不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.76 本日二回目の召喚で疲労

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 四十一階層から下りた先の踊り場とでも言えばいいのか。その場所から俯瞰して眺める四十二階層の広大な空間は、全てが水で満たされたかの如く。

「試しに湖に見える場所に、何か攻撃を加えてみるか」

 モルテンの提案で銃撃を試みることに。
 ヴェイセルが銃を構え湖面に向け銃弾を放ち様子を窺う。何某かの反応があった場合に対処するため、後衛は出口付近に纏まって待つのだが。
 前衛の二人は剣を抜いて警戒してる。デシリアは俺の背中に隠してるけど。

「イグナーツが盾にならなくても」
「デシリアさんとヘンリケさんを守れば、不測の事態にも対応しやすいから」
「怪我したらすぐ治してあげるからね」
「あたしなら大丈夫なんだけどな」

 確かにデシリアが早々怪我を負うことは無いと思う。俺より遥かに軽快な動きができるし。いちいち呪文を唱えなくても、魔法を発動できるし。俺より遥かに頼りになるから。
 それでも足場として狭い上に、怪我を負えば動きは鈍るし、それが重傷に至る場合は後に影響するだろう。ならば俺が受け止めておけばいい。
 一応銃は構えておく。

 乾いた音が何発分か鳴り響くと湖面に小さな波紋が発生する。
 水なら抵抗が大きいから銃なんて、ほとんど役に立たないよね。

「反応は?」
「無いな。いや、何かが向かって来る」

 水平方向右手側と左手側から、飛来する何かが居るようで、目を凝らして見ると羽の生えた魚のような。トビウオにしては口先が尖り過ぎてる。
 トビウオの胸びれを持ちサイズはカジキのような魚だ。水中から姿を現し水平飛行になり、こっちに向かって来るその数は二十を超えてる。

「迎え撃つぞ」

 速度はそこまで速くはない。たぶん時速百キロ以下。それでも鋭い口先が当たれば、間違いなく大怪我するし、下手すれば命を落としかねない。
 銃撃をするヴェイセルが居て、到達する魚はモルテンとアルヴィンが排除。
 とりあえず銃弾は通用するのと、前衛二人で充分に対処できてる。片っ端から落として少しすると静かになった。

「まあ、パターンとしてはな」
「上と同じか」
「足を踏み入れれば」
「水が襲い掛かる可能性は高い」

 水面に近付けば何かしらアクションはありそうだ、と結論を得る。
 ならば、この位置から召喚で消せば済むわけで。今なら安全に対処可能と判断したようだ。

「じゃあ呼ぶけど」
「空振りになる可能性もある」
「無駄撃ちは痛いが、万が一逃げ場のない下だとな」

 デシリアが召喚呪文を唱え始めると、空中に光が発生し魔法陣が描かれて行く。

「ディアスタティキ・シンデシ・ディア……」

 デシリアが召喚呪文を唱えると同時に湖面が激しく波打ち、水柱となって踊り場に向けて動き出す。その水柱は先端が槍の如く鋭さを持ち、複数纏めて向かって来るが次々弾けて行く。風のバリアだろうか、どうやら強烈な風により阻んでいるようだ。

「聖法術で抑えるから、その間にね」

 ヘンリケの聖法術だ。大気を操り風の防壁を出現させた。

「カタストレプステ・アフトゥス・ポイ・サス・エナンティオンタイ」

 なんか以前聞いた呪文とは違うような。
 ヘンリケが術を使い攻撃を防ぐ間、確実に唱えるデシリアが居て、周囲に身を寄せる俺たちだ。デシリアから離れると巻き添えで命を落とすから。

「エキディロシ。エクサレイプシ!」

 完成した魔法陣から顕現と言った方がいいくらい、またしても心臓が止まりそうな恐怖感を得る。
 それは宙に浮く大きな存在。高さ十五メートルはありそうな。ただし、八角錘を底辺で二つ合わせたよう形状で、八角錘の頂点は複数に分岐し花を咲かせたような。
 全体は緑色の光を発していて、下側に花開いた感じの部分から水面を覆うように光の幕が広がった。

 湖のようなモンスターは踊り場から離れ、おそらくは下層階へ繋がる階段付近に逃げているようだ。湖底らしきものが少しずつ露になる。
 しかし、それも無駄な行動のようで、幕が湖面を覆った瞬間、全てが消え去ってしまった。
 デシリアが帰還呪文を唱えると、エクサレイプシと呼ぶ存在も消える。

 デシリアが倒れてくるから、咄嗟に支えると「今日二回目。上手く行ったね」と、笑顔でサムズアップしてるし。かなり疲れているようで、体に力が入らないようだ。
 全員が深呼吸をして落ち着くと「少し無理をさせたか」なんてモルテンが言ってる。

「無理じゃないよ」
「その姿を見て、誰が無理してないと思う?」
「だって、まだまだいけるから」
「いや、やはり負担は大きいだろ」

 アルヴィンとヴェイセルが湖だった場所を見て「見事に何も無いな」と呆れているようで。
 デシリアを見て「無理もそうだが、あとに何も残さないってのもな」と。

「じゃあ、湖に入って食われるの?」
「いや、他に何かしら手段は無いかってな」

 今後はそれも考えた方がいいかもしれない。召喚は奇跡の力に等しく感じるけど、デシリアにも相当な負担が掛かってる。
 それにしても、これだけ召喚者に負担を掛ける存在って。もう神に等しくないかと思う。回数制限ってのもそうだし。

「デシリアは歩けそうか?」
「無理」

 俺を見て手を伸ばすデシリアが居る。

「ここはもう安全でしょ」
「まあ、現時点でモンスターの気配は微塵も無いがな」
「じゃあ、イグナーツ」

 目が訴えてる。両腕を前に広げ抱っこしろと。
 どうしたものかと思いモルテンを見ると。

「まあ、やむを得まい」
「階段から転げ落ちられても困るからな」
「ちゃんと持ってあげてね」

 と言うことで俺がデシリアを前に抱え、五十段はある階段を下りることに。
 ここも手摺なんて無いから、足を踏み外せばひたすら転げるか、地面に真っ逆さまだな。足元に気を付けて一歩一歩慎重に下りよう。
 大切な人を抱えてるし。

「ねえイグナーツ君」
「なんですか?」
「重くないの? デシリアがお荷物になってて」
「いえ。大切な人なんで」

 ヘンリケがお荷物、なんて言うからデシリアが「荷物違う」と言って、頬を膨らませてるし。でも俺の大切な人って言葉で、すぐ笑顔になった。
 背中に背負ってる荷物は確かに重い。でも前に抱えるデシリアは本当に軽く感じる。大切に想うからこそ、重いとか思えないのかも。
 腕を首に絡めるデシリアだけど「イグナーツはやっぱり凄いな」って、全然凄くないと思う。みんなと比較したら戦力としては、未熟極まりない存在だし。ただ荷物を運べるだけ。

 慎重に階段を下りて地面に足を下ろし、やっと普通に歩ける状態になった。転がり落ちたら、どうしようなんて不安もあったし。

「イグナーツ」
「何?」
「休まないの?」
「何もしてないから疲れは無いんだけど」

 まだ俺の腕に抱えられるデシリアだけど。

「じゃあ下の階層までこのままで」

 そう言って首に絡めた腕で、俺の頭を無理やりデシリアの顔に近付けさせられる。
 首が痛い。まさかキスでもしようとしてる? 周りに人居る中で?
 それとデシリアが動くから背中に回す腕の位置が少しずれる。落としそうになるから姿勢を直そうとすると、なんか手の位置が非常にヤバいことに。

「あ、えっと」
「いいってば」
「あの、でも」
「ご褒美だから」

 ここでご褒美って言われても。俺の手がデシリアの柔い部分に食い込んでるんです。なんか凄く柔い。
 それにご褒美はデシリアにこそ必要じゃないかと。
 でも笑顔で「イグナーツ、顔赤い」なんて言ってるし。

「いい雰囲気だな」
「みんな席を外すから愉しんだらどうだ?」
「イグナーツ君も愉しみたいでしょ」
「俺たちは先に階段を下りて待つぞ」

 面白がってる。

「あの、そう言うことは」
「帰ってから、でしょ」
「えっと、そう、です」

 ヘンリケが声を押し殺しながら笑ってるし。

「あ、ねえ。もう歩けるよ」

 デシリアも頬を真っ赤に染めて、降ろしていいと言って足をバタバタしだした。
 そっと降ろすと手に残る柔い感触。少し惜しいなんて思ったり。

「ありがとうね。好きだよ」
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