不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.54 採寸で密着され抱っこする

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 キッチンの用事が済み部屋に戻るデシリア。あとで来て、と言われているから自室で暫し待つことに。
 タイミングを見計らいデシリアの部屋に行き、ドアをノックすると「入っていいよ」と声がしてドアを開けた。
 部屋の中を見て真っ先に目に留まったのが、ベッドの上にぶちまけられた毛糸の玉。白や黄色に赤に緑。それと編み棒だろうか、木製の棒とよく分からない木製の何かが複数。
 デシリアと目が合うと声を掛けてくるけど。

「ねえ」
「何?」
「下着要らない?」
「え」

 なぜ下着? さっきも言ってたと思うけど。

「今、巷で大流行だよ」

 知りません。流行りだから薦めてるのか。

「採寸は?」
「えっとねえ、脱いで」

 い、いや。それは恥ずかしいから無しで。

「無理」
「なんで?」
「だって」

 デシリアって恥ずかしがるのに、なんでこういう時はスルーなのさ。
 と思ったら気付いたようで「あ、あのね、全部じゃないから」と、慌てて違うと説明してるし。どうやらデニムだけ脱いでくれれば、ってことらしい。
 それでも下着丸出しでしょ。やっぱ恥ずかしい。

「下着は要らないから」
「そう? あたしとお揃いとか」
「いえ。当初の予定通り羽織るもので」
「じゃあさ」

 普段穿いてる下着を貸してくれれば、お揃いの下着を作るよ、と言ってる。
 それならあれか、洗濯してもらう時に見てるし、洗濯済みの奴なら貸してもいいのか。
 それにしても、どうしてもお揃いの下着がいいの?
 見えない部分でお揃いも悪くないとは思うけど、何かしらデシリアなりの拘りがあるんだろう、と思うことにした。

「じゃあ、肩幅と着丈の採寸するから」

 背中を向けろと言われ背を向けると、メジャーでせっせと測ってるようだ。

「こっち向いて」
「あ、は、うん」
「悶えてるの?」
「違う」

 はい、って言いそうになって言い直しただけ。
 デシリアの正面に向くと胸囲も測るようで。腕を回すんだけどしっかり抱き着かれてる。手が回り切らないからだ。
 でも、抱き着かれるとちょっとヤバい。柔い感触が伝わってくるから。手を回しながら「胸囲があり過ぎて手が」なんて言ってるし。抱き着かれて完全密着状態。
 離れると感心したのか。

「イグナーツって、こうして測って分かったけど凄く体格いいよね」

 広い肩幅に厚い胸板で、見た目では分からない筋肉が付いてると。

「荷物持ちを下に見る人多いけど、鍛えられ方が違うよね」

 荷物持ちが本気で力を振るったら、そこらの男じゃ太刀打ちできないでしょ、なんて言ってるけど。素早い動きは苦手だし、重量物を担いで歩くのだけが得意なだけ。
 単純な力比べなら負けないとは思う。百キロ程度なら持ち上げられるし。

「ねえ、抱っこして」
「え」

 お姫様抱っこを要求しているようだ。
 俺を見つめてきて「その腕で抱きかかえてくれると嬉しいな」なんて言ってるし。しかも目を輝かせて微笑みながら。
 その程度なら楽にできるからいいけど、あちこち触っちゃいそうで。

「じゃあ」
「抱っこぉ」

 なんか甘えてる。肩に手を回してきて体を預ける感じになってるし。
 背中に手を回し屈んで膝の裏に手を回す。そのまま体を預けてもらい、立ち上がるとお姫様抱っこの完成。立ち上がる際の勢いが良かったせいで「わっ」と声が漏れてた。
 デシリアって軽いなあ。前から華奢だとは思ってたけど。

「なんか軽々だよね」
「普段持ってる荷物に比べたら、空気みたいな感じだから」
「さすがイグナーツ。力自慢」
「いえ、そうでもない」

 顔近いし背中に回した手の位置は、胸に近い位置になってるし。なんか柔さが伝わって、ちょっとずれるだけで掴んじゃいそうな。華奢だけど肉付きいいのかな。
 でも、それだけは絶対に避けないと。

「あの、もういい?」
「もう少しこうしていたいな」
「じゃあ部屋の中を移動してみる?」
「あ、いいね」

 なんだかなあ。
 喜んでるからいいけど。
 部屋の中を歩き回ると「ラビリントでも、こうやってもらえると楽だなあ」なんて言ってるし。ラビリント内は危険だから自力で歩いて欲しい。怪我で動けないなら背負うし、前に抱えるとモンスターと遭遇した際に対処できない。
 そんな風に思っていたら「冗談だよ」なんて言ってる。

「ありがと。もういいよ」

 そう言って顔を寄せてキスしてくる。唇が触れる程度かと思ったら、もう少し大人のキスになってた。
 ちょっとクラっと来た。デシリアも頬を赤く染めてるし。照れちゃうよ。
 下ろすと向き直って抱き着いてくる。ぼそっと「安心感あるなあ」なんて口にしてたようだ。
 離れると。

「できたら渡すね」
「うん」
「下着も作っておくね」

 どうあってもお揃いが欲しいのか。なんか願掛けとかゲン担ぎとか、あるのかもしれないな。拘るってことは。
 じゃあ明日、と言ってデシリアの部屋をあとにし自室に戻る。
 普段より密着したり柔さも感じたりで今夜は眠れないかも。

 翌日になりドアがノックされて目が覚めた。
 昨日の夜は興奮気味で寝付けなかった。壁掛け時計を見ると出掛ける予定の、三十分前くらいだろうか。
 慌てて飛び起きてドアを開けると、デシリアが居て「おはよ。寝坊した?」なんて言ってる。

「なんか、少し疲れが出たのかも」
「ラビリント攻略で?」
「たぶん」
「じゃあ今日は荷物運びやめる?」

 それはやる。そもそも疲れじゃなくて興奮して、眠れなかっただけだし。目の前に立つデシリアは何ともないのだろうか。
 俺は平常心を保ちづらかったけどな。

 急いで出掛ける支度をしダイニングに行くと、ヘンリケが「昨夜は愉しんだ?」なんて言ってるし。にやけながら。
 別に如何わしい行為はしてないし、採寸と抱っこ程度だし。

「何もしてないです」
「あら。そろそろかと思ったけど」
「無いから」
「デシリアも、もっと積極的でいいと思うの」

 俺は経験が不足し過ぎて手を出しづらかろうと。だからその分、デシリアが頑張ればなんて言ってるよ。
 デシリアはリードして欲しいって言ってた。だから俺が頑張る。現状は無理だけど。

「イグナーツ。さっさと飯食ってくれ」

 ヴェイセルに催促され食事を急いで掻き込み、デシリアとヴェイセルの三人でホームをあとにした。
 ヘンリケは玄関先で手を振って見送り。

 ちょっと気になったことがある。いつも俺やデシリアの背中を押すヘンリケだけど。

「あの、ヘンリケさんって付き合ってる人って」

 少し先を歩くヴェイセルに聞くと、背中越しに「前に言ってなかったか?」なんて言ってる。

「ヘンリケはね、シルヴェバーリが恋人」
「え、でも」
「あのな、あいつは少々変わってるんだよ」

 世話焼き女房になる気はない、と言いながらシルヴェバーリの男どもの面倒は見る。シモの話しじゃないぞ、なんて言ってるけど、さすがに俺でも分かる。
 男のタイプは今も不明で、誰が声を掛けても口説いても、全く相手にされることが無い。軽くあしらい男に興味がないのか、と思う程だそうで。

「誰とも付き合う気が無いみたい」
「もしかしたら女性を好きなのかもな」
「それって」
「まあ、無くはないだろ」

 実はデシリアを狙ってたかもな、なんて笑いながら言ってるし。

「あたしは普通だから」
「イグナーツだろ」
「あ、あのね。そうじゃなくて」
「照れるな。誰が見ても分かる」

 いいじゃないかと。頼り甲斐のある男だし将来大化けするぞ、なんて言ってるけど。上方向へ化ける可能性は無いと思う。どこかで大失態をして、パーティーに迷惑だけは掛けないようにしないと。

 銃砲店に着くと店主に「できたか?」なんて聞いてる。
 店主が出てきて「とりあえず要望には応えたが、こんなもの二つも持って入る気か?」と問われてるし。
 俺を見るヴェイセルだけど「問題無い」とか、たぶん大丈夫だとは思うけど。

「スカラリウスってのは、そんなに担げるのか」
「イグナーツが特別なんだよ」

 世間一般のスカラリウスは、せいぜい六十キロを担ぐだけらしい。
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