不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.77 高難易度のラビリント

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 四十三階層へ向かう階段手前。そっと頬に触れるデシリアの唇の感触。みんなの目があるからだろう、唇を重ねないお礼として。
 さっと済ませ笑顔を見せるデシリアだ。その直後「下に向かうぞ」とモルテンが声を掛け、全員で階段を下りるけど今度は、何百段もある階段じゃなかった。

「四十五段くらいか」
「そうなると」
「これまで通りの階層かもしれない」

 階段を下りて四十三階層へ足を踏み入れると、天井高は五メートルくらいだろうか。決して高い天井ではない。代わりに複数の通路があるようで、多数分岐する状態の階層だ。

「これは困ったな」
「最終的に同じ場所に出るならともかく」

 通路次第では袋小路とか戻ったりとか、いろいろ考えられる。そうなると場合によっては、この階層で立ち往生って事態にも。
 分散して各通路を調べるわけにもいかない。戦力の分散は愚の骨頂だからだ。

「滞りなく辿り着けないと食料や水、予備の武装が尽きる可能性がある」

 万が一堂々巡りになり下層階へ辿り着けないと、物資だけを消費し引き返す必要が出てくるわけで。
 暫し考えるモルテンが居て、アルヴィンは気配を探るべく周囲を見回す。

「召喚しようか」

 デシリアが召喚とか言ってる。

「攻撃する必要は無いんだが」
「じゃなくて偵察」
「居るのか?」
「居るよ。アナグノリシって言うの」

 主に偵察を主とする存在らしい。ただ、一度も召喚したことが無いから、何をどう調べ報告してくれるのか、それは分からないらしい。
 召喚してみれば分かることだけど、リスクはあるから無理には勧めないそうだ。

「モンスターと遭遇したら攻撃は?」
「たぶん、すると思う」
「デシリアの周囲に居れば」
「大丈夫だと思う」

 全員で決を採ることに。

「リスクはある。だが無駄を省ける可能性もある」

 ここで召喚を使っても残り三回はある。四十五階層まで進むことは可能だと。
 今使っておいて能力を知れば、今後も使いどころはあるかもしれない。と言うことで全員召喚に賛成となった。
 各通路が多数ある場所だけど、モンスターは出て来ないようだ。こうして考えたり会話することができてるし、アルヴィンも何も向かって来ないと言ってるし。

「じゃあ召喚するね」

 デシリアの周りに集まるメンバー。
 そして召喚呪文を唱えるデシリアが居て、眩い光を放つ召喚陣が出現し、その中央に異形の存在が現れる。
 宙に浮く真っ黒な球形のそれには無数の目がある。人の眼球とは異なるようで、瞳孔は十文字で赤く光る虹彩を持っているようだ。更に目の周囲には何やら触角のようなものが、無数に生えていて波打つように動く。

「あ」
「どうした?」

 デシリアの様子が少し変。あちこち見てるけど「何これ」と。
 俺を見て「イグナーツを見てるんだけど、なんか視点が変なの」と口にする。

「えっと、どう見えてるの?」
「アナグノリシから見てる感じ」

 つまりは召喚した存在の目を通して見てる。そういうことらしい。
 視覚を共有している可能性がある。そして動き出すアナグノリシと呼んだ存在。複数ある通路を見ているとデシリアが言う。
 移動するアナグノリシだったけど、通路の壁を無視して嵌まっていく感じだ。

「壁があっても素通りできるみたい」

 姿が見えなくなると「頭、痛い」と言うデシリアだ。
 眼球が激しく動き目を回しているような。ふらふらとして倒れそうだし。

「デシリアさん、大丈夫?」
「気持ち悪い」
「どうすれば」

 前に倒れそうになるから支えると「一度に全部見えてる」と口にし、俺に寄り掛かるデシリアだ。
 暫くすると「あった」と言って、帰還呪文だろうか唱えると脱力して、完全に俺に体を預ける形になった。

「目は回るし一度に全部見えてくるし」

 途中でモンスターにも遭遇したらしい。でも触れた瞬間にモンスターが蒸発したようで。壁が障害物にならず、全て素通りしてしまう特殊な存在のようだ。
 体調が戻るとデシリアから説明される。

「正面右から五番目の通路が近道」

 通路は全部で十二あって、五番目と八番目だけが下層階へ通じるらしい。あとは全て内部で繋がっていて、元の場所に戻ってしまうそうだ。
 距離は短いが動く植物のようなものが居て、それらが弾丸の如く何かを飛ばしてくる。視認するのも難しい速度らしい。ただ、召喚した存在には通じないから、モンスター諸共蒸発してしまうようだけど。

「盾が無いと進むのは難しいかも」

 木製の盾だとすぐ壊れる可能性がある。金属製の頑丈な盾で防御が必要と見たそうで。
 そうなると先へ進むには装備がない。

「距離は無いから通路の入り口から全部焼き払えば」

 進める可能性はあると言う。

「じゃあ、あたしが聖法術で」
「デシリアには無理をさせられないからな」

 モンスターの弱点となるもの、何を飛ばしてくるのかも分かるらしい。

「種を弾丸の代わりに飛ばすみたい」
「大きさは?」

 五センチくらいの楕円形。それを無数に飛ばしてくると。当たれば死ぬ可能性が高い。迂闊に入ればただの的にしかならないそうだ。中に入って少し進むと攻撃してくる。
 一応、用心のため通路入り口の少し離れた場所から、聖法術で中に居るモンスターを全て焼き払うことに。
 ヘンリケが術を行使すると、凄まじい炎が発生し奥へと燃え広がっていく。
 ただ、短いとはいえ距離はそれなりにある。全部を焼き払えないそうで、中に入りもう一度放つ必要はあるそうだ。

「俺とアルヴィンが盾になる」
「大丈夫なの?」
「目で追える速度なら剣で薙ぎ払うだけだ」
「追えなかったら?」

 その場合は体で受け止めるとか言ってる。無茶なと思う。

「死ぬかもしれないよ」
「何とかする」

 そう言うとモルテンとアルヴィンが先行し、慎重に歩みを進めるが、やはりそう簡単には通してくれないようだ。

「来たぞ!」

 飛来する弾丸の如き種。殆ど音もなく視認しづらい薄暗さの中。
 それでもモルテンとアルヴィンが、機敏な動きを見せ払い落とす。
 通路を凡そ半分程度まで進んだ頃だろう、辿り着くと飛来する種の数も増加し、体を掠ることも増えてきた。
 モルテンやアルヴィンが払い損ねた種は、ヴェイセルが落とすが、それでも全部は落とせずデシリアやヘンリケにまで当たりそうになる。

「数が多過ぎる」
「痛っ!」

 ダガーを手に種を落とすデシリアだったけど、やはり数が多くなると限界はあるようだ。
 俺が前に出て盾になろうとすると制止される。

「イグナーツは前に出ないで」
「でも」
「対処できないでしょ」

 まるで銃弾の雨あられだ。速度が出ていないのが救いだとは思うけど。
 ここでヘンリケによる聖法術が炸裂した。

「お待たせ」

 爆炎が通路を突き進み、先に居るであろうモンスターを、片っ端から焼き払っているようだ。
 白色の炎の塊は眩しく通路を照す。熱も同時に伝わってくる。
 少しすると種が飛んでこなくなった。

「通路の出口まで焼き払ったみたい」

 モンスターが出てくる前に通路を抜けることに。
 全員が駆け足で通路を走り抜けると少し広い空間に出る。入って来た場所と同様だ。下層階への階段があり反対側には、やはり複数の通路の入り口がある。
 四十四階層へ向かう前に態勢を整え直すことに。

 モルテンやアルヴィンだけじゃなく、ヴェイセルもデシリアも怪我を負っている。

「治療するからね」

 ヘンリケによりひとりずつ治療されるが、あくまで応急処置レベルだ。抉られた皮膚を塞ぎ出血を止め包帯を巻いておく。
 バッグからガーゼと包帯を取り出し、ヘンリケに手渡すと手際よく処置をする。

「ここはあれだ」
「他のラビリントより難易度が高い」
「想定外だな」

 モルテンとアルヴィン、それとヴェイセルが口にする。

「ここって、難易度高いんですか?」

 疑問に感じて聞くと。

「四十階層前後で苦戦させられるのはな」

 三十六階層以降、難易度の上がり方が尋常じゃないそうで。他のラビリントは緩やかに難易度が上がる。
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