『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ

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第20章:森の研究所(フォレスト・ラボラトリー)

20-2:王立特別研究地区

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「さて。王都(あちら)の、退屈な『報告』から、始めましょうか」
ギルバートは、アトリエの、あの、彼専用(かれせんよう)になりつつある、古い木製の椅子に、深く、深く、沈み込むように、座った。その仕草一つからも、彼が、王宮(あちら)の、政治的な駆け引きに、どれほど、心身をすり減らしてきたかが、伝わってくる。
リリアが、慣れた手つきで、薬湯(やくとう)を煎(い)れ、彼の前に、そっと、差し出した。
「ありがとう、リリア様。君は、もう、すっかり『薬師(こちらがわ)』の、人間になったようだな」
ギルバートは、その、完璧なブレンドの香りに、驚きと、賞賛の目を、リリアに向けた。
「はい! ソフィア様に、教えていただきました!」
リリアは、胸を張った。彼女の、その、誇らしげな笑顔は、もはや、誰かに「依存」する、か弱い少女の、ものではなかった。
「それで? 陛下(うえ)は、何と?」
私は、本題(ほんだい)を、切り出した。
私の、スローライフ(けんきゅう)が、今後、どうなるのか。私にとって、重要なのは、それだけだった。
「ああ。まず、朗報と、凶報だ」
ギルバートは、薬湯の、温かい湯気を、吸い込み、息を、整えた。
「まず、凶報から。ソフィア薬師。君の、静かな『スローライフ(日常)』は、もう、二度と、戻ってこない」
「なんですって?」
私は、眉をひそめた。
ギルバートは、私の、その、あからさまな不満を、楽しむかのように、続けた。
「国王陛下は、今回の『ヴォルフラム事変』を、国家に対する、最大の『危機』と、認定された。そして、その『危機』を、退けたのは、王宮騎士団でも、魔術師団(アカデミー)でもなく、君(ソフィア・フォン・クライネルト)個人の『知性』であった、と」
彼の、青い瞳が、私を、まっすぐに、見据える。
「陛下は、決定された。この『霧深き森』、および、聖樹の地下水脈(レイライン)全域を、王国の、最高機密レベルの『戦略的資源』として、王家の、直轄管理下に、置くと」
「王家の、直轄?」
「ああ。そして、その『資源』を、解析し、管理し、防衛するための、全権が、私に、委任された」
ギルバートは、懐から、一枚の、重々しい、王家の「獅子(しし)」の紋章が刻印された、羊皮紙を、取り出した。
「この森は、本日付で、『王立特別研究地区(ロイヤル・スペシャル・リサーチエリア)』に、指定された。責任者(ディレクター)は、私、ギルバート・ヴァイスだ」
(……!)
私は、絶句した。
私の、静かな「アトリエ(スローライフ)」が、一瞬で、「王立」の「研究地区」という、とんでもなく、物々しいものに、格上げされてしまった。
「つまり、私は、王家の『管理下』で、研究を、続けろと? 冗談じゃないわ。私の、自由な、研究が……!」
「だから、次に『朗報』だ」
ギルバートは、私の、その、予測通りの「反論」を、手で、制した。
彼の口元が、わずかに、皮肉な笑みを、浮かべる。
「この『研究地区』の、全権責任者(ディレクター)は、私だ。そして、陛下は、私に、こう、厳命(げんめい)された。『――かの薬師(ソフィア)の、研究の『自由』だけは、何人(なんぴと)たりとも、侵害させてはならぬ。彼女(ソフィア)の『知性』こそが、この国の、唯一の『切り札』である、と』」
(陛下の、厳命)
「そして、君の、この、愛すべき、埃(ほこり)っぽい『アトリエ(小屋)』は、本日付で、王国の、正式な『研究機関』として、登録された」
ギルバートは、立ち上がり、アトリエの、壁に、その「羊皮紙(勅令)」を、掲げた。
「――ようこそ、ソフィア薬師。そして、リリア助手」
「ここが、我らが『森の研究所(フォレスト・ラボラトリー)』だ」
その、あまりにも、大袈裟(おおげさ)な、だが、どこか、誇らしげな、彼の「宣言」に。
私とリリアは、顔を、見合わせた。
(研究所、ですって)
(まあ、悪くない響きだわ。それに)
私の、思考が、前世(カオリ)の、製薬会社の、記憶に、飛ぶ。
(『王立』ということは、つまり、『研究予算』が、使い放題に、なる、ということ……?)
私の、赤い瞳に、ヴォルフラムの時とは、まったく違う、ギラギラとした、研究者としての「欲望」の光が、宿ったのを。
ギルバートだけが、見逃さなかった。
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