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天使到来
4 戦天使
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“捕虜で拷問中だった。”
召喚魔法により強制的に呼び出されたイリディウスの衝撃告白に、ラグナは胸に氷を押し付けられたようなショックを受けていた。大声を久しぶりに出した後、さらに疑問が口をついて出ていた。
「待って、なんでさっきからそんなに帰りたがってたわけ!? 戻ったら拷問される場所に帰るって知ってて!?」
「それが本来私がいるべき場所だからだ」
今日の天気は晴れですね、と言うように話すイリディウスの顔には恐怖や怯えなどの色は一切ない。これが超越した存在の思考回路なのか?!とラグナは一瞬別の方向に飛びそうになる思考を引き留めて目の前の超越者に向き合った。
「いやいやいや、意味わかんないよ! 何で痛めつけられに戻るのが正しいと思うんだよ!? あんたマゾなのか!?」
「マゾ……マゾヒストでもマゾヒズムでもないが。ここに召喚されたのはイレギュラーであり戻るのが正しい私の運命だ」
「それを運命っていうなら、俺がここにあんたを召喚したのも運命ってことだよ! いいか? あんたはここにいろ! せめて怪我が治るまで!」
「いや、だが…」
「だがもへちまもなし!」
それまで大人しい振る舞いだったラグナが感情むき出しにして強く言い放つ彼の剣幕に虚をつかれたイリディウスは、それ以上言い募ることはしなかった。
「なんて恐ろしい勘違いをしてたんだ俺は…! てっきり天界で治療を早く受けたいから帰りたがってるとばかり…」
「何故そう思う」
「何故って…そりゃそう思うだろ! 天界には治癒天使だっているんだろ? きっとあんたのその失われた羽根だって戻して…」
「いいや。翼を失えばもう欠陥品、私の治療順序は後回しになるだろう」
「~~~!! もう! ダメ! あんたはここ! で! 療養すること!」
「だが…」
「文句は言っても戻さないからな! これはお願いじゃない、“命令”だ!」
「…っ!!」
ラグナの半分ヤケクソな言葉にイリディウスの身体がギシリと強張り、息を呑む。その明らかな反応には頭に血が昇っていたラグナの目にも留まった。
「…今のは取り消せ」
「ひょっとして…」
「取り消しなさい、ラグナ」
初めてラグナの名前を呼んだイリディウスの眼差しは真剣だ。真剣すぎるくらい、というか、少し焦っているようでもある。
反対にラグナは何一つ見逃しはしないと言いたげにジッとイリディウスを見つめると、徐に口を開いた。
「イリディウス、そこのソファに座れ」
普段他人に使うことのない、高圧的とも言える言い回し──命令形で言えば。
渋々といった顔ではあるがその足どりは素直にリビングのカウチソファに向かうと、ストンと素直にソファに腰掛ける。
「ラグナ…」
「ふん、ふんふん…それじゃあ、包帯取り替えようか」
生真面目な顔を貼り付けていた天使がここで初めて戸惑いのような、若干心許ない、と言った表情を見せた。
だがひとり納得顔で即席救急箱の医療品を詰めた箱を抱えてきたラグナは構うことなく、血の滲んでいる箇所の包帯を解き始めていく。
「放っておけばそのうち傷も塞がる」
「そうなの? でも今は血が出てるんだ。傷口を清潔に保っておいて損はないだろ」
先に上半身の包帯を解いていたラグナは自然とイリディウスと至近距離になっていた。顔面から身体まで見事な造形美を誇る男だが、その身体中につけられた傷の量は痛々しく、その原因が拷問という惨たらしいものによるものと知って胸が悪くなる一方だった。
「どうして拷問なんて目に? ──話してくれ」
手元は作業を止めずラグナが尋ねると、端的に天使は「戦争中だった、それだけだ」と答えた。
「天界でも争いは起きるんだね。イリディウスは何と戦ってたの?」
「天使だ」
「え…」
ラグナはてっきり悪魔や魔物といった言葉を想像していた。それがまさかの同胞は。驚いて言葉を失ったラグナに対して、イリディウスは淡々と言葉を重ねていく。
「意思持つ者が集まれば、自ずと起きる。必然だろう」
「そう、か…。じゃあ君は兵士のひとり? それとも指揮官?」
「私は戦天使だ。ただの駒に過ぎない。私の部隊は戦って、捕まった。それだけだ」
「…そう。…戻りたいのは、仲間を助けたいから?」
「いや、部隊は全滅した。私だけだ」
「……そう…」
あまりに壮絶な話を淡々と、表情も変えずに話す目の前の天使にラグナの心境は重い鉛を飲み込んだように沈んでいった。
痛みなども感情などもないように振る舞う彼は、拷問場に戻ろうとしていたのだ、さも当然の顔で。
彼は無意識のうちになのか、意識的になのか不明だが、自ら死地に、それも特別何か使命を帯びて戻ろうとしてるようには見えない、自殺行為に走ろうとしていた男にラグナは不安になった。
「イリディウス…君を必要としている人はいる? 君を殺したがってる目的以外の人でさ」
「兵士として必要とされる」
「それ以外には? 君を愛してくれたり、無事を待っていてくれるような人だよ」
「戦うこと以外に? いいや」
「じゃあ、暫くここでゆっくりして行ったらいい。いい? わかった?」
上半身の包帯の交換を終えていたラグナは、長い両足に巻いてた包帯を取り換えながらソファに座る天使を見上げた。不器用な手つきで作業するラグナを見ていたイリディウスは困った顔で見下ろしていて、まるでこれまでそんな提案をされたこともないような、そんな戸惑いの顔をしていた。だから幼児に言い聞かせるようにラグナは念を押すようにまた「わかった?」と聞くと、やっと小さく、ぎこちない動きで頷き返した。
召喚魔法により強制的に呼び出されたイリディウスの衝撃告白に、ラグナは胸に氷を押し付けられたようなショックを受けていた。大声を久しぶりに出した後、さらに疑問が口をついて出ていた。
「待って、なんでさっきからそんなに帰りたがってたわけ!? 戻ったら拷問される場所に帰るって知ってて!?」
「それが本来私がいるべき場所だからだ」
今日の天気は晴れですね、と言うように話すイリディウスの顔には恐怖や怯えなどの色は一切ない。これが超越した存在の思考回路なのか?!とラグナは一瞬別の方向に飛びそうになる思考を引き留めて目の前の超越者に向き合った。
「いやいやいや、意味わかんないよ! 何で痛めつけられに戻るのが正しいと思うんだよ!? あんたマゾなのか!?」
「マゾ……マゾヒストでもマゾヒズムでもないが。ここに召喚されたのはイレギュラーであり戻るのが正しい私の運命だ」
「それを運命っていうなら、俺がここにあんたを召喚したのも運命ってことだよ! いいか? あんたはここにいろ! せめて怪我が治るまで!」
「いや、だが…」
「だがもへちまもなし!」
それまで大人しい振る舞いだったラグナが感情むき出しにして強く言い放つ彼の剣幕に虚をつかれたイリディウスは、それ以上言い募ることはしなかった。
「なんて恐ろしい勘違いをしてたんだ俺は…! てっきり天界で治療を早く受けたいから帰りたがってるとばかり…」
「何故そう思う」
「何故って…そりゃそう思うだろ! 天界には治癒天使だっているんだろ? きっとあんたのその失われた羽根だって戻して…」
「いいや。翼を失えばもう欠陥品、私の治療順序は後回しになるだろう」
「~~~!! もう! ダメ! あんたはここ! で! 療養すること!」
「だが…」
「文句は言っても戻さないからな! これはお願いじゃない、“命令”だ!」
「…っ!!」
ラグナの半分ヤケクソな言葉にイリディウスの身体がギシリと強張り、息を呑む。その明らかな反応には頭に血が昇っていたラグナの目にも留まった。
「…今のは取り消せ」
「ひょっとして…」
「取り消しなさい、ラグナ」
初めてラグナの名前を呼んだイリディウスの眼差しは真剣だ。真剣すぎるくらい、というか、少し焦っているようでもある。
反対にラグナは何一つ見逃しはしないと言いたげにジッとイリディウスを見つめると、徐に口を開いた。
「イリディウス、そこのソファに座れ」
普段他人に使うことのない、高圧的とも言える言い回し──命令形で言えば。
渋々といった顔ではあるがその足どりは素直にリビングのカウチソファに向かうと、ストンと素直にソファに腰掛ける。
「ラグナ…」
「ふん、ふんふん…それじゃあ、包帯取り替えようか」
生真面目な顔を貼り付けていた天使がここで初めて戸惑いのような、若干心許ない、と言った表情を見せた。
だがひとり納得顔で即席救急箱の医療品を詰めた箱を抱えてきたラグナは構うことなく、血の滲んでいる箇所の包帯を解き始めていく。
「放っておけばそのうち傷も塞がる」
「そうなの? でも今は血が出てるんだ。傷口を清潔に保っておいて損はないだろ」
先に上半身の包帯を解いていたラグナは自然とイリディウスと至近距離になっていた。顔面から身体まで見事な造形美を誇る男だが、その身体中につけられた傷の量は痛々しく、その原因が拷問という惨たらしいものによるものと知って胸が悪くなる一方だった。
「どうして拷問なんて目に? ──話してくれ」
手元は作業を止めずラグナが尋ねると、端的に天使は「戦争中だった、それだけだ」と答えた。
「天界でも争いは起きるんだね。イリディウスは何と戦ってたの?」
「天使だ」
「え…」
ラグナはてっきり悪魔や魔物といった言葉を想像していた。それがまさかの同胞は。驚いて言葉を失ったラグナに対して、イリディウスは淡々と言葉を重ねていく。
「意思持つ者が集まれば、自ずと起きる。必然だろう」
「そう、か…。じゃあ君は兵士のひとり? それとも指揮官?」
「私は戦天使だ。ただの駒に過ぎない。私の部隊は戦って、捕まった。それだけだ」
「…そう。…戻りたいのは、仲間を助けたいから?」
「いや、部隊は全滅した。私だけだ」
「……そう…」
あまりに壮絶な話を淡々と、表情も変えずに話す目の前の天使にラグナの心境は重い鉛を飲み込んだように沈んでいった。
痛みなども感情などもないように振る舞う彼は、拷問場に戻ろうとしていたのだ、さも当然の顔で。
彼は無意識のうちになのか、意識的になのか不明だが、自ら死地に、それも特別何か使命を帯びて戻ろうとしてるようには見えない、自殺行為に走ろうとしていた男にラグナは不安になった。
「イリディウス…君を必要としている人はいる? 君を殺したがってる目的以外の人でさ」
「兵士として必要とされる」
「それ以外には? 君を愛してくれたり、無事を待っていてくれるような人だよ」
「戦うこと以外に? いいや」
「じゃあ、暫くここでゆっくりして行ったらいい。いい? わかった?」
上半身の包帯の交換を終えていたラグナは、長い両足に巻いてた包帯を取り換えながらソファに座る天使を見上げた。不器用な手つきで作業するラグナを見ていたイリディウスは困った顔で見下ろしていて、まるでこれまでそんな提案をされたこともないような、そんな戸惑いの顔をしていた。だから幼児に言い聞かせるようにラグナは念を押すようにまた「わかった?」と聞くと、やっと小さく、ぎこちない動きで頷き返した。
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