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花束の意味
しおりを挟む花祭りで花束を貰ったオメガは一生愛を注がれ続ける――。
そんな言い伝えが本当かは知らないが、ロマンチストな父親が伝承に倣って花束を渡したという事は惚気話で散々聞かされた。そんな両親はいまだに仲睦まじい。
王立公園にあるバラ園。花祭りの日は無料で解放され、多くの人が集まる人気の場所だ。
そんなバラ園の中にあるベンチに腰かけ、ユリウスはカップルらしき人々が行き交うの姿をぼんやりと眺めていた。
晴れやかな空。
ローレンツはちょっと待っててと言い、どこかへ行ってしまったため一人物思いにふける。
今年も一緒に来れたことは嬉しいのに、愛人になるのかと思うと一気に心が曇天に覆われた。
さっきまで祭りを満喫していたのに、目の前に幸せそうな人々を目にしただけで自身の立場を思い知らされた気持ちになる。人と比べても仕方ないことなのに。
「悪い、待たせた」
「ううん、だいじょ、う……」
戻ってきたローレンツの声にいつの間にか地面に落としていた視線を上げ、パッと振り返った。
「ユーリ、これを受け取って欲しい 」
差し出された手には大きめの花束が握られている。
ぽかんと呆気にとられながらも反射的にそれを受け取った。
バラの花束だ。ノヴァーリス、セプタードアイルに包まれるように中央に真っ赤なグランデ・アモーレが1本。
ローレンツが俗伝を信じるタイプだとは思えない。ロマンチストというより、どちらかと言えばリアリスト寄りだ。この花束に深い意味はないとわかっていても、自然と口角が緩んでしまう。
ダメダメ、と心の中で叱責し、きゅっと緩んだ口角に力を入れた。
「ちゃんと、意味わかってるか?」
「…………え?」
花からローレンツへと顔を向ける。
意外にも真剣な眼差しに驚き、目を瞬かせた。
何でそんな真面目な顔してるの。
わかるのに解らない。
そんな視線を返す。
するとローレンツがユリウスの前に跪いた。
そしてそっと右手を掬うように握られる。
その所作をユリウスは他人事のように見ていた。
「俺の番になってくれ。ユーリは俺の運命の相手だ」
ローレンツの言葉に息を飲む。
意味を何度も頭の中で反芻し、心臓が大きく跳ねた事で漸く意味を理解した。
「う、運命って……今までそんな事ッ」
「伯爵との約束だったんだ」
有り得ないと口を開いたユリウスに対し、静かにローレンツが告げる。ユリウスは明らかに戸惑いの色を見せた。
「どういう事……?」
「初めて会った時からユーリの事が好きだった。……ユーリがオメガだとわかった時、すぐ婚約の申し込みをしたいと父を通して伝えたのだが、ルーサー様からの返事はユーリの気持ちを尊重したい、と……」
ローレンツは悔しそうに眉を顰め、地面を睨みつけている。
確かにルーサーは子供の頃からそういう意志を見せていた。オメガだことわかった頃からはそういう態度が顕著になったようにも思う。もしかするとオメガに対する風潮にどこか過保護になっていたのかもしれない。
「この前はユーリの気持ちを無視するような事をして悪かったと思っている。だが、他の人間を選ぶと考えただけで頭が真っ白になって……本当にすまない。ユーリは……俺の番になるのは嫌か?」
どこか寂しそうな、悲しそうな、ローレンツらしくない瞳に思わず声を上げた。
「嫌なわけッ」
知ってる、と小さく笑われてしまう。
ローレンツに対するこの気持ちはとっくにバレてしまっていたのだ。1人馬鹿みたいに足掻いていたことが恥ずかしくなる。
そういえば毎年この花祭りで花束をプレゼントされていた事を思い出す。
昔から、ローレンツは自分ことしか見ていなかった事に今更ながら気づき、ユリウスは顔が赤くなった。
「ユリウス・アイル……俺と結婚してくれ」
「ッ…………はい」
目頭が熱くなる。涙で滲む視界で、ローレンツが優しく微笑んだ。
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