不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.50 荷物持ちが必要な理由

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 三十五階層の主を倒したあとは暫く休憩を取ることに。
 階層が深くなればなるほど、緊張の度合いも増すから精神的に疲れる。他のメンバーはキャリアを積んでるから、この程度では疲れないとは思う。
 初心者でしかない俺のために取る休憩だ。ただの荷物持ちに徹していれば、ここまで疲労感を感じないで済むけど、戦力としても見てるから。

 三十六階層へ続く階段前の広間。
 床に腰を下ろし水を口に含む。
 ひとつ思ったのは、なんでラビリント内は仄かに明るいのか。照明があるわけでもないし、壁が光ってるわけでもないし天井も光らない。何となく明るい。空間自体が発光してるかのように。
 肩が触れる位置に座るデシリアに視線を向ける。

「なに?」
「あの。ラビリント内ってなんで明るいんです?」
「そう言えば、なんでだろうね」

 知らないようだ。
 デシリアがモルテンに問うたようだけど。

「モルテンは知らない?」
「知らないな。過去に調べたらしいが結論は得られていない」

 俺を見て「だって」と言うデシリアだ。これの解も迷宮入りか、なんて。
 不思議なことだらけのラビリント。そして神だの悪魔だの。この世界は現実とファンタジーが融合してる。
 でも、もしかしたら神とやらが、人間を使って遊んでるだけだったりして。
 暇を持て余す神の娯楽。

「よし、三十六階層へ行くぞ」

 モルテンの号令により全員が立ち上がり三十六階層へ向かう。
 階段を下りる際にモルテンから「敵の強さがまた一段階上がる。イグナーツには厳しいから戦闘には参加しなくていい」と言われた。
 相応のキャリアが無いと攻略は難しいそうで。それでも重機関銃があれば対処可能、と見ているらしい。銃弾を複数撃ち込めば倒せるのは確認済み。
 連続して放てる重機関銃ならば、効率よく倒せるのではと言うのが、モルテンとヴェイセルによる見立て。

「イグナーツのことは、あたしが守るからね」

 デシリアには魔法を使って欲しくないんだけど。
 でも今の俺に何ができるのか、と言われれば何もできないに等しいのだろう。手際の悪い戦闘をしていたら結局、周りに迷惑になるだけだし。
 それでも何とかしたい。
 一応ライフルには十発入りのクリップをセットしておく。

 三十六階層に足を踏み入れると、モルテンとアルヴィンが先導し、しんがりはヴェイセルが務める。
 間に挟まれる俺とデシリアとヘンリケ。

「早速お出ましだ。右支洞」

 支洞の手前でアルヴィンが察知し警戒態勢を取る。
 慎重に歩みを進めると会敵するも、なんて言うか、ぬちゃぬちゃした感じのモンスター。ぬちゃぬちゃってなんだよ、と思うけど、粘体のような不定形でスライム?
 剣に魔法を纏わせ一気に斬り掛かるモルテンが、一撃で仕留めはしたけど何かを浴びたようだ。

「くそ! 食らった」
「急いで浴びた部分を洗わないと」
「イグナーツ、水を」

 粘体モンスターを倒した際に、飛び散った体液だか何かを浴びて、火傷をした感じになってる。
 水を取り出し渡すと浴びた部分を洗浄してヘンリケが治療をする。

「あの、あれって」
「倒されると酸を浴びせるから」

 近接戦闘では分が悪い。

「重機関銃が欲しい理由、分ったでしょ」

 ライフル弾を一発二発撃ち込んでも、すぐには倒せない。何発も使うなら最初から飽和攻撃を食らわせられる、重機関銃の方が使えると判断したらしい。
 距離を取っていれば体液を浴びて怪我をしなくても済む。
 ただ、重すぎて運べなかった。ゆえにこの階層でとん挫していたらしい。

「今回は少し無理して進むけど、たぶん引き返すことになると思うよ」

 デシリアの内側から破壊する黒魔法は二十分間使えなくなる。ヘンリケの聖法術は体調次第の面はあれど、ひとつの属性につき一日最大で二十回前後。現時点で四属性あるが、相性の問題もありここで使えるのは二属性。
 
 背中越しに発砲音があり、ボルトを引く音と発砲音が何度も続く。
 ヴェイセルが後方から来た粘体モンスターの相手をしてるんだ。

「イグナーツ。予備弾倉を渡してくれ」
「あ、はい」

 十発入りのクリップを全弾消費して、やっと一体倒せる感じなのか。
 穴だらけにされた粘体モンスターは、倒されると水溜まり状態になってる。魔石はその中心にあって取りに行こうとしたら。

「気を付けて。その水みたいなのは酸だから」
「え」
「触れると溶けるからね」

 じゃあどうやって回収するんだろう。と思っていたらヴェイセルが「こうやって寄せてから取る」と言って、ライフルの銃口を持ち銃床を魔石に当てて転がし、手元に手繰り寄せて手にしたようだ。
 手にする際も布で掴み拭き取ってから手渡してくる。

「安易に触れると怪我をするからな」

 それでも三十分程度で酸は中和か分解なのか、ただの水になるらしい。
 ただ、三十分も待っていられないから、何某かの手段でもって回収するそうだ。

「あの、木は溶けないんですか?」
「木材とガラスは溶けないな」
「じゃあ今後は杖を持参します」
「ああ、それはいいかもしれん」

 荷物持ちが居ることのメリットだと。これまでは武器弾薬と飲料や食料に重点を置いていた。戦闘や生命維持に必要なものに限られる。
 でも荷物持ちが居れば普段は不要なものも運べるから。

 モルテンの治療が済み移動を開始するけど、どうにも近接戦闘職とは相性が悪いようで。
 アルヴィンの剣もリーチが短く、近付き過ぎると酸を浴びて怪我をする。
 黒魔法や聖法術は一体を相手にするには勿体無い。使用回数や時間制限付きだから。

「残り五十一個か」

 クリップは俺が持つ四十七個。ヴェイセルが自身で持つ四個。俺の分で十個。
 使い切れば前衛のリスクが上がる。

「あ、あの」

 疑問が湧いてデシリアに聞いてみた。

「魔法ですけど外側からは効果が無いんですか?」
「少しはあるよ。その分、回数が必要になるから」

 見た目派手な魔法は何発も放つ必要がある。連続で放てば使用者に精神的な疲労が溜まる。だから無限に放てるわけではないと。
 この階層だけに粘体モンスターが出るなら、それでもいいが、先がどうなっているかは現時点で不明。

「だからね、無理はしないの」

 重機関銃を是が非でも欲しい理由。そして俺を加入させた理由。納得した。
 みんな強いのは確かだけど万能じゃない。力押しでは行き詰る。ご都合主義のファンタジーとは違うんだ。
 現実ってのは上手く行かないものなんだな。

 再び進むけど粘体モンスターの出現の度に、クリップひとつ消費することに。

「無理があるな」
「俺が少々の怪我でも押せば済むんだが」
「治療が大変だから無理はしないで」

 クリップを十個消費した段階で、三十六階層を抜けることができるようだ。

「さて、この先は三十七階層になる」
「引き返した方がいいと思う」
「イグナーツに重機関銃を持ってもらえるまでは」

 無理に進まず数日待って先へ進めばいい、と結論を得た。
 三十五階層に戻るためにさらに十一個のクリップを消費。それ以外では聖法術を使い三体倒し、黒魔法を一回使い一体を倒した。
 重機関銃があれば、この階層は俺でも役立てる。

 三十五階層に戻るとラビリント内で一泊することに。

「今から戻ると夜になるからな。出入口は閉じられてる」

 守衛が居なくなるから救助要請以外では、外に出られないらしい。
 と言うことで、夕食を済ませ寝ることになるけど。

「汗と埃を流したい」

 そう口にして水で濡らしたタオルで顔を拭うデシリアだ。

「シャワー欲しいよね」

 俺に同意を求められても。そもそも俺は一日や二日程度なら、風呂に入らなくても問題無いし。なんなら一週間は耐えられる。これも農家に居たからだ。贅沢だもん、この世界だと。

「寝袋、床から冷たいのが伝ってくるんだよ」
「確かに少し冷えますけど」
「もう一個持ってこれない?」
「考えておきます」

 俺の隣で寝袋に包まり要望を口にしてるし。でもデシリアのためなら、余分に持つのはありだ。
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