのはノヴァーリス領に来て2週間程過ぎた頃。早目にノヴァーリス領を出立しルーサーとの約束を守るため1週間程アイル領で過ごしていた時だった。
 花祭りが終われば直ぐに新学期となる。どうせ王都には戻らなければならないのだから、少しくらい楽しみがあってもいいだろう、と頷いた。
 あの日の事が無かったかのようにいつも通りに見えるローレンツだが、以前に比べると過保護になったようにも思える。
 王都へ向かう道中、甲斐甲斐しくするローレンツにユリウスは愁色を浮かべることしか出来なかった。



 去年の花祭りは楽しみすぎて寝不足になり、待ち切れない気持ちで会場へと向かう馬車に乗った。
 そんなことを思い返していると、馬車が会場近くの通りに着いた。
 着いた花祭りの会場。
 ローズ祭と書かれた看板は去年と同様、いや去年以上に華やかな花で彩られている。

「さぁユーリ、行こう」

 差し出された手に戸惑っていると、待ちきれないとばかりに掴まれてしまう。
 それをやんわりと握り返せば、嬉しそうに微笑み、上機嫌な様子で手を引かれる。
 そういえば去年もこんなやりとりあったな、と懐かしさに目を細めた。
 去年と違うのは、純粋に喜べないユリウスの心だけ。

「……ねぇ、ロー」
「どうした?何か欲しいものでもあったか?」

 どうしてあんな事したの。
 ローレンツの笑みを見て言いかけた言葉を飲み込む。
 今話すことじゃない。こんな所で話せる内容じゃない。
 ジッとローレンツを見つめていた目を伏せた。

「……ううん。何か食べたいなって」
「そういえば、果物しか食べてなかったな。何か食べたいものはあるか?」
「んー……」

 視線を動かす。去年は迷った末、確かハンドブロートを食べた。
 たっぷりのチーズとハムにマッシュルーム。それを美味しそうにペロリと平らげたローレンツは少年のようで、少し可愛かった。
 それを思い出し、クスッと笑う。ローレンツは不思議そうな顔を見せた。

「見てから決めていい?」
「もちろん」

 食べ物の屋台が集まる場所へと行くと美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってくる。それだけで少しテンションが上がってきた。

「わぁ……迷うな」

 ラーンゴシュにライべクーヘン、ブラートブルストにポメス。
 何がいいだろうかと見渡す。
 去年食べれなかったライべクーヘンもいいし、ラーンゴシュもチーズたっぷりの香りが堪らない。ブラートブルストは白パンに挟まれていて、まるでホットドッグのようだ。

「どれで迷ってるんだ?」
「ローが好きなのはラーンゴシュかブラートブルストだと思うんだけど、ライべクーヘンは去年食べてないし、食べ歩きならポメスもいいなぁって」
「他に甘いのはいいの?」
「んー……ワッフル食べたいかな」
「よし、じゃあ食べれるだけ食べよう」

 結局ラーンゴシュとライべクーヘン、それにポメスを買って分けながら食べた。
 レモネードを飲みながら祭りを散策すれば、その賑やかさに心が弾んでいく。
 足を進めれば露店が並ぶエリアに入った。
 去年はお揃いのバングルを買ったな、と思いながら手首に着けているそれをそっと撫でた。ローレンツの瞳を色に似たその石がキラリと光る。
 ローレンツの腕にも揃いのものを着けている。去年買ってから欠かさず着けられているのが嬉しい。
 いつまで着けてくれるだろうか。過ぎった考えに胸がチクリと痛くなった。
 ドライフラワーで飾られた露店。覗くと、押し花を使った雑貨が並べられている。
 その中のひとつに目がいった。花を閉じ込めたペーパーウェイト。

「そちらガラス製になります。普段使いでも、お部屋のインテリアとして飾って頂いてもいいですよ」

 にっこりと店主の女性が微笑んだ。

「いいなぁ」

 手の平サイズの丸いガラスの中に咲いたバラ。
 それを見て、ただ一生閉じ込めたい、そんなガラスの愛情を勝手に想像してしまう。
 束縛を望むようなそんな考えを言えるはずがない。
 偏愛に憧れを持っている訳では無いが、たった1人だけに全ての愛を注いでくれる、そんな愛情の方がユリウスは嬉しいと思ってしまった。

「それが欲しいのか?」

 羨ましげにペーパーウェイトを見つめ、自然と頷いていた。


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