不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.51 感情を失うならどうするか

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 寝袋に包まるデシリアだけど、こっちを見てるし。何か気になるし寝れないから、天井を見るなり背を向けるなりしてくれると。

「荷物増えると大変でしょ」
「少しなら」
「寝袋の大きいのがあればね」

 一緒に入れば間違いなく暖かいだろうとか言ってる。一緒ってのはテンション上がるけど、多分寝ることができなくなる。いろいろ気になるだろうし、触れたりしたらヤバいし。
 だから、その提案は無しで。惜しいと思うけど、さすがにラビリント内で盛っていられないでしょ。

「冗談だよ」

 ですよねぇ。
 とは言っても真顔で言ってたから、デシリアとしては体面を気にしなければ、それもありなのかもしれない。
 いやいや。都合の良い解釈はやめた方がいい。

「二人とも仲がいいのは分かるが、さっさと寝ろよ」
「そうね。一緒に入ればいいと思うけど、側で盛られてもね」
「ホームに帰ってからにしてくれ」
「無いから」

 まあお約束の揶揄いがあり否定するデシリアだ。
 その後、睡魔に見舞われ意識を手放したと思う。体が揺すられる感覚で目覚めると、凄く近い位置にデシリアの顔があり、笑顔で俺を見て「おはよ」と。
 軽く唇が触れ合うと「起きて支度しないと」と言われ、唇に余韻を感じながら起きて支度をする。

 朝食を軽く済ませると地上へ向け移動を開始する。
 三十四階層から三十一階層までは、昆虫系のモンスターの対処になり、多くは前衛が片付けて先へと進む。どうせ地上に戻るってことで、ヘンリケが聖法術まで使うし。
 そうなるとデシリアも「あたしに魔法使わせて」とか口にし、みんなに「やめとけ」と言われ仏頂面になってる。

「そんな簡単に感情なんて失わないよ」
「でも気遣ってくれてると思うんで」
「大丈夫なんだけどな」
「必要な時には遠慮なく頼ります」

 じゃあ召喚とか言うから、それは窮地に陥ったらと言っておく。

「前衛で簡単に倒せる相手に過剰だと思います」
「あたし、暇なんだけど」
「実力者は後方でのんびり構えるものです」
「こんな場所だから、せめて爽快感を得たいのに」

 得なくていいです。物騒すぎて寿命が縮まりかねないから。

「えっと、今度大道芸を一緒に見に行くんですよね」
「その予定だけど都合悪いの?」
「じゃなくて思いっきり羽を伸ばしましょう」
「そうだね」

 二十九階層から二十六階層へと移動し、難なくモンスターを迎え撃つ面々だ。
 銃に慣れてしまえと俺も戦闘に参加させられる。ライフルを構え狙いを定め撃つ。周りが優秀すぎるから苦労せずに倒せてしまう。
 己の実力を勘違いすることになりそうな。だからこそ、気を引き締めておかないと。前衛が撃ちやすいよう誘導してくれてるって。

 二十四階層から二十一階層まで来ると、さらに楽に感じてしまう。
 下層階に居るモンスターと対峙していると、上層階のモンスターの脅威度は低い。だから楽に感じてしまう。
 十六階層程度で苦戦していたのが嘘のようだ。

「もう慣れたね」
「まだまだです」
「謙虚だなあ」
「死にたくないんで」

 増長すればクリストフと同じことになる。あの連中を反面教師としておけば、増長して舞い上がることも無いだろう。
 あくまで優秀なパーティーに居るから、楽に攻略できるのだと。
 今後、深い階層に向かえば、苦戦し捲るのは目に見えてるし。

 楽に感じさせる戦闘を熟し地上に戻ると、戦果である魔石や宝石をモルテンに渡しておく。

「探索者ギルドがなあ」
「スカラリウスだと換金させてくれないからな」
「どうせだ、探索者に転向するか?」
「無理です」

 モルテンの推薦があれば探索者になれると言う。
 実力者パーティーに所属していて推薦があれば、元が何であれ探索者になれるのだと。スカラリウスから探索者になってしまえば、差別されることも無くなり自由度も高くなる。
 現状では何をするにも誰かに頼らないとならない。

「面倒も無くなるぞ」
「でも、まだ素人同然ですから」
「そんなことないけどな」
「昨日遭遇したパーティーより、イグナーツの方が実力は上だ」

 過剰評価な気がしないでもない。本職が探索者と比べたら、全然足元にも及ばないと思う。
 まだまだ鍛えてもらわないと、逆に周囲にバカにされそうだし。だから、せめてラビリントひとつは完全攻略しておきたい。そこまでできて、初めて迷惑を掛けない最低限の探索者になれると思うから。
 今はみんなの足を引っ張る存在。だから探索者じゃなくていい。

「ここを攻略できて気が変わらなかったら、その時は推薦してください」
「今すぐでもいいんだがな」
「いえ。今は荷物持ちでいいです」
「頑なだなあ」

 実力はみんなが認めてるのに、相変わらず自信が無いんだと言うデシリアだ。

 ホームに帰ると順に風呂に入るけど、俺は最後でいいとしておく。今はまだ居候状態だし、正式に探索者になったら、少しは我が侭も聞いてもらおうと思う。
 いずれではあっても希望を持てた。スカラリウスなんて差別される職業から、差別されにくい探索者になれる。

「デシリアと一緒に入れば?」
「え」

 ヘンリケはとんでもないこと言うし。デシリアはと言えば「そう言う関係じゃないから」と、いつも通りの素直じゃない返答。

「面倒だし順番待ちするならね、一緒がいいと思うの」
「だから、あたしとイグナーツは」
「はいはい。もう照れ屋さんなんだから。じゃあ、あたしと一緒」
「駄目」

 ヘンリケと一緒とかあり得ない。暴発しそうだし。
 で、やっぱりヘンリケと一緒と言われると、駄目と言って俺の腕を取るんだよ。なんだかんだで、お互いウブだから進展しづらい。
 でも気持ちがあるのは確かだから、いずれもっと気持ちが深まればね。

 夕食を済ませ風呂の順番待ちの間、部屋で銃のメンテナンスをしていると、ドアがノックされ開けるとデシリアだ。

「今、いい?」
「あ、はい」

 シャワーを浴びて髪を洗ったんだろう。なんか軽く癖が出てて毛先がクルンクルン。乾かしてないんだ。
 部屋に入ってドアを閉じると、ドアを背にして寄り掛かり「あのね、そのね」と煮え切らない。まあ俺も煮え切らないのは同じだけど。
 伏し目がちに俺を見て頬が赤く染まる。

「イグナーツは、ヘンリケとあたし、どっちがいいの?」
「え」
「だから、その、経験するなら」

 ちょっと何を言ってるか分からない。
 俺が好きなのはデシリア。ヘンリケは妖艶で美形だけど、好きだと思う気持ちは無い。本気で迫ったら軽くあしらわれるでしょ。揶揄ってるだけだろうし。相手は大人で経験豊富であろう女性。対して俺はガキみたいなもの。
 当然、デシリアと、と言うべきだろう。ここははっきりさせるのがいい。

「俺は、その、デシリアさんが」

 だから、顔を真っ赤にされると、こっちも照れるんだよ。

「うん。分かってた」

 じゃあ聞かないで。恥ずかしいから。

「でね、あのね」
「は、はい」

 軽く咳払いして頭に手をやり髪を指先でくるくる。視線を逸らし「あ、まだ濡れてたんだ」とか言ってるし。
 何を言いたいのか。

「もう! イグナーツって」
「え、あの」
「男から、だと思ったのに」

 えっと。
 情緒不安定?

「そう言うのは男から、だと思うんだよね」

 さっぱり分かりません。あ、違う。そうじゃなくて、誘うのは男からってことか。
 俺だって未経験だし交際経験だってろくに無い。だから何をどうすればいいのか、なんてのは分からないわけで。
 でも、この場合は男がリードするべき、ってこと?
 日本だったら何となく、その場の雰囲気で自然にと思ってたけど。
 ちょっと目付きが怖いけど、頬を染めつつ口を開くデシリアが居る。

「感情を失うんだよ。い、イグナーツを好き、って」

 そうだよ。黒魔法を行使すれば対価として、好きだと言う気持ちすら失われる。
 つまりは、どういうこと?
 考えるんだ。何を望んでいるのか。感情を失うってことは、その前に何かして欲しいってことか。

「あの、俺」
「失う前に満たして」
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