『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ

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第17章 アトリエ防衛戦と汚染源の特定

17-4:聖樹の真下、呪いの通路

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マルクの案内と、リリアの『感知』は、完璧だった。
私たちは、騎士たちが決して足を踏み入れない、森の獣道、そして、誰も知らない、聖樹の真下の「禁足地」へと、音もなく、たどり着いた。
聖樹の根本。
そこは、あの治療から数日しか経っていないにもかかわらず、再び、黄金色の樹液が溢れ出し、粘つく「沼」と化していた。あの穏やかだった光は、再び、苦しげな「明滅」を繰り返している。
「……騎士隊。周囲を警戒して。マルク、あなたも、ここからは、私たち(大人)の戦いだ。少し離れて、様子を見ていて」
「……わかった、薬師様。でも、気を付けてね!」
マルクは、名残惜しそうに、聖樹の影へと身を潜めた。
「ソフィア様、リリア様。ここからは、私たちが、命がけで、あなた方を守ります」
騎士隊長が、私に、敬礼した。彼の銀色の甲冑は、泥と、血で汚れているが、その瞳には、一瞬の迷いもなかった。
「ありがとう、キャプテン」
私は、騎士隊長に、深々と、頭を下げた。
「リリア様。お願い。あなたの『目』で、地下への『入口』を」
リリアは、怯えを押し殺し、再び、目を閉じた。彼女の全神経が、聖樹の「悲鳴」に、同調(シンクロ)する。
「……ここ……!」
リリアが、指差した場所。
それは、聖樹の真下、あの粘つく黄金色の沼の、最も深遠な場所だった。
「……そこは、沼の底ではないか!」
騎士たちが、声を上げた。
「騎士隊! 風の魔法で、沼の泥を、吹き飛ばせ!」
私は、叫んだ。
騎士たちは、即座に、短杖を構える。彼ら(ソーサラー・ナイト)の、複合魔術(コンバット・マジック)が、起動する。
「「「『風よ、渦巻け(ガイル・ウィンド)』!」」」
四人の騎士が放った風の刃が、渦を巻き、黄金色の沼の泥を、竜巻のように、吹き飛ばした。おぞましい腐敗臭が、あたりに、撒き散らされる。
ゴウッ!
泥の下から、現れたのは、巨大な、口を開けた「穴」だった。
「……これは」
騎士隊長が、絶句した。
それは、獣の巣でも、魔物の住処でもない。
古代の、黒い、玄武岩(げんぶがん)のような石で、完璧な「長方形」に、切り出された、人工的な「通路」の入り口だった。
通路の内部は、真っ暗闇。
懐中魔灯(ハンドランプ)の光を向けると、その闇は、どこまでも、深く、続いているように見えた。
そして、その奥からは、あの『ブライト』の、冷たい、金属のような「死の匂い」と、
(……カチ……カチ……カチ……)
微かに、規則正しい、何かが、作動する「機械音」が、響いてくる。
「……地下へ、潜るわ」
私は、革のバッグを背負い直した。
「騎士隊。あなたたちは、私とリリアに続いて、この通路に突入します。ただし、奥の広間には入らず、私の『合図』があるまで、この通路の闇に潜んで待機して。ヴォルフラムに、私たちの戦力が『二人だけ』だと、誤認させるわ」
「……っ! 承知いたしました! ソフィア様の合図、お待ちしております!」
騎士隊長は、悔しそうに、しかし、この奇襲作戦の意図を理解し、剣の柄を握りしめた。
「リリア様、行くわよ」
「……はい!」
私とリリアは、懐中魔灯(ハンドランプ)を手に、その、暗く、冷たい、古代の通路へと、足を踏み入れた。
通路の壁は、冷たい石。そして、その石の継ぎ目からは、あの『黒い汚泥(ブライト)』が、まるで黒い血のように、滲み出ている。
リリアが「冷たい」と言った通り、通路の中は、まるで氷室(ひむろ)のように、空気が、冷え切っていた。
「……ソフィア様。……あの、機械の音。……どんどん、大きく……」
リリアが、震える声で呟いた。
彼女の「感知」は、この通路全体が、呪いの「血管」となっていることを、教えているのだろう。
私たちの前方に、通路の「終わり」が、見えた。
そこだけが、不気味に、青白く、光っている。
そこには、巨大な、石造りの「空間」が、広がっていた。
そして、その空間の中心。
青白い光を放つ、巨大な「地下水脈(レイライン)の源流」の、ほとりで。
ヴォルフラム・フォン・シュタイン伯爵が、白い作業着姿で、まるで、待ちくたびれた教授が、遅刻した生徒を、待つかのように、静かに、私たちを、待ち構えていた。
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