不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.78 召喚以外に対処不可能

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 ここアヴスラグは他とは一線を画すラビリントだと言う。
 通常は一階層ごとに緩やかに難易度が増す。しかし、このアヴスラグに関しては、三十六階層以降で急激に難易度が上がった。

「まさに名の通り拒絶のラビリントだな」

 来るものを拒む高難易度のラビリント。熟練探索者であっても容易に先へは進めず、想定外の事態も多くなっているそうだ。
 それでも四十五階層には進めそうだ、と言うことで態勢を整え直し、四十四階層へと足を運ぶことに。

「四十一階層と四十二階層は、数人程度では攻略不可能だな」
「どうするんですか? 他の探索者は」
「複数パーティーで攻略するしか無かろう」

 ベテランパーティーならば二十人以上。中堅程度であれば三十人以上は必要だろうと。道中で数人程度の離脱も考慮に入れるべきだそうだ。
 ただ、人数が増えるとパーティーの纏まりが悪くなる。全体を見ることのできる優秀な指揮官も必要らしい。各パーティーが好き勝手に動けば、攻略は失敗し犠牲者を増やすだけになるとも。

「それとスカラリウスは必須だ」
「いい加減、スカラリウスの重要性に気付くべきだろうな」

 物資の重要性に気付ける探索者は少ない。その点では扱いの酷さはあったものの、クリストフは理解していた。聖霊士に頼り切った攻略だったけど、ここに来るまでは初級探索者としては、それなりに活動できていたのだろう。
 純粋に実力不足だったから、ここでパーティーが瓦解したけど。

「まあ、戻ったら重要性を説くしかないな」

 探索者ギルドに対しても、無駄に犠牲者を出したくなければ、スカラリウスを各パーティーに加入させるよう言うそうだ。
 ただ加入させるだけだと俺のように、ひどい扱いをされる恐れがある。

「命運を握る、と念を押す必要もあるな」
「あの、それで待遇の改善ってありますか?」

 シルヴェバーリは最初から好待遇で迎えてくれた。でも世間一般はスカラリウスなんてゴミ扱いでしかない。
 必要だからと加入させても、以前の俺のような扱いだと思う。
 顎に手をやり考え込むモルテンだ。

「難しいのはそれだな」

 俺のように銃を持って戦闘に参加できる、そんなスカラリウスは残念ながら居ない。百キロの荷物を持って走れる人も居ない。スペックが異なり過ぎて、地位の向上は難しいとモルテンは言う。

「策が無いわけじゃないが、時間は掛かるだろうな」

 運搬賦役協会が率先して育てる。そうすればいずれ、俺のような存在も現れるだろうと。
 今すぐの改善は無理でも、近い将来を見越して協会側で育てれば、だそうだ。
 優秀な人材を送り出せば待遇も変わる。世間の見る目も変わる可能性はある。

「運搬賦役協会の取り組み次第だろう」

 今後は牛や馬の代替えとしての荷物持ちは不要になる。そうなれば運搬賦役協会も不要になってしまう。すでに斜陽化しているわけで。協会が自らそれに気付き、探索者の荷物持ちとして育てれば、立派な職業として成立するだろうと。

「まあ、先のことは分からないが、ここでは必要だからな」

 探索者ギルドや運搬賦役協会で考えてもらうそうだ。
 必要性を説くに留めるそうだけど。
 言って聞き入れるとは思えないな。だって、人は人の下に人を作りたがるから。常に見下し蔑める相手を欲してる。そうしないと楽しく生きられないんだよ。
 奴隷の如き存在が居れば自分はそれより上、として安堵できるからね。これは元の世界も同じだ。その典型が虐め。根絶不可能だし人が集まれば、必ず虐めは起こるものだから。身勝手な正義を振りかざす人も同様。集団で責め立てるのが一般的だったし。それが虐めそのものとは気付けないし、当事者たちは正義と思ってるから極めて質が悪い。
 それこそが人間の本質だと思う。誰もが被害者になり誰もが加害者になり得る。

 話が済むと階段を下り四十四階層に向かう。

「ここも五十段前後か」

 階段を下りた先にあるのは開けた空間。
 かなり上に位置しているようで、踊り場のような場所は幅二十メートル程度、奥行きが十メートル程度だろうか。

「ここも四十一階層や二階層と同じだ」

 踊り場から伸びる下へと続く階段。この階段が二百段はあるようで。
 天井高は四十メートルを超え、恐ろしく広大な空間があり、眼下に見下ろす地面には岩がごろごろ転がっているように見える。

「あの岩だけどな」
「まあ、ここまで来れば予想は付く」
「モンスターだよね」

 ひとつひとつが直径三メートルはありそうな。下敷きになれば間違いなく死ぬ。

「召喚で片付ける?」
「それも手ではあるが」

 全員で下を見ていると浮かび上がる岩があった。

「あれが飛んでくるのか?」
「もし飛んできても受け止められるわけがないな」
「じゃあ召喚」
「已む無しか」

 リスクを取らず確実に処理したいとなる。試しに攻撃を受けてみる、なんて考えは最早誰もしない。
 このラビリントの難易度は他とは違う。無理を押し通せる場所でもない。

「じゃあ召喚するね」

 デシリアの召喚で一気に葬ることに。
 召喚呪文を唱え始めるデシリア。それと同時に岩が一斉に浮き上がり、こっちに向かって来るようだ。
 あれを受け止めるのは不可能、となると。

「聖法術で抑えるから」

 ヘンリケの聖法術で軌道を逸らすようだ。
 何をするのかと思ったら、ラビリントの壁が剥がれ塊となり、向かって来る岩に向け飛ばしてる。
 同じような質量を持つ物体同士なら、衝突した瞬間に破壊されるか落下するようで。
 ほぼ同じ大きさのものを形成し、片っ端からぶつけてる。

「エキディロシ。ティキシ!」

 程なくしてデシリアの召喚が済むと、空中に浮かぶ召喚陣から円形の存在が現れた。同心円状に広がりを見せ、中心へ向かって落ち込むような形状。大きさは直径十五メートルくらいか。外周は青く光り中心へ向かう程、赤身の強い発光をする。
 円周に沿って波打ち何か液体状なのか、更に霧状になり空間に広がっていく。

「ちょっとヤバいかな」
「え」
「おい、巻き添えは」

 降りて来た階段付近にデシリアを中心として纏まり、巻き添えを食らわないようにするけど、少し不安げな表情をするデシリアが居る。

「あれって」
「あの霧に触れると溶けるから」

 この空間を埋め尽くさんと広がる霧。こっちにも近付いて来るし。

「大丈夫なんだろうな?」
「えっと。たぶん」
「だから召喚は嫌なんだよ」
「でも今日は穏健なの出しちゃってるから」

 上の階層で召喚したのですら穏健なんだ。

「最初に見せてくれた、あれだと駄目だったの?」
「適材適所だから」

 シフォファゴスは少数向け。ファーテやエクサレイプシは集団向け、らしい。
 そして今召喚した奴も集団向けなのだとか。他にはエクミデニシ、なんてのも居るらしい。大規模な殲滅戦に向くとかで、この狭い空間で呼ぶ存在ではないそうだ。
 霧が充満すると次々溶けて蒸発する岩だ。

 こっちにも近付くけど、どうやら踊り場にまでは達しないようで。

「大丈夫みたい」
「デシリアを認識してるのか」
「たぶん。他のもあたしを認識できるし」

 地面にまで霧が達すると次々溶けて消え去る。
 暫くするとすべて消滅したようで、霧が晴れるけど、やっぱり自ら去ろうとはしないんだ。
 デシリアの帰還呪文で姿を消すと、全員が深く息を吐き出し安堵する状態。

「やれやれだ」
「相変わらず肝が冷える」

 倒れ込むデシリアが居て支える俺。
 腕の中で力なく俺を見てるけど、相当な負担があるんだろう。

「なんか無理させ過ぎてる?」
「あたしにしかできないから」
「でも」
「いいんだってば」

 ここで休んでモンスターが復活されても困る、と言うことでデシリアを抱っこして階段を下りることに。

「四十五階層の階段に向かう」

 階層主戦の前に暫し休息を取り、と言っても今回はデシリアばかりに負担が掛かってる。
 しっかり抱え一段ずつ慎重に下りると四十四階層の地面だ。
 デシリアを見ると寝てるような感じだ。
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