不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.49 階層主戦で緊張と恐怖

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 三十三階層の攻略が済むと三十四階層へ。
 こっそりデシリアにモルテンも何か捧げたのか聞くと。

「普通は誰にも話さないよ。だから知らないんだ」
「じゃあなんでデシリアさんは俺に」
「察して欲しいな」

 強力な魔法を使えば感情を失い、素っ気ない態度になってしまう。のかもしれない。その時に気が無いのだと思われれば、それ以上深い仲には進展しなくなる。
 今抱いている想いを大切にしたい。しかし、失われてしまいかねないから、それを分かっていて欲しいってことなのか。

「イグナーツのことは好きだから」

 なんか照れる。
 それにしても魔法の代償ってのは、やっぱりあるんだよね。

「あの、魔導の資質って」
「あとで教えるね。ほら、モンスター来てる」

 三十四階層に足を踏み入れると、会話をしている余裕はないらしい。
 ここでは蜘蛛のようなモンスターが出現し、至る所に糸を張り巡らせ絡め取られる。でも蜘蛛って昆虫の分類じゃないよな。ダニやサソリの仲間だったはず。
 まあ、そんなのは今はどうでもいいのか。

「蜘蛛の巣に気を取られると絡め取られるからな」

 モルテンが注意を促してくる。

「蜘蛛の巣を排除していると向かってくる」

 巣に引っ掛かったと判断して向かってくるそうで。
 それでも巣を排除しないと先へ進めない。排除しつつ警戒を怠らず即応態勢を取っておく。
 べたべたと張り付く感じの蜘蛛の糸だけど、これは元の世界と同じだ。あれも意外としつこく絡む。

「来たぞ。天井から降りてきてる」

 上を見ると、やっぱりモンスターってことで大きい。体長一メートルくらいはありそうな。音もなく忍び寄ってくるけど、デシリアが「全部焼いちゃおう」なんて言ってるし。
 ただ、敵は大きいけど動きはハエ程ではない。銃声がして蜘蛛が落ちてるし。
 ヴェイセルだ。

「この階層ならイグナーツでも対処可能だ」

 銃による狙いは頭胸部。触肢の辺りを撃ち抜けば脳に達するそうで。
 剣で対処する際は頭胸部と腹部を繋ぐ部分。分離してしまえば暫くは動くも死ぬ。
 腹部に心臓や呼吸器があるからだそうで。頭胸部には脳と胃や毒腺がある。

「ただな、動きが遅く見えても捕食の瞬間は、驚く程に動きが速いから気を付けろ」

 だよね。元の世界の蜘蛛も獲物を捕らえる際の動きは素早い。
 一定程度に距離が詰まると襲い掛かってくるそうだ。だから離れた位置からしっかり撃ち抜けと。
 移動の邪魔になる糸はモルテンとアルヴィンが排除し、振動を感知した蜘蛛が近寄るとヴェイセルが銃で対処する。
 暫し進むとアルヴィンが「後方、天井」と言う。
 咄嗟に銃を構えると視界に収まるのは蜘蛛だ。狙いを定めトリガーを引くと予定とは異なる場所に命中した。

「少し外したな」
「あ、はい」
「もう一度」
「はい」

 狙い通りとは行かないまでも、動きが鈍ったことで狙いやすい。トリガーに指を掛けしっかり狙い引くと、銃声と共に蜘蛛が天井から落下。
 上手く行ったと思う。でも一発では仕留められなかった。

「充分だ」
「そうですか」
「二発で仕留めたなら優秀だよ」

 ヴェイセルは一発なんだよな。俺がヴェイセルのようになれる日が来るのだろうか。でも頑張らないとデシリアの感情は失われる。それは避けたいから、やるしかない。
 このあとも何発か放つも一発で仕留めるのは無理だった。
 ただ、それも当然と思っておかないと。経験の差ってのもあるわけだし、俺には技能もない素人でしかない。同じことができる、なんて考えたら駄目だよな。
 目標として据えておけばいい。

 三十四階層を抜けると、いよいよ階層主の居る三十五階層に。

「ここの階層主は飛行タイプと三十四階層の蜘蛛だ」

 飛行タイプが五匹で蜘蛛が二匹。飛行タイプはハエではなく蜂らしい。毒針と噛みつき攻撃があるそうだ。蜂は体長一メートル。蜘蛛は体長一・五メートル。
 蜘蛛は糸を飛ばしてくるから避けるなり、何かで絡め取り排除しないとならない。
 蜂はホバリングができる。移動は素早い。毒針に刺されると三十秒で死ぬ。

「噛んで肉を引き千切るから絶対に近寄らせないこと」

 銃か魔法が頼りになるそうで。
 モルテンとアルヴィンが糸を絡め蜂の動きを牽制する。

「イグナーツとヴェイセルが要になるぞ」
「はい」
「好きなだけ撃て」
「え」

 前衛二人が後衛を守り切れば勝てる相手だそうで。弾薬は気にせずぶっ放せばいいと言うモルテンとヴェイセルだ。

「よし、行くぞ」

 モルテンの号令と共に階層主の部屋へ足を踏み入れる。
 まず目に入るのはホバリング中の蜂が五匹、いや大きいから五頭とでも言えばいいのか。体の大きさからヘリのような低い羽音が響き渡る。その後方に控える蜘蛛。ルブロンオオツチグモのような黒褐色で、少し恐怖を覚える。
 蜂はあれだ、スズメバチのようだ。獰猛そうな顔つきをしている。警戒色ってのは元の世界と同じなんだ。見ると恐怖を感じてしまう。

 モルテンとアルヴィンが剣を構え先行すると、蜂と蜘蛛も動き出した。
 糸を飛ばして絡め取ろうとする蜘蛛。そして空中から獲物を狙い定め、毒針の餌食にしようと接近する蜂。
 前衛二人が囮になっている間に、俺とヴェイセルで一体ずつ倒す。

「動きが」
「どこでもいいから当てろ」
「あ、はい」

 硬すぎて貫通しないような存在ではない。小さな銃弾でも数を撃ち込めば倒せると言う。

「前衛には当てるなよ」

 間違っても当てたら終わり。絶対に二人には当てず、蜂や蜘蛛が距離を取っている間に、撃ち捲るしかない。
 しっかりライフルを構え狙いを定める。トリガーに指を掛けタイミングを見計らい引く。
 銃声と共に蜂の腹に一発命中。ここで気を抜かずさらに一発。そして、後衛に向かってくるから頭目掛け一発。どうしても次弾を放つまでに時間が掛かる。焦るとボルトを引く際にもたつく。排莢が済んで次弾が装填され、トリガーを引くも狙い通りとは行かず。

「焦るな」
「は、はい」
「こっちに来ないよう、二人が何とかする」
「あ、はい」

 蜂の動きに負けないモルテンとアルヴィンが居て、上手く誘導したり牽制して後方に向かうことがない。
 本当にあの二人は凄いと思う。
 感心している場合では無いけど、ヴェイセルが蜂を三匹倒すと、少しずつ余裕が出てくる。
 さらにヴェイセルが蜘蛛を一匹倒した。

「よし、これで余裕が生まれる。イグナーツ、蜂一匹と蜘蛛を倒してみろ」
「え、あ、はい」

 無茶な。とは思うけど、この程度ができないようでは、デシリアに魔法を使わせずに済ませられない。デシリアのため。俺じゃない。全ては彼女のために倒す。
 指先が緊張で硬く感じてしまう。

「正確に狙おうなどと考えるな。とにかく撃て」

 前衛の二人に当たらないよう、離れた隙に銃を放つと腹に一発。ボルトを引き排莢、装填が済みトリガーを引き一発。外れた。
 気にしていても仕方ない。撃ち捲れと言われているから、次弾を装填しトリガーを引く。
 残弾二発。
 蜂がこっちを見てる。時々当たるから鬱陶しいのだろう。近付きたくてもモルテンとアルヴィンが邪魔になってるし。

 トリガーを引き一発ぶっ放すと、やっと頭を撃ち抜いたようだ。
 力なく落下する蜂が居て、残りは蜂一匹と蜘蛛一匹。

「階層主相手だ。八発で倒せたなら優秀だな」

 ヴェイセルはそう言うけど、俺より遥かに少ない弾数で倒してる。
 警戒しながら飛び回る蜂を狙い撃つと、羽を一枚落とせたようで落下した。それを見逃さずモルテンが魔法を纏った剣で、一気に叩くと残りは蜘蛛一匹。
 そうなると前衛二人掛かりで蜘蛛に攻撃を食らわせ、見事に倒してしまった。

 結局、八発使って一匹だけ。他は落とすだけに留まった。

「怖かっただろ?」
「蜂は怖いよね」

 ヴェイセルとデシリアに言われるけど、確かに怖いと思ったのは事実。
 本能に刷り込まれてるのかもしれない。
 因みにヴェイセルは一匹倒すのに、四発使っていたそうだ。全然気づけなかった。
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