不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.71 転移魔法陣の設置と寝袋

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 弾薬を大量消費して階層主を倒せた。
 予備弾倉を二つ。俺もヴェイセルも同様に使わざるを得なかったし。それでも重機関銃の装着済み弾倉内には、まだ九十二発は残っている。装弾数の多さゆえだろう。
 それと、みんなは気付いていたかどうか分からないけど。

「あの、ちょっと思ったんですが」
「なんだ?」

 戦闘が終了しひと息吐く中、みんなに聞いてみることに。

「あの溶解液ですけど、もし炎系の魔法で対処したら」

 揃って俺が何を言いたいのか分かりかねるような。
 たぶんだけど、仮に硫酸や塩酸の類であればガスが発生しないのかと。硫酸なら水素ガスが発生し引火して大爆発。塩酸なら強い刺激臭と腐食性に、吸い込めば中毒死する可能性も。水酸化ナトリウム液だと煮詰まれば、周囲に飛び散るから結果同じだったけど。服に穴は開くし体にも穴が開く。
 ただ、粘体モンスターの組成が何かは分からない。違う物質かもしれないし、自分が考える物質かもしれない。調査は必要じゃないのか。

「と言うことなんですが」

 なんか沈黙状態。
 口を開いたのはヘンリケだ。

「イグナーツ君」
「はい」
「ギルドに報告しておくからね」

 みんな驚いた表情で見てるし。単なる化学の話でしか無いんだけど。

「イグナーツって、どこでその知識を得たの?」
「え、なんとなく」
「教育も受けてないのに」

 日本で最低限の教育は受けてる。だから多少の知識があるだけで、とは言えないよなあ。
 
「今後調査して後続の連中へ注意喚起は必要になるだろう」

 モルテンからギルドに報告するそうだ。ただ単に強酸や強アルカリ程度の認識だと、攻略しに来る探索者が全滅しかねない。成分分析を行い周知しておく必要があるそうだ。

「まあ、報告すれば相応の対価を得られるからな」
「我々にとっての儲け話でもある」
「先行する探索者ならではのメリットだな」

 モルテンもアルヴィンもヴェイセルまでもが、有益な情報は金になると言ってる。
 確かに情報は金になるんだろう。元の世界でもそれは同じだったし。

「気付いたイグナーツにはボーナスを出そう」
「え、それはいいです」
「遠慮するな。気付かずモンスターの種類だけ報告していたら」

 多くの犠牲者が出た可能性があると。しかも未帰還者ばかりになると、原因の調査も行う必要が出てくる。ギルドも責任を問われるし、シルヴェバーリもまた半端な報告により損害を与えることになりかねない。
 先に気付くことで犠牲を最小限に留められる。情報さえ渡していれば。

「的確な情報があれば、あとは探索者の準備と力量だけの話だ」

 力及ばず命を落とすのは自己責任。必要な情報は提供済みの前提で。

「やはり今後のシルヴェバーリのリーダーに相応しい」
「そうだよね。イグナーツが次期リーダー」
「イグナーツ君。今後来る後輩を引っ張って行ってね」

 そんな御大層なものを背負わされても俺には無理だと思う。俺が背負えるのは荷物程度で責任まで背負えないって。
 重すぎる。荷物なんて責任に比べたら軽いよ。

 攻略の済んだ四十階層に四十一階層への階段が出現し、階層主の部屋以外に現れる広間。そこに転移魔法陣を設置することに。

「転写機を使って地面に魔法陣を描く」

 俺のバッグに入れてあった小箱。取り出して渡すと何やら操作してるようだ。
 そしてもうひとつ入れてあった瓶と小型の如雨露。それも渡して、と言われ手渡すと瓶の中身を如雨露に移し替え地面に撒いてる。
 如雨露なんて何に使うのかと思ったけど、何か分からない液体を撒くためだったんだ。

「イグナーツにも使い方を覚えてもらうからな」

 小箱を上に掲げるようにして持つと光が溢れ、地面に魔法陣が映し出された。
 地面に直接手書きするわけじゃないんだ。先に何か液体を撒いたから、もしかして感光液なのか、なんて思ったり。

「これは写真を応用したものだ。地面に撒いたのが感光液だな」

 やっぱそうなんだ。

「ただ、明るい場所じゃ使えない」

 ラビリントのように薄暗い場所か、暗室のような部屋でしか使えない。
 でも明かりが少しでもあると露光しそうだけど。そこは「魔法の光だ」なんて言ってた。
 実際には露光指数が低いだけの話じゃ、と思うけど。ISOで言ったら十とか五とか。だから小箱から出る光が異様に眩しいのだと思う。
 暫く同じ姿勢で露光し続けると、しっかり地面に感光したようで、魔法陣が転写されてる状態になったようだ。

「あとは魔石を設置すれば終了だ」

 魔石を渡すと六芒星の頂点に置き、魔法陣の設置が完了した。
 これで今後はこの場所から地上に戻れる。あれ、でも。

「これって、救助要請しないと使えないんですか?」
「ん? ああ、そうか」
「一階層にある魔法陣とパスを繋がないと作動しないから」
「パス?」

 ギルドで救助要請を受け取り救助に向かうが、一階層にある魔法陣で階層を指定。そこで指定された階層の魔法陣を設定し、接続されて初めて使えるのだそうだ。
 つまり、この魔法陣は行き先が指定されていない状態。

「なんでそんな不便なことを」
「ギルドの都合だな」
「そうだね。ギルドも仕事をしないとお金集められないし」

 そういうことか。救助要請に応える、といった体で探索者からお金を集める。

「それとな、ここまで辿り着ければいいが」
「辿り着けない場合は、どっちみち魔法陣は使えないでしょ」
「まだある」
「勝手に使われると魔石の交換頻度が上がるから」

 使いっ放しにされると、緊急時に動作しないなどがある。だからギルド職員による操作の上、使用できる状態にしてあるのだそうだ。
 六個の魔石は一回か二回程度転移させると、魔石内部の魔力が枯渇し使えなくなる。探索者に好き勝手させると、いざという時に役に立たないから管理はギルドが行う。

「魔石の交換はうちのような、ベテラン探索者が行う」

 実力があって信用度の高い探索者に任せるそうだ。
 深い階層に潜れるからだな。

 魔法陣の設置が終わると、時間的にも今日の攻略はここまで、となる。
 食事を済ませ暫しの寛ぎののちに寝ることに。因みにトイレは無いから、広間から離れた物陰に穴を掘りトイレにする。少し入り組んだ構造にもなってるから、女子用と男子用で分けて使えるようだ。女子からしたら自分のを見られるのも、抵抗ありそうだし。
 寝る前に今日の反省点や気付いたことなど報告し、寝袋を用意し各々潜り込む。

「明日から五十階層を目指すからな」

 全員しっかり休息を取って疲れを残すな、と言って就寝となるけど。
 俺の隣にピッタリくっ付けた寝袋。そこにデシリアが居て「なんか床から冷たいのが」なんて言ってる。
 確かに地面は冷たいけど。

「ねえイグナーツ」
「何?」
「冷たいんだけど」

 どうしろと。
 じっと俺を見つめて、もぞもぞ動いてるし。

「そっち」
「え」
「こっちのを下に敷いて」
「あの」

 二人で寝袋に入れないか、とか言い出した。嬉しいと思う反面、絶対寝ることができないと思う。だって、密着してたら耐えるしか無いし、耐えきれないかもしれないし。そもそもひとり用だっての。二人で入れないでしょ。幾らデシリアが細身とは言え、俺は背は低くても横に広いんだよ。体格はいい方だから。

「む、無理」
「なんで」
「だって、ひとり用」
「イグナーツの体温感じたいな」

 誘わないで欲しい。

「なんだ? さっさと抱き合えばいいだろ」
「そうね。遠慮しなくていいから。でも声は抑えてね」
「あまり激しい動きはするなよ」
「こんな場所で初ってのも記念になるな」

 周りの大人たちはアホだ。
 寝袋から出てくるデシリアが居て、俺の寝袋に入ろうとしてくるし。

「詰めて」
「いや、あの」
「早く」

 足を突っ込んできて無理やり中に入ろうとするし。あんまり無理すると破けるってば。伸縮性なんて殆ど無いんだし。
 でも無駄だった。べったり密着した状態で身動きすら取れない。
 柔い感触が。
 でも笑顔のデシリアが居る。
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