不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.79 階層主と召喚された存在

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 四十四階層に下りると普通の洞窟って感じだった。
 ただ妙な明るさがあり、明るさの正体はすぐに目に入る。

「花?」
「いや。おそらくは」

 洞窟内にスズランのような花が無数に咲く。ただし、大きさは草丈だけで二メートルを超え、俯くように咲く花のサイズも五センチを超える。
 ひとつの花茎に六から十輪ほどの釣り鐘型の花。それが白く発光してるわけで。さらにすっきりした芳香を放つ。

「いい匂い」
「油断するなよ」
「まさかとは思うが」
「まあ、モンスターだろうな」

 メンバー全員警戒は怠らない。
 でも美しい花を咲かせてるから、つい気が緩みそうだ。

「まず俺が少し進んでみる」
「気を付けてよ」
「見た目はあれだな、リリコンヴァリ」
「なんですかそれ」

 見たまんまスズランだそうで。
 そうだとすれば全草が毒を持ってる。特に花と根に多くの毒があるらしい。小さければ可憐な花だけど大きさがなあ。
 モルテンが慎重に歩みを進めメンバーから、三メートル程度距離ができた時点で、予想はしていたけど攻撃してきた。

「やはりそうか」

 俯いていた花がモルテンに対して水平になり、そこから何やら多数飛ばしてくる。
 それを躱すモルテンだけど、全部は躱しきれず剣で薙ぐと、剣が腐食して行くようで慌てて下がって来た。

「やばいな。腐食性の液体を飛ばしてくる」
「香りは良いんだけど」
「どうするの?」
「花を落とせば液体は飛ばないだろう」

 とは言え近付けない。

「黒魔法使う?」

 デシリアの提案は却下。何度も召喚させて負担が大きいのもあるから。対価として感情を食わせる気も無いってことで。
 代わりにヘンリケの聖法術で対処することに。

「燃やせばいいの?」
「試して通じればそれで押し通す」
「じゃあ遠慮なく試すけど」

 ヘンリケが手のひらを花に向けると、一気に炎に包まれ焼かれていく。
 洞窟内の温度がかなり上昇し、蒸し風呂状態になるけど、術が収まると洞窟内の花は見える範囲で焼失していた。
 どうやら通じるようで、この先も聖法術を使いながら進むことに。

「暑いんだけど」
「我慢するしかない」
「冷やせばいいんじゃないの?」
「魔法でか?」

 攻撃するわけではなく洞窟内の温度を下げるだけ。それならば感情を持って行かれる心配はないと言うデシリアだ。

「加減はしろよ」

 モルテンの許可が下りて魔法を行使するけど。

「寒い」
「加減してって言ってるのに」
「してるんだけど」
「寒すぎるでしょ」

 やっぱりそうなるんだ。洞窟内の温度が下がり過ぎて凍り付きそうで。
 それでも加減してると言うデシリアだけど、元々の威力が凄いんだろう。だから少々加減したつもりでも効果が強く出ると思う。
 冷え切った洞窟内を進むと、温度が元に戻ると同時に再びスズランの群生。
 聖法術で焼き払いデシリアの魔法で冷やし、都合四回繰り返すと四十五階層の階段まで辿り着いた。

「三十六階層以下は魔導士や聖法術士が必須だな」

 剣士や射撃手はあまり役に立たない。殆ど役立たずだとモルテンやアルヴィンが口にする。これほどまでに強力な魔導士や聖法術士を必要とするラビリント。他に類を見ないそうだ。他の探索者では攻略は不可能だろうとも。

「ギルドには情報を上げておくが」
「デシリアが召喚するレベルの存在も必須だな」

 あとは聖霊士だけどベテランでも一日三回が限度。複数パーティーでベテラン聖霊士が二人は必要だろうと。
 一回しか使えない聖霊士では攻略にも限界が来る。

「三十五階層程度までで立ち入り不可にした方がいい」

 探索者ギルドにはベテランと言えど、三十五階層程度で引き返すよう進言しておくそうだ。

 階段を下りれば、いよいよ四十五階層の主の部屋だ。
 下層階へ繋がる階段を前にモルテンから「全く予想できないが、場合によっては召喚も考慮に入れる」となった。
 広大な空間があれば間違いなく、フロア全体がモンスターの可能性がある。
 個人の力量で対処できるものではない。聖法術ですら全体には効果を示せないからだ。

「デシリアには悪いが」
「構わないし必要なら召喚するよ」

 四十五階層の階層主を倒せば、そこで一泊することで回復できるからだろう。
 そうすれば翌日にはリセットされて六回使用可能になる。ヘンリケも使用回数がリセットされるだろうし。
 攻略方針が纏まると四十五階層へ向かう。

「長いな」
「フロア全体か」
「召喚するんだよね」
「已む無しだ」

 階段が長い。五十段を超えてまだ先が見えない。
 長い階段を下りて行くと三百八十段で四十五階層に到達。
 踊り場のような場所に出ると、やはりそこからさらに数十段の階段があり、広大な空間が広がっていた。

「上の階層よりさらに広いな」

 モルテンが天井を見上げながら口にしてる。
 アルヴィンとヴェイセルも全体を見て「地下とは思えん」なんて言ってるし。

「居る」

 アルヴィンが警戒しながら指さす先。

「浮いてるな」
「あれが階層主?」
「いや、あれは一部みたいだ」

 空間の広さは高さで七十メートル以上ありそうで、面積なんて全く分からない程度に広い。
 そして空中に浮く存在は幅三十メートルくらいだろうか。高さも十メートルを超えてる感じだ。形状を上手く認識できないし。
 それが全体の一部でしかない。空間そのものがモンスターと言えるらしい。
 こんなの攻略不可能だと思う。デシリアが居るから可能性があるってだけで。

「召喚するよ」
「任せる」
「じゃあみんな集まって。あ、イグナーツはあたしを支えてね」

 抱き締めていて欲しいと。

「遠慮しなくていいぞ」
「しっかり抱き締めてあげてね」
「やるのは事後にしてくれよ」
「しないから」

 さすがに戦闘中にやるとか、あり得ないし。今ひとつ緊張感が無いような気がするけど、デシリアの周囲に全員集まり俺は後ろから抱えることに。
 腰の位置に手を回すと「もっと上でもいいんだけど」なんて言ってるし。それだと気が散るから無理。戦闘中に如何わしい妄想に囚われそうだし。とは言え、召喚されると恐怖で萎縮するとは思うけど。

「じゃあ呼ぶよ」

 その言葉で弛んだ空気が引き締まった感じだ。
 同時に階層主が動き始める。

「牽制は必要そうだ」
「なら聖法術で」

 階層主相手ってことで聖法術を使い捲るそうだ。牽制と足止めしている間に、召喚して一気に排除するようで。
 召喚呪文を唱えるデシリア。聖法術で近寄らせないヘンリケ。
 階層主の周囲で爆発やら雷撃やら、また水流や暴風で対処している。激しい閃光や衝撃音に震える大気。なんか凄い状態。

「エキディロシ。アプリスティア!」

 召喚呪文を唱え終えると魔法陣から、えっと、なんか小さい存在が現れてるけど。全長一メートル程度で紡錘形で銀色。表面には産毛の如く白い、無数の絨毛らしき毛に覆われてるようだ。
 先端に青く光る五つの目のようなもの。
 他の存在に比べると恐怖を感じにくい。あれでフロア全体に及ぶ階層主を、なんて思っていたら。

 俺も含め全員に強烈な悪寒が走る。

「ヤバそうだ」
「小さいけど桁違いの存在感が」

 こっちに向かって来ていた階層主だけど、やっぱりと言うか逃げ出そうとしてるし。ついでに空間全体が振動し揺れてる。
 恐怖を感じてるのか。

 小さな体から無数に生える絨毛らしき毛が、一斉に広がりを見せ伸びていくと、空間全体を埋め尽くす感じだ。
 目の前まで迫る絨毛だけどメンバーの手前で全て止まる。
 やっぱりデシリアと一緒に居ると、召喚主として認識するようだ。

 完全に空間を埋め尽くすと絨毛が発光。次の瞬間には階層主の悲鳴らしき叫び。
 そして静かになると何も無い広大な空間が広がっているだけ。

「終わったみたい」

 ぐったりした感じで俺に体を預けるデシリアだけど、帰還呪文を唱え召喚した存在が消える。

「あれは?」
貪婪どんらん

 貪婪?

「イリエットって言った方が通じるかな」

 強欲と同じ意味らしい。その空間全てを欲すると。
 全員が落ち着くと移動することに。
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