不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.60 試作品は美味いと評された

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 ハンバーグは、ひと工夫してみることに。チーズがあるからチーズハンバーグってことで。
 夕食用にと試作しているとデシリアがキッチンに顔を出してる。

「なんかいい匂いするんだけど」
「イグナーツ君独自の手料理」
「え、何それ」
「味見してみれば?」

 改めて挽き肉を用意し他の材料と共に捏ねてると、俺の隣に来て「ショットブッラル?」なんて言ってるし。材料はたぶん一緒なんだと思う。だからどっちにもなる。
 デシリアが近い。捏ねる腕が当たる距離だし。

「そっちのは?」
「失敗作なんだって」
「そうなの? ちょっと食べていい?」
「あ、どうぞ」

 欠片を抓んで口に含み「あ、意外だ」なんて言ってるよ。どうやら美味しいと感じるらしい。失敗してても美味しいって分かる気はするけどね。料理の尽くがぼやけた味付けになってるから。ガツンってこないし。美味しいかと言われれば微妙。化学調味料に慣れた舌だと余計にそう感じる。
 捏ね終わると成形してフライパンに置いて、火にかけて焼くとさっきと違う匂いが漂う。
 これだよ。ハンバーグの匂いって。

「そう言えば、アヴスラグでもお昼ご飯に、変わったものを用意してたよね」

 あれもオリジナルメニューなのかと聞かれ、元の世界で、とは言えないからオリジナルってことに。
 試食第二弾が完成するけどソースもなんとかしたい。酸っぱいんだよ。
 焼き上がったハンバーグをひと口。何となくだけど馴染んだ味になった。それと溶け出すチーズが味を引き締めてくれる。

「ソースなんですが」

 デミグラスソースを作る力量は無い。そもそもレシピを知らないし。

「これじゃ駄目なの?」
「酸っぱいんです」
「じゃあ牛乳入れれば」

 その手があったか。まろやかになるし。トマトと塩コショウじゃ幾ら煮込んでも、酸味が強いままだから。
 トマトと玉ねぎを刻み煮込んで牛乳を足すと、味は丸くなったけど微妙に、思い描くものとは違う感じで。でも無いものねだりしても意味が無い。

「これでどうです?」

 ソースをかけて出すと二人とも美味しいと感激してるし。
 トマトと牛乳の組み合わせは、ここでは定番みたいだから口に合うようだ。

「じゃあこれを夕飯にします」
「期待してるよ」
「そうね。メインはそれでいいとして」

 他はヘンリケが作るそうだ。
 今夜ホームに帰ってくる人はヴェイセルくらいだろうと。アルヴィンは女のところに泊まるだろうし、モルテンは家族と過ごすはずだそうで。
 脂でギトギトになった手を洗い、キッチンをあとにするとデシリアが俺の腕を掴む。
 見ると少し頬を膨らませてる感じだし。

「二人で料理?」

 これって嫉妬?

「自分が食べたいものを作っただけで」
「ふうん。二人で買い物?」
「えっと、そう」
「声掛けてくれればいいのに」

 嫉妬だ。デシリアを放置して買い物に行ったから。でも編み物で忙しいと思ったから、声を掛けずに出たんだけどな。言い訳、にしかならないか。

「ごめん」
「いいけど、次はあたしに声掛けてね」
「必ずそうする」

 よし、となって頬を掴まれ舌の絡むキスをされた。ちょっとハンバーグの味が伝わってくるし、俺からもたぶん同じ味がしたと思う。

「美味しそうな味するよ」
「デシリアさんも」

 笑ってるし俺もおかしくなって笑ってしまう。

「じゃ、あたしは続きやるから、夜ご飯の時にね」
「あ、うん」

 自室に戻るデシリアが居て、俺も自室に戻ることに。
 居ても何もすることが無いんだけど。暇を持て余す状態なのは変わらないわけで。
 せめて平成くらいだったらな。この世界は明治初期くらい。どうせ転移するなら、もっと進歩した世界が良かったな。でも、デシリアと知り合えたのは良かった。

 元の世界だったら恋愛なんて面倒臭いだけだし。何も無いから恋愛とかに目が向くんだろうな。
 それに命懸けだし。ラビリントは甘くない。シルヴェバーリの人たちは強いから、楽に熟してるように見えるけど、俺は初心者だし同じレベルで対応できない。
 今は甘えさせてくれるけど、いずれは甘えも許されなくなるんだろう。

 気を引き締めないと。

 陽が沈み夜になると夕食になり、ダイニングに行こうとしたら、ドアがノックされデシリアが呼びに来てた。

「イグナーツの手料理、期待してるんだ」
「嬉しいけど、そこまでじゃないと思う」
「味見した奴、美味しかったけど」

 自信持っていいよ、と言ってる。
 一緒にダイニングに行くと、ヘンリケとヴェイセルが居て「準備できてるから」だそうで。
 椅子に腰掛けると俺の作ったハンバーグと、ヘンリケが作ったサイドメニューが幾つか。ヴェイセルが「イグナーツが作ったんだって?」と言って、早々にハンバーグに手を出して口に含んでるし。

「美味いな」
「意外なところに才能あるよね」
「イグナーツ君にも料理担当してもらおうかな」
「それいいな」

 あの、料理は得意じゃないんですが。
 でも時々でいいから何か作って、となった。本音で言えばラーメン食べたいんだよ。醤油でも味噌でもとんこつでも、何でもいいから食べたい。
 これも無いものねだりだ。スープなんて作れないしなあ。麺は小麦があるから何とかなるんだろうけど。

 食事が済むとリビングで暫し寛ぐことに。自室に居ても退屈だし。
 ソファに腰掛け編み物をするヘンリケ。デシリアは俺に寄り添うように座ってる。ヴェイセルはと言えば、拳銃の手入れをしてるようだ。

「イグナーツも銃の手入れは怠るなよ」
「あ、はい」
「今はあたしと過ごすから野暮は言わないで」
「あのな、野暮じゃなくて」

 命を預ける武器なのだから、日頃の手入れは必須だと正論を言ってる、と思う。
 とは言え、デシリアにとっても大切な時間だと思うし。俺も心地良さがあるから、こうしていたい。

「ヴェイセル」

 ヘンリケが何か言ってる。

「なんだ?」
「生身の恋人見つければ?」
「要らん」

 ヴェイセルはやっぱり銃が恋人。ヘンリケはヴェイセルに気が無いのかな。
 と思って見ると「イグナーツ君、取られちゃったから、あたしも探さないと」なんて言ってるし。そうなると「取ってないし」と言うデシリアだ。

「じゃあくれるの?」
「あげるわけないでしょ」
「なら取られたで間違いないでしょ」
「イグナーツが好きって言うから」

 いえ。そこは認識の違いがあると思います。デシリアが好きと示してくれたから、俺も自分の気持ちを伝えただけで。強制的に言わされた感もあるけど。
 ヘンリケって、どこまで本気で言ってるのか、全然分からないな。揶揄ってるだけって気がする。いや揶揄ってるんだろう。デシリアもすぐ反応するから、面白がってるだけで。

 暫しの寛ぎ時間を終わらせると、あとは入浴して寝るだけに。
 夜間遅くまで起きてると照明のガスを浪費する。だから就寝時間はかなり早い。その分、朝は早くに起きることに。

 翌日も退屈な一日になるのかと思ったら、朝食後にデシリアに呼び出され出掛けることに。

「出掛けるよ」
「あの、どこに?」
「今日はね、ブローハーヴェ」
「どの辺?」

 乗合バスで行く港町だそうで。ここから北に向かうらしい。
 この世界にはまだ馬車による乗合バスがあり、それと並行してガソリンエンジンを搭載したバスも存在する。蒸気機関を利用したバスもあって、さらには電気自動車もあるようだ。電気自動車があるのは驚きだけど。航続距離が短く都市間輸送には使えないとか。黎明期だな。
 どれを使うのかと思ったら、港町行きはエンジンを使った小型バスらしい。馬より遥かに積載能力があるのと、速度が圧倒的に早いからだ。それと細かく休憩する必要もない。

「博覧会があるんだよ」
「え、そんなのあるんだ」
「港の倉庫で開催されてるんだって」

 他国から輸入した農産物や家具調度品、美術品なんかを展示してるそうだ。
 国内のバイヤーが集まるけど、一般人も入場可能らしい。そこで何か面白いものがあれば、と期待してるそうで。
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