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第17章 アトリエ防衛戦と汚染源の特定
17-5:汚染源(プラント)の核心
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通路を抜け、私とリリアは、巨大な地下空間に、足を踏み入れた。
そこは、自然の洞窟ではなかった。
古代の石造りの、人工的な「作業場」だった。
天井は高く、影に失われ、その広さも把握できない。湿った空気は、通路(呪いの血管)よりもさらに冷たく、私たちの呼吸は、瞬時に、白い霧となって霧散した。
カチ……カチ……カチ……。
通路で微かに聞こえていた、あの規則正しい「機械音」が、ここでは、反響し、大きく響き渡っている。
それは、まるで、巨大な、鉄の心臓の鼓動のようだった。
空間の中央、そこが、この地下世界の、光源だった。
アルベルトの地図に描かれていた、『地下水脈(レイライン)』。
それは、ただの水溜まりなどではなかった。大地そのものの裂け目から、この国の「命」そのものが、青白い、幽霊のような光を放ちながら、湧き出ている。
だが、それは、聖樹が放っていた、あの温かい「黄金色」の光ではない。
あまりにも純粋すぎて、生命の温かみを感じさせない、冷たく、無機質な「魔力(マナ)の源流」だった。
そして、その中心。
その、青白い源流の、まさに「心臓部」を、突き刺すかのように。
あの「杭」は、そびえ立っていた。
「……あれが」
リリアが、私の服を掴む手に、爪が食い込むほどの力を込めて、悲鳴のような声を上げた。
それは、ただの「鉄の杭」ではなかった。
私のアトリエ(小屋)の、数倍はあろうかという、黒々とした、巨大な「錬金術装置」。
黒い金属の表面には、油のような光沢が走り、魔術のルーンとは似ても似つかない、精密で、冷たい、幾何学的な「錬金術」の紋様が、刻まれている。
その杭は、レイラインの源流に、深く、深く、突き刺さり、その脈動(カチ……カチ……)に合わせて、周囲の青白い光を、黒く、淀ませていた。
杭の周囲には、無数の「蒸留器」のようなガラス器具が、血管のように、複雑に絡み合い、その中を、あの『黒い汚泥(ブライト)』が、ゆっくりと、しかし確実に、脈動しながら流れている。
巨大なタンクから供給された「黒」が、杭を通じて、レイラインの「白」へと、絶え間なく、注入されていた。
まるで、清らかな泉に、毒物を、点滴し続けているかのような、おぞましい光景だった。
そして、その空間の中心。
その「錬金術装置(プラント)」の、操作盤(コンソール)らしきものが置かれた、一段高い台座の上に。
ヴォルフラム・フォン・シュタイン伯爵が、白い作業着姿で、静かに、私たちを、待ち構えていた。
彼は、腕を組み、まるで、遅刻してきた生徒を待つ、教授のように、そこに立っていた。
その、白い作業着は、この、黒い汚泥(ブライト)が脈打つ、おぞましい空間の中で、一筋の汚れもなく、不気味なまでに、清廉だった。
彼の傍らには、三体の、無骨な「錬金術ゴーレム」が、まるで忠実な従者のように、静かに、立ち尽くしている。
それは、ハンスさんたちが作るような、温かみのある「ゴーレム」ではない。
磨き上げられた、黒曜石と、鋼鉄の、完璧な「機械(マキナ)」だった。
「……遅かったな、ソフィア『化学者』よ」
ヴォルフラムの声は、冷たかった。
彼の灰色の瞳には、一切の感情が読み取れない。
彼は、私たち(侵入者)を見ても、驚きも、怒りも、見せなかった。
まるで、すべてが「計算通り」であると、言わんばかりに。
「やはり、君は、ここに来たか。……君の、その『探求心(好奇心)』には、敬意を表する」
彼の視線は、私の背負った革バッグ(化学兵器)と、私の隣で、恐怖に震えるリリア(聖性)に、一瞬、留まった。
「……その、哀れな『アンテナ(リリア)』まで連れてくるとはな。感傷的だ、化学者。効率が悪い」
彼の冷徹な言葉に、リリアの体が、ビクッと、震えた。
(アンテナ)
(彼も、リリアの『本質』を、見抜いている)
「ヴォルフラム・フォン・シュタイン」
私は、ナイフを握りしめ、一歩、前に出た。
私の声が、この、冷たい石の空間に、響く。
「あなたの目的は、分かっているわ。『ブライト』を、この地下水脈に流し込み、聖樹と、この国を、無力化すること」
「目的は、違うな」
ヴォルフラムは、鼻で笑った。
それは、感情ではなく、計算の結果として、生じた、微かな「侮蔑」の音だった。
「私の目的は、ただ一つ。『ブライト』という、最高の『反魔術触媒』の、性能(データ)を、完全に、観測(・・)することだ。この森は、そのための、最高の『実験場(ラボラトリー)』。そして、君と、君の友(ギルバート)は、最高の『被験体』だった」
(……被験体、ですって?)
私の、研究者としての、冷静な思考が、彼の、非人道的な「言葉」に、一瞬、沸騰しそうになる。
彼は、指差した。
彼の背後。地下水脈の「源流」の、真上。
あの、黒い「杭」を。
「……あれが」
リリアが、悲鳴のような声を上げた。
「……樹が、一番、痛がってる場所……! あれが、樹の『心臓』に、刺さってる……!」
彼女の「感知」は、あれが、呪いの「本体」であることを、教えている。
「ああ。これが、私の『高高度大気研究所』だ。地下水脈に沿って、ブライトを、均一に、流し込むための、精密な『錬金術装置(プラント)』」
ヴォルフラムは、白い作業着の袖をまくり上げた。
彼は、まるで、自らの、最高傑作を、披露するかのように、その「杭」を、誇らしげに、見つめた。
「この杭を、一本、打ち込むだけで、この森の、すべての魔力(マナ)の流れが、永久(とわ)に、汚染される。魔術などという、不確かな『まじない』に頼る、君たちの、この国は、明日にも、瓦解(がかい)する」
「……させないわ」
私は、背中の革バッグから、閃光弾(マグネシウム+ハーブ)の、フラスコを、取り出した。
冷たいガラスの感触が、私の、怒りに燃える、手のひらに、心地よかった。
「私は、化学者よ。あなたの『錬金術(アルケミー)』が、何をベースにしていようと、それが『物質』である限り、必ず、それを『無力化』する、化学反応(アンチテーゼ)があるわ」
「面白い」
ヴォルフラムの灰色の瞳が、初めて、私の『挑戦』を、捉えた。
その瞳には、初めて、ほんのわずかな、「興味」の色が浮かんだ。
それは、魔術師(ギルバート)に向けた「侮蔑」とは、違う。
同じ「理(ルール)」の、土俵に上がってきた者への、「値踏み」の光だった。
「試してみるか? 原始的な『化学(ケミストリー)』が、近代の『錬金術(アルケミー)』に、どこまで、通用するかを」
カシャ、と。
彼の傍らの、三体の錬金術ゴーレムが、重い、石の体を揺らし、その、黒曜石の、無機質な「目」を、私たちに、向けた。
ゴウン、ゴウン、と。
ゴーレムの、内部の「炉」が、起動する、低い、重い音が、響く。
「行け」
ヴォルフラムの、その、たった一言の「命令」で。
三体の、死の機械(マキナ)が、ゆっくりと、私とリリアに、向かって、歩き出した。
『特務隊による、汚染源破壊作戦(フェーズ2)』が、今、始まった。
そこは、自然の洞窟ではなかった。
古代の石造りの、人工的な「作業場」だった。
天井は高く、影に失われ、その広さも把握できない。湿った空気は、通路(呪いの血管)よりもさらに冷たく、私たちの呼吸は、瞬時に、白い霧となって霧散した。
カチ……カチ……カチ……。
通路で微かに聞こえていた、あの規則正しい「機械音」が、ここでは、反響し、大きく響き渡っている。
それは、まるで、巨大な、鉄の心臓の鼓動のようだった。
空間の中央、そこが、この地下世界の、光源だった。
アルベルトの地図に描かれていた、『地下水脈(レイライン)』。
それは、ただの水溜まりなどではなかった。大地そのものの裂け目から、この国の「命」そのものが、青白い、幽霊のような光を放ちながら、湧き出ている。
だが、それは、聖樹が放っていた、あの温かい「黄金色」の光ではない。
あまりにも純粋すぎて、生命の温かみを感じさせない、冷たく、無機質な「魔力(マナ)の源流」だった。
そして、その中心。
その、青白い源流の、まさに「心臓部」を、突き刺すかのように。
あの「杭」は、そびえ立っていた。
「……あれが」
リリアが、私の服を掴む手に、爪が食い込むほどの力を込めて、悲鳴のような声を上げた。
それは、ただの「鉄の杭」ではなかった。
私のアトリエ(小屋)の、数倍はあろうかという、黒々とした、巨大な「錬金術装置」。
黒い金属の表面には、油のような光沢が走り、魔術のルーンとは似ても似つかない、精密で、冷たい、幾何学的な「錬金術」の紋様が、刻まれている。
その杭は、レイラインの源流に、深く、深く、突き刺さり、その脈動(カチ……カチ……)に合わせて、周囲の青白い光を、黒く、淀ませていた。
杭の周囲には、無数の「蒸留器」のようなガラス器具が、血管のように、複雑に絡み合い、その中を、あの『黒い汚泥(ブライト)』が、ゆっくりと、しかし確実に、脈動しながら流れている。
巨大なタンクから供給された「黒」が、杭を通じて、レイラインの「白」へと、絶え間なく、注入されていた。
まるで、清らかな泉に、毒物を、点滴し続けているかのような、おぞましい光景だった。
そして、その空間の中心。
その「錬金術装置(プラント)」の、操作盤(コンソール)らしきものが置かれた、一段高い台座の上に。
ヴォルフラム・フォン・シュタイン伯爵が、白い作業着姿で、静かに、私たちを、待ち構えていた。
彼は、腕を組み、まるで、遅刻してきた生徒を待つ、教授のように、そこに立っていた。
その、白い作業着は、この、黒い汚泥(ブライト)が脈打つ、おぞましい空間の中で、一筋の汚れもなく、不気味なまでに、清廉だった。
彼の傍らには、三体の、無骨な「錬金術ゴーレム」が、まるで忠実な従者のように、静かに、立ち尽くしている。
それは、ハンスさんたちが作るような、温かみのある「ゴーレム」ではない。
磨き上げられた、黒曜石と、鋼鉄の、完璧な「機械(マキナ)」だった。
「……遅かったな、ソフィア『化学者』よ」
ヴォルフラムの声は、冷たかった。
彼の灰色の瞳には、一切の感情が読み取れない。
彼は、私たち(侵入者)を見ても、驚きも、怒りも、見せなかった。
まるで、すべてが「計算通り」であると、言わんばかりに。
「やはり、君は、ここに来たか。……君の、その『探求心(好奇心)』には、敬意を表する」
彼の視線は、私の背負った革バッグ(化学兵器)と、私の隣で、恐怖に震えるリリア(聖性)に、一瞬、留まった。
「……その、哀れな『アンテナ(リリア)』まで連れてくるとはな。感傷的だ、化学者。効率が悪い」
彼の冷徹な言葉に、リリアの体が、ビクッと、震えた。
(アンテナ)
(彼も、リリアの『本質』を、見抜いている)
「ヴォルフラム・フォン・シュタイン」
私は、ナイフを握りしめ、一歩、前に出た。
私の声が、この、冷たい石の空間に、響く。
「あなたの目的は、分かっているわ。『ブライト』を、この地下水脈に流し込み、聖樹と、この国を、無力化すること」
「目的は、違うな」
ヴォルフラムは、鼻で笑った。
それは、感情ではなく、計算の結果として、生じた、微かな「侮蔑」の音だった。
「私の目的は、ただ一つ。『ブライト』という、最高の『反魔術触媒』の、性能(データ)を、完全に、観測(・・)することだ。この森は、そのための、最高の『実験場(ラボラトリー)』。そして、君と、君の友(ギルバート)は、最高の『被験体』だった」
(……被験体、ですって?)
私の、研究者としての、冷静な思考が、彼の、非人道的な「言葉」に、一瞬、沸騰しそうになる。
彼は、指差した。
彼の背後。地下水脈の「源流」の、真上。
あの、黒い「杭」を。
「……あれが」
リリアが、悲鳴のような声を上げた。
「……樹が、一番、痛がってる場所……! あれが、樹の『心臓』に、刺さってる……!」
彼女の「感知」は、あれが、呪いの「本体」であることを、教えている。
「ああ。これが、私の『高高度大気研究所』だ。地下水脈に沿って、ブライトを、均一に、流し込むための、精密な『錬金術装置(プラント)』」
ヴォルフラムは、白い作業着の袖をまくり上げた。
彼は、まるで、自らの、最高傑作を、披露するかのように、その「杭」を、誇らしげに、見つめた。
「この杭を、一本、打ち込むだけで、この森の、すべての魔力(マナ)の流れが、永久(とわ)に、汚染される。魔術などという、不確かな『まじない』に頼る、君たちの、この国は、明日にも、瓦解(がかい)する」
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「私は、化学者よ。あなたの『錬金術(アルケミー)』が、何をベースにしていようと、それが『物質』である限り、必ず、それを『無力化』する、化学反応(アンチテーゼ)があるわ」
「面白い」
ヴォルフラムの灰色の瞳が、初めて、私の『挑戦』を、捉えた。
その瞳には、初めて、ほんのわずかな、「興味」の色が浮かんだ。
それは、魔術師(ギルバート)に向けた「侮蔑」とは、違う。
同じ「理(ルール)」の、土俵に上がってきた者への、「値踏み」の光だった。
「試してみるか? 原始的な『化学(ケミストリー)』が、近代の『錬金術(アルケミー)』に、どこまで、通用するかを」
カシャ、と。
彼の傍らの、三体の錬金術ゴーレムが、重い、石の体を揺らし、その、黒曜石の、無機質な「目」を、私たちに、向けた。
ゴウン、ゴウン、と。
ゴーレムの、内部の「炉」が、起動する、低い、重い音が、響く。
「行け」
ヴォルフラムの、その、たった一言の「命令」で。
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