不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.72 地底に広大な空間があった

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 密着した状態で眠れるか、と言えば無理に決まってる。柔い感触はたぶんあれと足。思いっきり押し付けられてるから。デシリアは気にしないのだろうか。
 吐息も掛かりそうな位置に顔があるし。

「あったかいね」

 人の温もりがいいと言ってる。

「良く眠れそうだよ」
「そう」
「どうしたの」
「いえ、別に」

 緊張と無反応で居られない状態。まさに生殺し。デシリアが足を動かすとバレそうだ。
 もぞもぞ、やっぱり動くし。そうなると密着した足が絡み、少し紅潮したデシリアが居て、ぼそっと「銃かな? 当たるんだけど」と口にするし。銃は外して頭の側に置いてる。実はあれ、とは言い難いんだよ。興奮してると思われると恥ずかしい。

「寝る時って装備外さないの?」
「あの、それは」

 言えない。悲しい男の性。ましてや未経験の俺には刺激が強すぎて。
 でも、またもぞもぞ動くと気付いたのか、顔を真っ赤にして「イグナーツの変態」とか言われてしまう。
 周りから失笑が聞こえてくる。コメディだよね、これ。

「あの、デシリア」
「な、何?」
「やっぱひとりで」
「やだ」

 耳元に顔を近付けてくる。そうなると顔が物凄く近いし、熱を帯びた吐息が掛かるし。

「あのね、分かってるんだけどね」

 この暖かさを享受してしまうと、ひとりで寝るのは嫌だと言う。だからやむを得ない反応として、それでいいと。
 デシリアは良くても収まりが付かないんだけど。まじで眠れない。
 明日は寝不足のまま戦闘を熟す必要があるのか。しかも未知の階層。死ぬかも。
 死ぬならせめて経験しておきたかった。

「イグナーツのことは好きだから、ちゃんとね、その時が来たら覚悟決めるから」

 今は我慢して、だそうで。
 恥ずかしいのはデシリアも一緒。体の関係を焦る必要は無い。今は精神的に満たされることを優先したいそうだ。
 だよね。その気持ちは分かる気もする。

 狭い寝袋の中、抱き合うような形だったけど、いつの間にか寝ていたようで。

「イグナーツ。起きる時間だよ」

 起こされた。それと同時に耳元で「凄く押し付けられて目が覚めちゃった」とか言ってる。あれだ、男の生理現象。めちゃ恥ずかしい。
 でもデシリアは気にしてない感じで「ここをクリアしたらだよ」と言って、寝袋から這うように出て行く。出る際に上がはだけて撓む二つの物体が目の前に。

「あ、見えた?」
「いえ」
「正直に」
「少し」

 昨日体で感じた柔い物体が目の前で、一部披露されて嬉しい反面、反応が激しくて暫く出られそうにない。未経験って視覚刺激にも弱いなあ。
 またも周りから失笑が漏れて「いい加減繋がれ」とか「勿体付けてないでやっちゃえばいいのに」とか「ひと晩何もせずか。俺なら無理だな」なんてのまで。

「見せちゃえばいいでしょ。イグナーツ君も心残りが無くなるし」
「これは、ご褒美なの」
「死んじゃったら見せられないのに」
「死なせないから」

 死なせる気はないよね。何としても俺を守ると息巻いてるから。
 本来なら俺が守る、と言い切れればいいんだけど、そこまで実力はない。でもいつか言えるだけの力を身に着けたいと思う。

 暴れていた下半身がおとなしくなったことで、寝袋から出て朝食を済ませると、今日は五十階層を目指すってことで、装備の点検や準備を整え移動する。
 その前に全員、用足しは済ませておけと。用足しをせずに死ぬと硬直のあと、弛緩した際に漏れ出すそうで。とは言え、腹の中を完全に空にしないと、結局は同じだけど出しておけば多少はましだと。

「汚れた死体は嫌だろ?」

 女性と男性それぞれ異なる場所で、しっかり用足しを済ませると、いよいよ下層階へ向かう。

「今日は五十階層へ向け進む」

 より一層気を引き締め油断せず、慎重に行動せよとモルテンから言われる。
 昨日の戦闘で少々傷んだ盾はここに置いて行く。帰りに再び装備するそうだ。下の階層で使って壊れると、三十九階層から上が厄介だそうで。
 盾も予備を持った方がいいのかもしれない。木製だから重くはないけど嵩張るんだよね。でもあった方が良さそうな。

 モルテンを先頭に四十一階層へ向け階段を下る。
 しかし、その階段だけど二百段以上はありそうな。凡そだけど最低でも四十二メートル潜ることになるようだ。他の階層は三十から三十八段程度だった。かなり深く潜ることになり、それでも焦らずゆっくり進む。

「長いんですね」
「そうだな」
「他もこんな感じですか?」
「いや、ここまで段数が多いのは初だな」

 これまで多くても四十五段程度だったらしい。深さで言えば九・五メートルくらい。その階層の天井は五メートルくらいだったそうで。
 四十一階層に足を踏み入れると、また景色が異なってる。

「なるほど、想定外だな」
「天井、高い」
「驚いた」
「地底にこんな広い空間があるとは」

 どのくらいの高さがあるのだろう。天井が高いのもそうだけど、左右に広がる広大な地下空間。柱も無いのに天井は落ちないのか。まるでドーム内に居るような。そして明るさも他の階層よりある。天井がほんのり光ってるせいだ。
 さらに森の如く木々が生い茂る。どうして地下空間で植物が繁殖できるのか。やっぱりラビリントってのは不可思議な場所だ。
 四十一階層に出たわけだけど、今立ってる場所はまだ途中だった。

「まだ階段が続くが」
「外、とでも言えばいいのか」

 三方を囲まれた階段室のような空間から、屋外階段に出た感じだ。足場は奥行き三メートルくらいか。幅は十メートルはあるような。
 見晴らしはそれなりに良くて、まだ階段が五十段は続くみたいで。ただ、その階段には手摺なんて無い。掴む場所は無く階段の幅は凡そ八十センチ。一般家庭の階段と同じ程度。
 足を踏み外せば落下するし下手すれば死ぬ。

「来るぞ」
「え」
「飛来してくる奴が居る」

 目を凝らすと遠くから何かが飛んでくる。

「良く分からんが迎え撃つぞ」

 結構な速度で飛来する物体。近付くことで物体の凡その形状が分かる。真っ直ぐ向かって来るそれは槍のような。

「気を付けろ」

 剣を抜き構えるモルテンとアルヴィン。機関銃の銃口を向けるヴェイセル。
 ヘンリケとデシリアは下りて来た出口付近まで後退。
 少しして銃声がして一体に命中したようだ。そのまま軌道が逸れて落下してる。

「撃ち落とせるようだ」
「ならばイグナーツとヴェイセルで迎え撃ってくれ」

 重機関銃だと細かく狙いを定められない。ライフルを用意し照準を合わせると、かなり近くまで到達し、はっきりその存在を視認できた。
 赤くて太い槍の如き体を持ち、その周りにらせん状に羽が生えていて回転してるような。速度はそこまで速くはない。時速百キロ程度だと思う。目で追えるから。
 照準が定まったと判断したらトリガーを引く。銃声がして掠ったようで、軌道が逸れると明後日の方向に飛んで行く。

「衝撃には弱いようです。掠るだけで軌道を逸らせますね」

 槍のような体を撃たなくても、羽をある程度吹き飛ばせれば、軌道が逸れて落下するようだ。多少でも狙える範囲が広がれば、対処の仕様は俺にもある。
 次々飛来する物体を撃ち落とすと、二十三体程で落ち着いたようだ。

「とりあえず凌ぎきったな」
「派手なお出迎えだったが、ここでも銃は有効だったな」

 五十段はある階段を下りて、先へ進むことにしたけど、用心のため銃は構えたまま下りることに。また飛んでくることも考慮して。
 充分に空にも注意をしながら、一段ずつ下りて行くと木々の中に下り立つ。

 薄暗い森の中、と言った感じだ。

「いろいろ潜んでいるようだな」

 アルヴィンがそう言うと「各自充分周囲に注意しろ」とモルテンから指示が出る。
 先頭にモルテンが立ち、少しずれて右後方にアルヴィン、左後方にヴェイセル。モルテンの後ろにヘンリケとデシリアが続き、しんがりは俺。鋒矢ほうし陣形って奴だ。
 慎重に森の中へと歩みを進める。

「静かだね」
「不気味だけど」
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