不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

文字の大きさ
12 / 80

Sid.12 この世界で唯一の善意

しおりを挟む
 あいつらは先に脱出したのだろう。守衛が「救助隊と一緒に出て来た奴らの仲間か」なんて言ってる。

「置いて行かれたのか?」

 門衛が「仲間だろうに無責任な連中だな」と、少し憤慨気味に言っているが、探索者ではないと知れば扱いが粗雑になるからな。頷くでもなく適当に苦しむ姿を見せておく。
 あいつらも、この町の連中もどうでもいい。とにかく痛い。出血も酷いし左腕は動かないし。

「自力で歩けるか?」

 歩けないようなら二千ルンド支払えば、医院に蒸気自動車で連れて行ってやると。
 保険未加入の俺だと何をするにも金を取られる。已む無く断り自力で医院に向かうが、治療後しっかり治療費を請求された。
 しかも二万ルンドだ。日本円で三万円。手持ちの金が無いことで、なけなしの貯金から支払うことに。これで貯金はほぼ底を突いた。残高二千八百五十ルンド。
 一泊したら以降は文無し状態じゃないか。

 腕には包帯が巻かれ頬には絆創膏。それ以外にも切創や擦過傷が多数あったが、ひとつ治療する度に金を取られるから断った。
 とりあえず、あいつらが宿泊する宿に向かう。
 今日の報酬くらいは受け取らないと。食うにも困る状態だからな。それと魔石を渡す必要もある。俺が勝手に処分すると横領になってしまう。いや、スカラリウスが換金しようとしても相手にされないんだった。
 探索者以外は換金できないってのがルールらしい。

 治療は済んだが傷が塞がっただけで、寛解にすら至らないレベルの治療。加療士の能力ってのは、止血と傷口を塞ぐ程度。完治には程遠い。
 それでも医療器具を使わずに治療できるから、何かと重宝される存在ではある。応急処置程度なら加療士の誰でもできるからな。
 ファンタジーの治療魔法とも違うようだ。ファンタジーっぽい世界なのに、能力にやたら制限がある。

 クリストフの宿泊する宿に着き、部屋へ向かいドアをノックするが返事は無い。まだ帰って来ていないのか、どこかで治療しているのか。
 居ないとなると報酬は受け取れず、魔石を渡すこともできない。
 すでに歩く気力も乏しくなった。傷が痛むし出血も多かったようで、ふらふらするからな。

 それでも自分の宿泊先へ向かうも、途中で激しい疲労に見舞われ、路上に座り込んでしまう。
 背負ってる荷物の重さが堪える。捨てるわけにもいかず、持ち帰る必要があるからだ。この荷物はクリストフたちから預かってるわけで。粗末な扱いをすれば、あとで殴る蹴るの暴行を受けるのが目に見えてる。
 まじで捨てたい。

 通り掛かる人たちの目が、まるでゴミを見るかのようだ。見ないよう目を逸らす奴も多数。どいつもこいつも腐りきってる。
 大きな荷物を背負う人なんてのは、スカラリウスくらいしか居ないからな。誰もが蔑む職業であることは確かだ。
 日本もそうだったが建前上は、職業に貴賎なし、なんて綺麗事を抜かす奴は居た。でも実際には特定の職業は見下されていたからな。先進国と言っても差別意識は誰にでもあった。
 誰もが汚れない綺麗な仕事をしたがるし。ホワイトカラーの求人には殺到しても、ブルーカラーの仕事には人が集まらなかったからな。
 口先だけだ。

 疲れた。
 金もない。伝手もない。何ら能力もない。差別だけはしっかりされて。こんな世界でホームレスなんて、生きていくのすら無理だろうな。

 どのくらい時間が経過したのだろう。
 気付くとすっかり暗くなっていて、人通りも殆どなくなっている。町のガス灯の明かりだけが、仄かに路面を照らすだけ。
 腹が鳴る。
 くそ。生きているだけで腹が減る。死ねば空腹を感じることもないのか。

 冷たい。
 雨が降ってるのか。

 暗い夜空から滴る雨粒が体を冷やす。死ぬな、これ。
 ただでさえ体力を奪われている上に、ろくに休息も取れていないし、食事すら口にできていないのだから。
 短い人生だった。腹減ったし冷たいし寒いし。体温が急速に奪われるのが分かる。
 このまま寝てしまえば明日にも死んでるんだろうな。

 空腹が過ぎて気持ち悪さと腕の痛みで目が覚めた。
 だが体は思うようには動かない。視界の中に見慣れぬ天井がある。
 死んだわけじゃないのか。じゃあ、ここはどこだ? 町中で倒れていたとしても、誰かが親切に医院に担ぎ込むはずもない。金を払えない奴は患者ですらないのだから。例え瀕死の状態でも助ける人は居ない。未成年者以外は。それがこの世界だ。
 そうなると、ここは?

 視線を動かすと少しこじんまりした部屋だ。
 ベッドに寝かされているようで、室内には家具らしい家具もない。漆喰の壁に囲まれ木製の茶色いドアが見える。窓には白いカーテンが掛かり外光が柔らかく差し込む。
 やっぱりどこかの医院か?
 誰が担ぎ込むんだよ。金なんて一文足りとて払えないんだけど。

 ドアが開いた。
 入室する存在と目が合い、その人物が誰か理解すると「気付いたんだ。良かったぁ」と、安堵の表情を見せるのはデシリアだ。

「まさか路上で倒れてると思ってなくて」

 パーティーメンバーが町を移動中に見つけたようだ。
 体が冷え切っていて放置すれば、確実に死んでいただろうと。

「治療してあっても大怪我してるでしょ」

 せっかく包帯を巻いて止血しても、傷が開いていたのか出血していたそうだ。

「何があったのかリーダーが、探索者ギルドで確認してきたから」

 その件に関しては体が回復したらリーダーから直接話すそうで。
 今は体力回復と怪我の治療に専念して、と言われ「何か食べた方がいいよ。どうせ食べてないんでしょ」と、食事を用意するために部屋を出て行った。

 そうか、シルヴェバーリに拾われたのか。
 この町この世界でも唯一の善意。誰もが荷物持ちを差別し蔑む世界なのに、シルヴェバーリの人たちだけは親切だったんだ。
 銃と弾薬まで貸してくれたから。
 これだけ親切にされても何もお返しできない。

 部屋のドアがノックされるとデシリアが入ってきて「食事、しっかり摂って体力回復しないとね」とか言ってる。
 トレーに載せた食事をベッドサイドのテーブルに置き「じゃあ起き上がれるかな」と言われ、体を起こそうとするも、あちこち痛みが走るし。

「きつそうだね。起こしてあげるよ」

 そう言うと背中に腕を回し体を起こすデシリアだ。

「あ、包帯は替えておいたよ。それと開いた傷もうちの加療士が塞いだから」

 しっかり傷が塞がっているはずだから、もう開くことは無いと言う。
 腕のいい加療士が居て頼りになるとか。

 起こされて気付いたが、服が変わってる。

「あ」
「あ、そうだね。全身治療するのに服は邪魔になるから」

 悪いと思ったけど着ているものは全て脱がせたらしい。ぼろ布状態だったからと言うのもあるそうで。これは見られたか。
 デシリアを見ると「気にしなくていいのに、ってのは無理かあ」なんて言ってる。
 笑いながら「大丈夫、大事なとこは加療士しか見て無いから」だそうだ。少し照れた感じで「見ないようにして体拭いたからね」って、たぶん見てると思う。
 慰めになってるとは思わないけど、気を使ってくれたんだろう。

「なんかすみません。ありがとうございます」
「いいんだってば」
「でも、俺、何もお返しできません」
「それだけどね」

 とりあえず食事を済ませろと。
 そしてしっかり養生し体力が回復したら、今後のことを話そうと言う。今後のことはともかく。

「あ、えっとですね、荷物をクリストフに返却しないと」
「返しといたから」
「え」
「ちゃんと返却済み。心配しなくていいよ」

 何から何まで世話になりっ放しだ。

「あの、揉めませんでしたか?」
「問題無かったよ」

 あのクリストフが?
 あり得ないでしょ。絶対文句言って怒鳴り散らしていたはず。これも気を使っているのだろうな。今は体力の回復が先ってことで。
 余計な心配は回復次第ってことだろう。

 簡素ではあるが食事が済むと「ゆっくり休んで」と言われベッドに体を預ける。
 眠気が。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...