不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

文字の大きさ
52 / 80

Sid.52 積極性が必要と理解した

しおりを挟む
 感情を失う前に満たして欲しい、そう言うことなのだろう。
 何を?

 じっと上目遣いで見つめてるけど、腕を胸の前で組むから薄着だと、少々目立つ部位があって気恥ずかしい。
 一応男だし、もし俺の思っている通りなら願ってもないことだけど。

「あ、あの。俺、どうしたらいいのか、分かんないんです」
「え」
「え、あ、俺、経験無いですし」
「イグナーツって」

 デシリアの表情が冷めた感じになってる。なんか間違えたかもしれない。
 深いため息を吐き「勘違いさせちゃったかな」と言って「男子だから仕方ないと思うけど、やっぱり体が欲しいのかな」とか言われてしまった。
 失態だ。
 思っていたこととは違う。もっと精神的に満たすことであって、肉体的な欲求を満たすことは意味して無いんだ。
 ここは欲望が出てしまったことを謝った方が。

「ごめんなさい! 勝手に思い込んで」

 腰を九十度に曲げ頭を下げ謝罪してみるけど、何も言われないから頭を上げるのは暫し待ってみる。
 何ら反応は無いような。なんか全てに於いて間違えた対応だったかも。
 と思っていたら頭にそっと触れる手がある。

「何してるの?」
「えっと」
「謝らなくていいのに」

 いずれはそういう関係に至るだろうと。ただ、それは今ではないと言う。

「あのね、消せないくらいに思い出をたくさん作って」

 ひとりではできないことだから。

「魂に刻み込んでおけばいいんだよ」

 大切な思い出をたくさん。失うよりも多くの記憶で満たし、余裕を持っていれば自分の感情は無くならないと。
 消えた分は補完して行けばよいのだとも。
 頭に触れていた手に少し力が篭もると、強制的に頭を上げさせられ、デシリアの顔の位置まで上がるとキスされた。
 唇が離れると「期待しちゃったんだよね」と口にし「もう少しだけ待ってね」と言うと、頭から手を離し笑顔を見せる。

「誘ってよ」
「え」
「もう。イグナーツから誘ってくれないと」

 あ。
 デートに誘えってことか。デシリアから誘われても、俺からは誘ったことがない。
 俺のプランで二人の記憶と感情を満たす。もっと豊かにして簡単には消えないようにする。
 経験がとか自分に言い訳しないで、デシリアに向き合わないと駄目なんだ。
 魔法を使わせない、じゃなく失いきれないくらい、溢れる程に育て上げればいいんだよ。常に満たしておけば少しくらい魔法を使っても、きっとデシリアの気持ちは消えない。

「分かりました。次からは俺から誘います」
「あとね」

 ちょっと口をへの字にして「丁寧な言葉遣いは悪くないけど」と。

「主従関係があるみたいで距離を感じるから、普通に会話できないかな」

 お互い対等な関係であれば、丁寧な言葉遣いは要らないはずと言う。礼節は場所によって相手によって必要だが、恋人同士で畏まった態度は不要。自然な態度で接して欲しいと言う。俺という存在が見えないと感じるらしい。

「もう恋人同士だと思ってたんだけどな」

 畏まった態度や丁寧な言葉は、自分自身が格下と思っていたから。同格な存在には程遠い、そう思ってるからで。そうなると遜る必要がある。
 でも実際には上下関係なんて望んでなかったのがデシリア。
 今更直すのも難しく感じるけど、互いに距離を感じさせるなら、今の言葉や態度は良くないんだろう。

「えっと。じゃあ、デシリア。今度は俺が誘うからどこか行こうよ」
「うん。期待して待ってるよ」

 互いに近寄るとデシリアが腕を背中に回し、キスをしてくるけど離れると「これもね、イグナーツがもっと積極的に」と言われてしまう。
 俺からは何もしてないから。きっともどかしさがあったと思う。
 でも、こればかりは急にはできない。少しずつ積極的な行動を見せるしかないか。
 まだ勇気がないから。

 どうやら伝えることは伝えたようで、部屋を出るデシリアだけど「期待してたこと、イグナーツ次第だよ」と言って部屋を出て、そっとドアを閉じて行った。
 期待してたことって、あれ、だよね。勘違いとは言え期待してしまったわけで。でも、俺次第ってことは、やっぱり積極性だよな。
 女子を相手って何かと難しい。

 翌日、ダイニングに行くと椅子に腰掛けるデシリアと真っ先に目が合う。

「デシリア、おはよう」
「おはよ! イグナーツ」

 思い切って言ってみたら、笑顔が眩しいデシリアだな。でも周囲を見てみると微笑んでる。なんか揃って頷いて「良かった」だの「やっとか」とか「昨夜なんかあったな」って、何も無いんですが。
 デシリアを見ると否定しないし、にこにこ笑顔のままだ。

「あ、えっとみなさんもおはようございます」
「なんで俺たちには硬い挨拶なんだ?」
「え、でも」
「誰も気にしないぞ。もっと砕けていいんだからな」

 さすがに年齢が上すぎるから砕けた言葉遣いは無理。みんな尊敬すべき大先輩だから。人生に於いても探索者としても。
 でも、デシリアとの関係性を進展させるには、やっぱり距離を感じさせない方がいい。だからタメ口で接することにした。

 全員揃うと食事になりモルテンから、今後の予定に関して話があるようで。

「三十六階層以降は、重機関銃を入手してからにする」

 先に俺のじゃなくヴェイセルの重機関銃が仕上がる。そうしたら再度三十六階層に向かうようだ。ヴェイセルの銃は俺が持つけど、戦闘と同時に受け渡しとなると、少し練習が必要かもしれない。
 俺はともかくヴェイセルでも二十キロを、常に持って移動するのは無理だそうで。

「と言うことでだ、今日と明日は休みにする」

 各自、好きに行動してくれとなり、モルテンは妻と子の下に向かうそうだ。
 アルヴィンは武器の手入れののちに、町に繰り出し待たせている女性の下に向かうとか。
 ヴェイセルは銃の手入れを済ませ、明日は銃砲店に行くそうで。

「イグナーツ。悪いが明日は俺に付き合ってくれ」
「重機関銃の持ち帰りですね」
「本当ならデシリアと二人の時間を過ごさせたいんだが」

 デシリアは問題無し、として俺も同じと言うと「じゃあ遠慮なく借りるぞ」と言われた。
 ヘンリケは今日はのんびり過ごし、明日は掃除と洗濯をすると言う。

「ヘンリケさんって普段、何をしてるんですか?」
「編み物してるけど」
「え」
「あら、意外だった?」

 手先が器用なんだ。と思ってデシリアを見るとヘンリケが「デシリアはね、ガサツだから」とか言い出し「違うから」と否定してるし。

「あたしだってできるよ」
「指を通せない手袋でしょ」
「た、たまたま失敗しただけ」

 そうなんだ。指を通せない手袋って、なんかデシリアらしいのかも。でもガサツ、ではないと思う。実は凄く繊細な女子だと思うから。手先が器用かどうかはさて置いて。

「二人はどうするの?」
「えっと、出掛けようかなと思います」
「そう。じゃあ楽しんでらっしゃい」

 ヘンリケに見送られホームを出るけど、今まではデシリアが俺の手を取っていた。今回は俺からデシリアの手を取り、と思ったのに。

「あの」
「何?」
「なんでもない」

 早かった。俺の手を取る速度が。即座に繋がれ引っ張られる俺だったし。
 リードするには至らない。リードされてばっかりだ。

「自然体だよ」

 察したのか落胆した表情を見せたのか、そんなことを言うデシリアだった。
 でも繋がる手は心地良い。ずっとこうしていたい、なんて思わないけど。もっと先へなんて思うから。
 二人で町の中心部にある広場に行くと、広場中央には台座の上に立像がある。

「前から思ってたんだけど、あの立像って」

 疑問はあった。上はバラの花のようで、それが頭に見える。その下は松ぼっくり。さらに足に相当する部分は、幾重にも波打つ感じのプリーツ状のような、イカの足みたいな。
 松ぼっくりから生える複数の触手に見える何か。

「神様」
「え」
「抽象化してるけどね」

 デシリア曰く、頭は美を示し体は実りを示し、腕は全てを掴み取る。
 足は大地に根差すものである、と説明された。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...