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第19章:新生の聖女と「能力の変化」
19-3:新生の「初仕事」
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「……私の、目(ちから)を、ですか?」
リリアは、私の、あまりにも真剣な、ギラギラとした赤い瞳に、戸惑いを隠せないでいた。
彼女にとって、今の「見える」という感覚は、まだ、聖女の力を失った代わりに残った、不思議な「後遺症」のようなものに過ぎない。それが、ソフィアのような「本物の研究者」の役に立つなど、想像もできなかったのだ。
「ええ。貸してほしいの。……いいえ、違うわね」
私は、言葉を、選んだ。
この、自信を失った「元・聖女」に必要なのは、施し(ほどこし)のような「お願い」ではない。
対等な「パートナー」としての、明確な「要求(オファー)」だ。
私は、実験台の椅子から立ち上がり、白衣の袖をまくり上げると、壁一面に貼られた、巨大な『森の地図』(これもロイドに作らせた、この一帯の精密なものだ)の前に立った。
「リリア。私は、この森の、すべての薬草(ハーブ)を、解明したい。私のインターフェイスと、前世の知識で、この森を、世界一の『薬草園(ラボラトリー)』に、作り替えたいの」
私の指が、地図の上を、滑る。
「でも、私一人では、限界があるわ。私のインターフェイスは、触れたものの『成分』は分析できても、触れていない(・・・・・)ものが『どこ』にあるのかは、分からない。……森は、広すぎる」
私は、振り返り、ベッドの上で、呆然と、私を見上げるリリアに、言った。
「あなたには、それが『見える』。……違う?」
「あ……」
「私には、あなたの『目』が、必要なの。私の『分析(サイエンス)』と、あなたの『感知(センス)』。その二つが揃えば、私たちは、この森の、すべての『理(ことわり)』を、解き明かせる」
私は、彼女に、手を、差し伸べた。
それは、王太子が彼女に差し伸べた「庇護」の手ではない。
研究者(わたし)が、共同研究者(パートナー)に、差し出す、「契約」の手だった。
「リリア。私の『助手』になってちょうだい。……いいえ、『助手』なんて、生ぬるいわね」
私は、笑みを浮かべた。
「私の『研究室(アトリエ)』の、フィールドワーク部門を、担当する、『主任研究員』として、あなたを、スカウトするわ」
「……主任、研究員……。……私、が?」
「不満かしら? お給金(きゅうきん)は、まだ、ロイドさんとの交渉が済んでいないから、弾(はず)めないけれど。……代わりに、このアトリエ(・・・・・)の、寝床と、三食は、保証するわ。……それと」
私は、私の背後にある、ガラス器具が並んだ、完璧な実験台を、親指で、示した。
「……この、世界で、一番、面白い『職場』を、あなたに、提供する」
リリアは、私の、差し出された手を、見つめていた。
泥にも、血にも、ブライトにも、汚れた、私の手。
だが、リリアにとっては、アルベルトが差し伸べた、どの手袋よりも、白く、清らかで、そして、力強く、見えた。
(……研究員)
(……私の、居場所)
王都では、誰も、彼女を、必要としなかった。
「聖女」という、役割(ラベル)を、失った、彼女は、ただの「無力な娘」だった。
だが、今、目の前の、この、王国で、一番、合理的で、冷徹で、そして、誰よりも「本物」の研究者が。
私(リリア)を、「必要だ」と、言っている。
彼女の、亜麻色の瞳から、再び、涙が、溢れそうになった。
だが、彼女は、それを、必死で、こらえた。
もう、泣かない、と、決めたから。
「……ソフィアさん」
リリアは、ベッドから、自分の足で、ゆっくりと、降り立った。
まだ、ふらつく。だが、彼女は、壁に、手をつかなかった。
彼女は、私の前に、立つと。
聖女が、国王に、拝謁(はいえつ)するよりも、深く、深く、頭(こうべ)を、垂れた。
「……よろしく、お願いします! ……ソフィア、先生!」
(……先生、ですって?)
(まあ、いいわ。呼び方など、合理的ではないけれど)
私は、その、あまりにも、古風な、弟子入りのような、挨拶に、一瞬、面食らったが、すぐに、その、不器用な「契約」を、受け入れた。
「……契約成立ね。リリア助手。……さて」
私は、差し出していた手を、引っ込めた。
「『初仕事』よ」
「えっ! い、今、すぐ、ですか!?」
「当たり前でしょう? 研究者に、休日はないわ」
私は、鬼上司(わたし)の顔で、壁に貼り付けた、薬草の『ウィッシュリスト』を、指差した。
それは、私が、この森で、ずっと、探していた、希少な薬草のリストだった。
「あなたの『目』で、このリストの中で、一番、反応が強い(・・・・・)ものを、探してちょうだい。……アトリエ(ここ)から、動かずに、よ」
「え……。あ、はい!」
リリアは、慌てて、目を閉じた。
彼女の「感知(センス)」が、アトリエ(ここ)を、中心に、まるで、レーダーのように、森全体へと、広がっていく。
(……すごい。……こんな、たくさんの、光が……)
(……緑色、青色、黄色……。でも、ソフィアさんの、リストにある、薬草の、光は……)
彼女の意識が、森の、ある一点に、集中する。
「……あ!」
リリアは、目を開けた。
「……あります! ……ここから、北へ、半刻(はんとき)(約一時間)ほど、歩いた、崖の、中腹……。そこだけ、他とは、比べ物にならないくらい、眩(まぶ)しい、『銀色』の、光を、放っている、場所が……!」
「銀色の、光……」
私の、手が、震えた。
リストの、一番上。
『紫死病(フェーズ・ワン)』の、特効薬となり、そして、王都の薬師ギルドへの、納品の、主力となっている、あの、希少な薬草。
「……『銀葉草(シルヴァリーフ)』の、群生地……!」
リリアは、私の、あまりにも真剣な、ギラギラとした赤い瞳に、戸惑いを隠せないでいた。
彼女にとって、今の「見える」という感覚は、まだ、聖女の力を失った代わりに残った、不思議な「後遺症」のようなものに過ぎない。それが、ソフィアのような「本物の研究者」の役に立つなど、想像もできなかったのだ。
「ええ。貸してほしいの。……いいえ、違うわね」
私は、言葉を、選んだ。
この、自信を失った「元・聖女」に必要なのは、施し(ほどこし)のような「お願い」ではない。
対等な「パートナー」としての、明確な「要求(オファー)」だ。
私は、実験台の椅子から立ち上がり、白衣の袖をまくり上げると、壁一面に貼られた、巨大な『森の地図』(これもロイドに作らせた、この一帯の精密なものだ)の前に立った。
「リリア。私は、この森の、すべての薬草(ハーブ)を、解明したい。私のインターフェイスと、前世の知識で、この森を、世界一の『薬草園(ラボラトリー)』に、作り替えたいの」
私の指が、地図の上を、滑る。
「でも、私一人では、限界があるわ。私のインターフェイスは、触れたものの『成分』は分析できても、触れていない(・・・・・)ものが『どこ』にあるのかは、分からない。……森は、広すぎる」
私は、振り返り、ベッドの上で、呆然と、私を見上げるリリアに、言った。
「あなたには、それが『見える』。……違う?」
「あ……」
「私には、あなたの『目』が、必要なの。私の『分析(サイエンス)』と、あなたの『感知(センス)』。その二つが揃えば、私たちは、この森の、すべての『理(ことわり)』を、解き明かせる」
私は、彼女に、手を、差し伸べた。
それは、王太子が彼女に差し伸べた「庇護」の手ではない。
研究者(わたし)が、共同研究者(パートナー)に、差し出す、「契約」の手だった。
「リリア。私の『助手』になってちょうだい。……いいえ、『助手』なんて、生ぬるいわね」
私は、笑みを浮かべた。
「私の『研究室(アトリエ)』の、フィールドワーク部門を、担当する、『主任研究員』として、あなたを、スカウトするわ」
「……主任、研究員……。……私、が?」
「不満かしら? お給金(きゅうきん)は、まだ、ロイドさんとの交渉が済んでいないから、弾(はず)めないけれど。……代わりに、このアトリエ(・・・・・)の、寝床と、三食は、保証するわ。……それと」
私は、私の背後にある、ガラス器具が並んだ、完璧な実験台を、親指で、示した。
「……この、世界で、一番、面白い『職場』を、あなたに、提供する」
リリアは、私の、差し出された手を、見つめていた。
泥にも、血にも、ブライトにも、汚れた、私の手。
だが、リリアにとっては、アルベルトが差し伸べた、どの手袋よりも、白く、清らかで、そして、力強く、見えた。
(……研究員)
(……私の、居場所)
王都では、誰も、彼女を、必要としなかった。
「聖女」という、役割(ラベル)を、失った、彼女は、ただの「無力な娘」だった。
だが、今、目の前の、この、王国で、一番、合理的で、冷徹で、そして、誰よりも「本物」の研究者が。
私(リリア)を、「必要だ」と、言っている。
彼女の、亜麻色の瞳から、再び、涙が、溢れそうになった。
だが、彼女は、それを、必死で、こらえた。
もう、泣かない、と、決めたから。
「……ソフィアさん」
リリアは、ベッドから、自分の足で、ゆっくりと、降り立った。
まだ、ふらつく。だが、彼女は、壁に、手をつかなかった。
彼女は、私の前に、立つと。
聖女が、国王に、拝謁(はいえつ)するよりも、深く、深く、頭(こうべ)を、垂れた。
「……よろしく、お願いします! ……ソフィア、先生!」
(……先生、ですって?)
(まあ、いいわ。呼び方など、合理的ではないけれど)
私は、その、あまりにも、古風な、弟子入りのような、挨拶に、一瞬、面食らったが、すぐに、その、不器用な「契約」を、受け入れた。
「……契約成立ね。リリア助手。……さて」
私は、差し出していた手を、引っ込めた。
「『初仕事』よ」
「えっ! い、今、すぐ、ですか!?」
「当たり前でしょう? 研究者に、休日はないわ」
私は、鬼上司(わたし)の顔で、壁に貼り付けた、薬草の『ウィッシュリスト』を、指差した。
それは、私が、この森で、ずっと、探していた、希少な薬草のリストだった。
「あなたの『目』で、このリストの中で、一番、反応が強い(・・・・・)ものを、探してちょうだい。……アトリエ(ここ)から、動かずに、よ」
「え……。あ、はい!」
リリアは、慌てて、目を閉じた。
彼女の「感知(センス)」が、アトリエ(ここ)を、中心に、まるで、レーダーのように、森全体へと、広がっていく。
(……すごい。……こんな、たくさんの、光が……)
(……緑色、青色、黄色……。でも、ソフィアさんの、リストにある、薬草の、光は……)
彼女の意識が、森の、ある一点に、集中する。
「……あ!」
リリアは、目を開けた。
「……あります! ……ここから、北へ、半刻(はんとき)(約一時間)ほど、歩いた、崖の、中腹……。そこだけ、他とは、比べ物にならないくらい、眩(まぶ)しい、『銀色』の、光を、放っている、場所が……!」
「銀色の、光……」
私の、手が、震えた。
リストの、一番上。
『紫死病(フェーズ・ワン)』の、特効薬となり、そして、王都の薬師ギルドへの、納品の、主力となっている、あの、希少な薬草。
「……『銀葉草(シルヴァリーフ)』の、群生地……!」
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