『推しの「貧乏騎士」を養うつもりでしたが、正体は「王弟殿下」だったようです。

とびぃ

文字の大きさ
8 / 10

第八章 ロッテ伯爵家の終焉

しおりを挟む
一 宣告は突然に
 王都の朝は、いつもと変わらぬ傲慢な輝きを放っていた。
 天を衝くような時計塔の針が黄金色に輝き、大通りには行き交う馬車の車輪の音が軽快に響き渡る。
 しかし、そんな王都の繁栄を象徴する光景から隔絶されたかのように、ロッテ伯爵家の屋敷に漂う空気は、前夜までの焦燥を通り越し、すでに腐敗した果実のような死臭を帯びていた。
 かつては名門としての誇りを誇示していた白亜の壁は、手入れが行き届かずに薄汚れ、至る所に細かな亀裂が走っている。庭園のバラは枯れ果て、代わりに灰色の雑草が石畳の隙間から這い出し、屋敷そのものを飲み込もうとしているかのようだった。
 執務室の机で、ロッテ伯爵は充血した瞳を泳がせ、震える指で空のグラスを弄んでいた。
 カーテンを閉め切った室内には、安物の酒精の匂いと、長らく換気されていない部屋特有の澱んだ空気が充満している。
「……あり得ん。あり得るはずがないのだ。あの精鋭どもが、たかが下級騎士一人に後れを取るはずが……」
 伯爵の掠れた声が、虚しく壁に跳ね返る。
 昨夜、多額の報酬を約束してアルカディアへと送り出した傭兵団「鉄の牙」からの連絡は、依然として途絶えたままであった。
 それどころか、領地の境界付近に放っていた斥候からも、誰一人として戻ってくる気配がない。森の奥へと消えた十五名の屈強な男たちが、まるで最初からこの世に存在していなかったかのように、ぷっつりと音信が途絶えてしまったのだ。
「リーダーのザックスは、王都の裏社会でも名の知れた手練れだ。魔法耐性の鎧まで貸し与えたというのに……。何が起きているのだ。アルカディアの森で、一体何が……」
 伯爵の脳裏には、娘であるエリーゼの地味で大人しい顔が浮かんでいた。
 実家という鳥籠の中で、常に怯えるように視線を逸らしていた、何の取り柄もないはずの娘。あの娘を連れ去った正体不明の騎士が、よほどの隠れた実力者だったのか。あるいは、運悪く森に棲む強力な魔獣にでも出くわしたのか。
 いずれにせよ、傭兵たちの沈黙は、伯爵にとって「敗北」以上の絶望を意味していた。
 なぜなら、今日はカトウェル侯爵との約束の日だからだ。
 婚礼の予定日はすでに過ぎ、侯爵からは最後通牒が突きつけられている。エリーゼを連れ戻せなければ、これまでの借金は即座に回収され、さらに莫大な違約金が発生する。それは、ロッテ伯爵家という名の盾が、完全に粉砕されることを意味していた。
 その時、重厚な玄関扉を叩く、容赦のない音が屋敷中に響き渡った。
 それは客人を迎えるための礼儀正しいノックではなく、罪人を引きずり出すための鉄槌のような、不吉で重い響きだった。
 ドォン、ドォン、と床を揺らすような衝撃が、伯爵の細くなった神経を容赦なく逆撫でする。
「……っ、何事だ!」
 伯爵が弾かれたように立ち上がり、机の上の書類をぶちまけた。
 執務室の扉が、年老いた執事の制止を振り切るようにして乱暴に開け放たれた。
「伯爵! 大変です、王立銀行の代理人と、法務局の執行官が……っ!」
 執事の声は震え、その顔面は土気色を通り越して真っ白になっていた。
 執事の背後から入ってきたのは、一分の隙もない仕草で黒い外套を纏った、冷徹な事務作業員の顔をした男たちだった。
 彼らの手には、法的な効力を持つ公印が押されたいくつもの巻物が握られている。その無機質な姿は、没落という審判を下しに来た死神の行列のようにも見えた。
「失礼する、ロッテ伯爵。いや……債務者ロッテ殿と言うべきかな」
 先頭に立つ眼鏡をかけた男が、冷たく言い放った。
 男は伯爵の狼狽ぶりなど一顧だにせず、慣れた手つきで金糸で縁取られた巻物を広げた。その動作には、何百年も続いてきた貴族の家系を終わらせるという重圧など微塵も感じられない。
「ロッテ伯爵。貴殿が抱えるすべての債権について、最終通告に参りました。状況が急変しましてね。昨夜をもって、貴殿の負債……つまり、カトウェル侯爵を含む複数の債権者への借りは、すべて特定の個人によって買い取られました。そして、新債権者より、全額一括返済の要求がなされた次第です」
「な……一括返済だと!? 馬鹿な、そんな馬鹿げた話があるか! 借金の期限はまだ残っているはずだ! そもそも買い取っただと!? そんな巨額の負債を、一体誰が……!」
 伯爵は机を叩き、身を乗り出した。
 ロッテ家の借金は、もはや一つの家門が一生をかけても返せる額ではない。王都の高級住宅地が丸ごと買えるほどの、国家予算にも匹敵する天文学的な数字だ。それを一瞬で買い上げ、即座に返済を要求するなど、狂気の沙汰としか思えない。
 だが、執行官は表情一つ変えず、淡々と、そして残酷な事実を突きつけた。
「法的には何の問題もございません。特例措置として、王立銀行および法務局も承認済みです。……さて、返済期限は『本日、この瞬間まで』となっておりますが、当然ながら用意はできておられないようですな」
「当たり前だ! 今すぐ払えるわけがないだろう!」
「左様でございますか。……それでは、法的手続きに基づき、本日この瞬間をもって、ロッテ伯爵家の全財産、および爵位に伴う特権のすべてを差し押さえます。この屋敷、土地、調度品、銀行口座の残高、さらには貴殿や家族が身につけている装飾品に至るまで、すべてです」
 執行官が合図を送ると、背後に控えていた衛兵たちが一斉に屋敷の中へと散らばっていった。
 廊下からは、何かが運び出される音や、壁に掛けられた装飾が外される高い音が聞こえ始める。それは、伯爵が何よりも重んじてきた「虚飾の権威」が、物理的に剥ぎ取られていく音だった。
「待て! 待てと言っているだろう! 誰だ、一体誰がこんな真似をさせた! カトウェル侯爵か? あの豚が、エリーゼが戻らないことに痺れを切らして……!」
「いいえ。侯爵閣下もまた、現在進行形で自身の不正蓄財と汚職の醜聞を調査されており、もはや他人の債権をどうこうできる立場にはございませんよ。……債権の譲受人は、アルカディア公爵領主」
 男は一瞬、言葉を切り、畏怖の念を込めてその名を口にした。
「レオンハルト・フォン・ソルヴェリア殿下。……ソルヴェリア王国の王弟殿下、そのお方です」
 その名を聞いた瞬間。
 ロッテ伯爵の膝は、まるで糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
 ガクン、という音と共に、高価な絨毯の上に無様に手をつく。
「王弟……殿下……? なぜ、あのお方が……」
 王弟レオンハルト。
 このソルヴェリア王国の裏側を支配し、逆らう者には慈悲なき断罪を下す、氷の宰相。
 常に戦場の最前線に立ち、あるいは王宮の深奥で冷徹に政務を司る、雲の上の存在。
 そんなお方が、なぜ、自分のような没落寸前の、王都の隅に追いやられた伯爵に牙を剥くのか。
 伯爵の混乱した頭の中を、エリーゼの泣き顔が、そして彼女の隣に立っていた「名もなき下級騎士」の姿が過った。
「(まさか。……いや、あり得ない。あり得てたまるか。あんな、誰の記憶にも残らないような、背景のような男が……。あの、王国の至宝と謳われる王弟殿下だというのか!?)」
 しかし、答えを出すための時間は、もはや残されていなかった。
 執行官は憐れみすら抱かぬ無機質な視線を、床に這いつくばる伯爵へと向けた。
「……手続きを開始しろ。一点の漏れもなく、すべてだ。あのお方からは『塵一つ残さず清掃しろ』との命を受けているからな」
 その言葉は、ロッテ伯爵家の終焉を告げる、あまりにも冷酷で、一方的な宣告であった。
 伯爵はただ、自分の震える掌と、そこに染み付いた酒精の匂いを嗅ぎながら、目の前が真っ暗になっていくのを感じていた。


二 ロッテ伯爵家の終焉
 差し押さえの手続きは、残酷なまでに淡々と、そして機械的な速さで進められた。
 かつては名門としての矜持を誇示し、王都の貴族たちの社交場でもあったロッテ伯爵邸。
 しかし今、その邸内を支配しているのは、優雅な弦楽の調べでも、高価な香油の芳香でもなかった。石畳を叩く衛兵たちの無機質な軍靴の響きと、家具が床を引きずられる不快な軋み音、そして何より、没落という名の抗いようのない冷気が、建物の隅々にまで浸透していた。
「待ってください! そのネックレスだけは……それは私の母から受け継いだ、大切なものなのです!」
 ベアトリクスが狂ったような悲鳴を上げ、豪華な刺繍の施されたドレスの胸元を両手で押さえつけた。彼女の瞳には、かつての傲慢な輝きは欠片もなく、ただ剥き出しの恐怖と、執着だけがぎらついていた。
 彼女が隠そうとしていたのは、大粒のダイヤモンドがあしらわれた、ロッテ家に伝わる至宝の一つだった。しかし、執行官の合図を受けた衛兵は、眉一つ動かさずに彼女の細い腕を掴み、その宝飾品を冷酷に奪い取った。
「放しなさい! 貴方たち、自分が誰に触れていると思っているの!? 私は伯爵夫人なのよ!」
「いいえ。すでに爵位は剥奪され、貴女方は平民へと降格されました。この宝飾品も、債権の返済に充てられるべき『資産』に過ぎません。……これ以上抵抗されるのであれば、公務執行妨害として即刻拘束いたしますが、いかがいたしますか?」
 執行官の氷のような言葉に、ベアトリクスは言葉を失い、崩れるように膝を突いた。彼女が誇りとしていた絹のドレスは、床の埃を吸って無残に汚れ、結い上げられていた髪は乱れ、一人の老いた女の惨めな姿を晒していた。
 一方、ロッテ伯爵は執務室の窓際で、自分の家門が物理的に解体されていく光景を、魂の抜けたような目で見つめていた。
 壁からは、初代伯爵が国王から賜ったとされる巨大な肖像画が外された。その跡に残ったのは、長年の年月を感じさせる壁紙の焼け跡。それは、この家が積み上げてきた歴史そのものが、一瞬にして虚無へと変わったことを象徴していた。
 絨毯が丸められ、磨き上げられた大理石の床が剥き出しになっていく。かつてはその上でエリーゼを冷遇し、贅沢の限りを尽くした宴を開催してきた空間が、瞬く間に「空っぽ」の箱へと戻っていく。
「……ああ、信じられん。これが、ロッテ家の最期だというのか」
 伯爵の指先は、止まることなく震え続けていた。
 彼の脳裏には、数日前まで「商品」として売るつもりだった、地味で取り柄のないはずの娘、エリーゼの姿が過っていた。
 もし、彼女をカトウェル侯爵に売り飛ばそうなどと考えなければ。
 もし、彼女が逃げ出した時に、もっと誠実にその行方を案じていれば。
 ……いや。そもそも、彼女という存在を、家を支えるための道具ではなく、一人の人間として、娘として扱っていれば、こんな結末にはならなかったのではないか。
「執行官どの! 頼む、せめて、せめてカトウェル侯爵に連絡をさせてくれ! 奴なら、奴ならこの程度の額、すぐに肩代わりしてくれるはずだ! エリーゼさえ戻れば、侯爵も納得する!」
 伯爵が最後の手札を晒すように叫んだが、執行官は憐れみすら抱かぬ、事務的な視線を投げ返すだけだった。
「無駄ですよ、元伯爵。……お教えしておきましょう。貴殿が唯一の希望としていたカトウェル侯爵も、今頃は自身の汚職と醜聞、そして数々の人道に外れた行為の証拠を突きつけられ、審問会へと引きずり出されているはずです。……彼に、他人の債権をどうこうできる力など、もう一塵も残されてはおりませんよ」
 その言葉は、伯爵にとって死刑宣告にも等しいものだった。
 希望という名の糸は、最初からレオンハルトの手のひらで弄ばれていたに過ぎなかったのだ。王弟殿下という絶対的な支配者が、本気で一族を滅ぼそうと決めた時、王国のどこにも逃げ場など存在しない。
「……レオンハルト・フォン・ソルヴェリア。あのお方が、なぜ……」
 伯爵は、自分がかつて夜会の隅で「背景」として見下していたあの騎士が、実は自分たちの生殺与奪を握る「王弟殿下」その人であったという事実を、ようやく理解し始めていた。
 エリーゼは、あのお方の懐に飛び込んでいたのだ。
 あのお方が、彼女を泣かせ、利用しようとした者たちを、一国を挙げて「掃除」している。その圧倒的な暴力と権力の前に、自分たちのような矮小な貴族が抗えるはずもなかった。
 やがて、差し押さえの手続きが終了した。
 屋敷の家具は一つ残らず運び出され、残ったのは冷たい石の壁と床だけ。
 衛兵たちに急かされるようにして、伯爵とベアトリクスは玄関ホールへと連れ出された。かつては客人を迎えるための華やかな空間だった場所は、今はただ、自分たちの終わりを告げる空虚な洞穴のように感じられた。
「外へ出てください。この屋敷は本日より、新オーナーであるアルカディア公爵領の管理下に置かれます。貴方方の立ち入りは、不法侵入と見なされます」
 背後で重厚な玄関扉が閉まる。ドォン、という低い地響きを伴ったその音は、彼らの過去との決別を告げる、あまりにも残酷な鐘の音だった。
 屋敷の前に放り出された二人は、王都の裏通りの、冷たく汚れた石畳の上に立ち尽くした。
 王都の朝の光は、相変わらず美しく降り注いでいた。
 けれど、その光は今の彼らにとって、自分たちの惨めさを強調するだけの拷問の灯火でしかなかった。
 かつては馬車で駆け抜け、窓越しに見下ろしていた庶民の街路。そこには、泥と汚水にまみれた、自分たちを拒絶する他人の土地が広がっている。
「……ああ、ああああ! どうして、どうしてこんなことに! 私のドレスが、私の靴が……!」
 ベアトリクスが泥に汚れ、絹のドレスを破きながら喚き散らし、石畳を拳で叩いた。その醜態を、通りがかる平民たちが冷ややかな、あるいは好奇に満ちた目で見つめていく。
 かつて彼らがゴミのように見下し、踏みにじってきた人々が、今は自分たちを嘲笑っている。その視線の鋭さは、どんな刃よりも深く、彼らの自尊心を切り裂いた。
 伯爵は呆然と、自分の震える掌を見つめた。
 酒精の匂いが染み付き、贅沢に慣れきったその手には、もはやパン一つ買うための金貨さえ握られていない。
 後悔は、あまりにも遅すぎた。
 彼らがエリーゼに強いた「絶望」と「搾取」の対価は、レオンハルトという絶対的な力の行使によって、何百倍もの利息を伴って返ってきたのである。
 あの日、エリーゼが涙ながらに訴えた言葉を鼻で笑い、彼女の尊厳を天秤にかけたその瞬間に、ロッテ伯爵家の破滅は確定していたのだ。
「エリーゼ……。お前は今、どこで、どんな顔をして……」
 伯爵の呟きは、虚空に消えた。
 彼らが育てた「道具」が、実は王国の至宝に愛され、救い出されていた。その事実は、今の彼らにとって、どんな罰よりも重い敗北感を与えていた。
 王都の街角で、かつての貴族が泥を啜りながら罵り合い、互いの無能を責め立てる姿。
 それは、没落という審判の、ほんの始まりに過ぎない。
 名門ロッテ伯爵家という名は、この日を境に、王国の歴史から文字通り「消去」された。
 それが、エリーゼを泣かせ、利用しようとした罪への、レオンハルト流の「徹底的なお掃除」の結末であった。
 二人の背後では、ロッテ家の紋章が刻まれたプレートが、執行官の手によって冷酷に剥ぎ取られていた。
 かつて輝いていた白銀の紋章は、石畳に落ちて虚しい音を立てた。
 それは、誇り高き家門の終わりと、新たな支配者の支配を告げる、静かな、けれど絶対的な合図であった。
 伯爵はただ、地面に這いつくばり、泥に塗れた掌を見つめながら、二度と訪れることのない「栄華の朝」を想い、慟哭の声を上げるのであった。


三 変わらぬ日だまり
 王都での地獄のような喧騒も、一族の断罪という血生臭い歴史の転換点も、ここアルカディアの地には一滴の不純物も混じることはなかった。
 午後の陽だまりに包まれた別荘は、まるで世界から切り離された楽園のように穏やかで、ただ心地よい静寂だけが支配している。湖畔を吹き抜ける風が、庭園一面に咲き誇るラベンダーの香りを運び、私の鼻先を優しくくすぐった。
 私は今、広々としたテラスで、太陽の光をたっぷり浴びたリネンのシーツを干している。
 籠の中から取り出したばかりの湿った布地は、アルカディアの清冽な水の匂いと、ギルバートさんたちが用意してくれた高品質な石鹸の爽やかな香りが混ざり合っていた。
「(ふふっ、今日も最高の洗濯日和! この清々しい空気の中で家事をするのが、今の私にとって一番の贅沢だわ)」
 私は、自分が実家から完全に解放され、もはや「ロッテ伯爵令嬢」という名前さえも王国の籍から消去されたことなど、露ほども知らなかった。
 それどころか、実家が一夜にして物理的な資産さえも失い、路頭に迷うことになったというニュースすら、私の耳に届くことはない。
 この屋敷の情報統制は、もはや神業に近い。ギルバートさんをはじめとするスタッフの皆さんは、私が不快に感じるような「汚れ」を、情報という形であっても徹底的に掃除してくれているのだ。
 私にとっての最大の問題は、今日の夕食の献立を、レオンハルト様の好物であるジューシーなお肉料理にするか、それとも昨日市場で買ったばかりの、脂が乗った新鮮な魚料理にするか、その一点に尽きていた。
 ふと、前世の社畜時代を思い出す。
 東京の片隅にある、日当たりも満足に望めない一階の狭い一Kアパート。ベランダというにはあまりに狭い鉄格子の囲いに、湿り気を含んだ排気ガスの匂いに晒されながら、無理やり洗濯物を押し込んでいたあの頃。
 明日の出勤に怯えながら、深夜のコインランドリーで乾燥機が回る音を聞き、コンビニの冷え切った弁当を食べていた私に教えてあげたい。
 大丈夫、数年後の貴女は、伝説の騎士様に守られた白亜の別荘で、サファイアのような髪飾りを揺らしながら、お日様の匂いに包まれて幸せに笑っているわよ、と。
「エリーゼ。またそうやって、自分で仕事を増やしているのか。……ギルバートたちに任せればいいと言っただろう。君は、管理人として座っていてくれるだけで十分なんだ」
 背後から、心地よい低音が響いた。
 振り返ると、そこにはいつの間にか伊達眼鏡を外し、少しだけリラックスした様子のレオンハルト様が立っていた。
 朝のパトロールを終えたばかりなのだろうか、彼の銀髪は風に吹かれてわずかに乱れ、その隙間から覗く深紅の瞳が、私を案じるような、あるいは喉から手が出るほどの執着を孕んだような熱を帯びて私を見つめている。
「レオンハルト様! おかえりなさい! いえ、これは管理人のこだわりなんです。騎士様のシャツやリネンだけは、私の手でお日様の匂いをたっぷり吸わせたいんですもの。それに、ギルバートさんたちはパトロールや害獣駆除で、きっと今頃お疲れでしょうし。福利厚生の一環として、これくらいは私がやらなきゃ!」
「……福利厚生、か。君は相変わらず、その……独特な表現を使うな」
 レオンハルト様は呆れたように吐息をついたが、その表情には隠しきれない慈愛が滲んでいた。
 彼は私の隣に歩み寄ると、私が一人で広げるには少し大きすぎるリネンのシーツの端を、大きな手でそっと持ってくれた。
「(……ああ、やっぱり騎士様は優しいわ。こんなに気高く、王弟殿下直属の精鋭騎士様なのに、管理人の私のお手伝いをしてくださるなんて。やっぱり、この人はブラック組織で長年こき使われてきたから、現場の苦労が痛いほど分かるのね。……ますます応援したくなっちゃうわ!)」
 私は、彼の掌にある「剣凧」を見つめながら、改めて心の奥底で決意を固めていた。
 レオンハルト様の手は、国を守るために数多の修羅場を潜り抜けてきた、戦士の手だ。その手が今、私の洗濯物を干すのを手伝ってくれている。このギャップがたまらなく愛おしい。
 いつか、この人がパトロールという名の命懸けの激務から完全に解放されて、のんびりと庭いじりでもして過ごせるような、本当の楽園を私が作ってあげたい、と強く思うのだ。
「レオンハルト様、ほら、ここを持ってください。そう、そのまま……。あ、お上手ですわ!」
「……ああ。……こうして、君と同じ作業を共有できる時間は、王宮で無為に過ごした数十年よりも遥かに価値があるように感じる。……エリーゼ、君は、自分の存在がどれほどこの場所を浄化しているか、気づいていないのだろうな」
「まあ、騎士様ったら。また土地の豊かさまで私のせいにするなんて! このアルカディアの地が生命力に満ちているのは、間違いなく王弟殿下の素晴らしい統治のおかげですわ。私なんて、ただの管理人ですもの」
 私は「もう、騎士様ったら冗談が過ぎるわ」と笑い飛ばした。
 まさか、自分が無意識に高純度の浄化魔法を生活の一部として垂れ流し続け、この別荘周辺が魔物さえも近寄れないほどの「神域」と化していることにも。そして、彼の言う「浄化」という言葉が、私のために彼が実家を物理的に消滅させ、過去の不純物をすべて取り除いたことを指していることにも、私は永遠に気づかないままでいた。
 シーツを干し終えた後、私たちは自然と、テラスの隣に広がる小さなハーブ園へと足を向けた。そこは、私が市場で買った種や、森で見つけた薬草を植えた場所だ。
「見てください、レオンハルト様。この前植えたばかりのハーブが、もうこんなに芽吹いているんです。普通なら一週間はかかるはずなのに、ここの土壌は本当に不思議ですわ」
「……ああ。……芽吹いているな。……恐ろしいほどにな」
 レオンハルト様は、地面から異常なまでの勢いで伸びているハーブの若葉を見つめ、少しだけ引き攣ったような笑みを浮かべた。
 彼の目には、私の足元から溢れ出した黄金色の魔力が、植物たちをこれでもかと鼓舞している光景がはっきりと見えているのだろう。けれど、私はそれを「アルカディアの土の栄養」と信じて疑わない。
「今夜は、このフレッシュなハーブを使って、お肉の香草焼きにしましょうか。あ、でも昨日買ったあの大きな魚も捨てがたいですわね……。レオンハルト様、どちらがよろしいですか?」
「……君が作るものなら、毒であっても喜んで食す。……だが、そうだな。今夜は君とゆっくり話をしたい。どちらでもいい、君が選んだ方が、俺の正解だ」
 レオンハルト様はそう言うと、私の肩を優しく抱き寄せた。
 その大きな掌の熱が、衣服越しに伝わってきて、私の胸はどきどきと高鳴る。
 この人は、不器用なだけなのだ。自分の望みを口にするよりも、私の選んだものを優先してくれる。それが、彼なりの最大の誠意なのだと、私は思っている。
「分かりましたわ! それなら、香草焼きをメインにして、お魚はカルパッチョにしましょう。せっかくの新鮮な食材ですもの、全部有効活用しなきゃ!」
「……ああ。……エリーゼ、君のそういう、命を慈しむような強さが、俺はたまらなく愛おしい」
 彼は私の髪に、そっと鼻先を寄せた。微かに漂う、お日様の匂いと、私のシャンプーの香り。
 レオンハルト様は深く息を吸い込み、まるで魂の欠片を埋めるかのような、切実な安らぎの中に身を浸していた。
 (……あら? 騎士様、やっぱり甘えん坊さんなのかしら。パトロールでお疲れなのね。よし、今日はマッサージのサービスも追加してあげなきゃ!)
 私は、レオンハルト様の目に宿った、極限まで重く深い独占欲の熱を、単なる「パトロールによる疲労」と解釈し、さらに献身的なサポートを誓うのであった。
 実家の破滅も、王都の混乱も、今の私たちには関係のない話だ。この青い空と、心地よい風と、愛する人の温もり。それさえあれば、管理人としての私は、このホワイトな職場で一生、お掃除とお料理に明け暮れる覚悟ができている。
「さあ、レオンハルト様。お洗濯も終わりましたし、冷たいお茶でも淹れましょうか。庭で採れたばかりのミントを使いましょう」
「……ああ。……行こう、俺たちの家へ」
 レオンハルト様は私の手を力強く握りしめ、二度と離さないという無言の誓いを立てるように、ゆっくりと歩き出した。
 その後ろを、ポチが「我も行くぞ」というように、満足げに尻尾を振りながらついてくる。
 アルカディアの午後は、どこまでも穏やかに、そして確実に、私の知らないところで完成された「究極の平和」の中に溶け込んでいった。
 私は、自分が救い出した「騎士A」という名の、あまりにも巨大で甘美な罠に、また一歩、深く足を踏み入れていることなど、微塵も気づいていなかったのである。


四 報せと新たな誓い
 その日の夜、アルカディアの別荘は深い銀色の静寂に包まれていた。
 窓の外では、月光が湖面を冷たく照らし、時折吹き抜ける夜風が原生林の梢をさらさらと揺らしている。エリーゼが無意識に放ち続ける浄化の魔力によって、この地は夜であっても不浄な闇が溜まることはなく、どこまでも透き通った夜気が満ちていた。
 エリーゼが今日の「管理業務」を終え、幸せそうな寝息を立てて夢の国へと旅立った後。屋敷の奥深く、重厚な本棚に囲まれた書斎には、暖炉の火だけが爆ぜる音を立てていた。
 椅子に深く腰掛け、琥珀色のワインを傾けているのは、レオンハルトだった。
 昼間、エリーゼに見せていたあの穏やかで少しばかり頼りなげな「近衛騎士」の面影は、今の彼には微塵も残っていない。暗がりに浮かび上がるその美貌は、氷のように冷たく、すべてを見通すかのような峻烈な覇気を纏っている。彼こそが、この国の裏側ですべての糸を引く影の支配者、王弟レオンハルト・フォン・ソルヴェリアその人であった。
 音もなく扉が開き、一人の男が影の中から現れた。
 執事長のギルバートである。彼は完璧な所作で一礼し、レオンハルトの数歩前で足を止めた。その手には、王都からの緊急報告を記した極秘の書状が握られている。
「殿下。王都より戻りました。ご報告申し上げます」
「……聞こう。あの『ゴミ』どもの末路をな」
 レオンハルトの声は、低く、地響きのように重い。ギルバートは淡々と、しかし一点の漏れもなく事実を述べ始めた。
「はっ。ロッテ伯爵夫妻の追放、および財産没収、すべて完了いたしました。昨日、法務局の執行官を送り込み、屋敷の中のすべての調度品に至るまで差し押さえました。元伯爵と夫人は、王都の裏通りの石畳に放り出され、今頃は自分たちがこれまでゴミのように扱ってきた平民たちの冷ややかな目に晒されていることでしょう」
 レオンハルトは、グラスの中の液体を静かに揺らした。暖炉の火が反射し、彼の赤い瞳の中にどろりとした執念が揺らめく。
「……当然の報いだ。エリーゼを物のように扱い、あろうことか『商品』として他人に売り渡そうとした罪。……死を与えるだけでは生温い。自分たちが守ろうとした虚飾の名誉も、贅沢も、すべてが幻であったことを、泥を啜りながら一生かけて噛み締めさせるがいい」
「仰せの通りに。カトウェル侯爵についても、殿下が事前に用意されていた汚職と人道に外れた醜聞の数々を審問会へ提出いたしました。既に身柄は拘束され、爵位剥奪と終身刑が確定する見込みでございます。……これで、エリーゼ様を傷つける可能性のある王都の毒牙は、根こそぎ抜き去りました」
 ギルバートの報告に、レオンハルトは僅かに口角を上げた。それは、愛する者のために世界を一つ「掃除」し終えた、残酷なまでの満足感であった。
 かつて、王宮の壁際で誰にも気づかれずに立っていた自分。孤独と虚無感の中で、ただ国家という機械の歯車として生きていたレオンハルトに、初めて「人間」としての温もりを教えてくれたのは、エリーゼだった。
 彼女が夜会の隅で差し出してくれたあの安物のクッキー。彼女が「私が養います」と言って自分の手を取ってくれた、あの奇跡のような瞬間。
 そのすべてが、今のレオンハルトを生かしている。だからこそ、その聖域を汚そうとする不浄な存在は、神であろうと魔王であろうと、彼は徹底的に排除するつもりだった。
「……だが、殿下。少々問題が起きております」
 ギルバートが、重い口調で付け加えた。
 レオンハルトの眉が、僅かにピクリと動く。
「王都でのあまりにも迅速かつ徹底的な没落劇は、貴族たちの間で大きな波紋を呼んでおります。ロッテ伯爵家が殿下の差し金で潰されたことは、勘の鋭い者たちの間ではすでに公然の秘密。……それに伴い、陛下からも親書が届いております」
 ギルバートが差し出したのは、金色の封蝋がなされた最高級の羊皮紙だった。それはソルヴェリア国王、つまりレオンハルトの実の兄からの直接の召喚状である。
 レオンハルトはそれを一瞥しただけで、忌々しそうに机に放り出した。
「……兄上も、余計な真似を。俺は今、人生で最も有意義な時間を過ごしている。エリーゼと共にこのアルカディアで、管理人と騎士として過ごすこの『遊び』こそが、俺のすべてだと言ったはずだが」
「左様でございますか。……しかし、陛下はこう仰っております。『優秀な弟が、一人の令嬢のために国を揺るがすのは構わぬが、せめてその令嬢を正式に王族の伴侶として迎え、叙任式を行うのが筋ではないか』と。……殿下、エリーゼ様をいつまでもこの『鳥籠』に閉じ込めておくわけにも参りますまい。彼女はいつか、真実を知ることになる」
 書斎に、重苦しい沈黙が降りた。
 真実。
 それは、レオンハルトが最も恐れている言葉だった。
 もしエリーゼが、自分を「守ってあげたい貧乏騎士様」ではなく、この国の頂点に君臨する絶対的な権力者だと知ったら。
 もし彼女が、自分の「管理人としての日常」が、すべて彼によって周到に用意された壮大な箱庭であったことに気づいたら。
 彼女は、あの憐れみと、慈愛と、そして心からの信頼に満ちた瞳を、自分に向けてくれるだろうか。
「(……いや。彼女は、俺を養うことをやめてしまうかもしれない。俺を自分と同じ、あるいは自分より不器用な一人の人間として見てくれなくなる。……それは、死よりも恐ろしい)」
 レオンハルトの瞳に、昏く、深い執着の炎が宿った。
 彼は立ち上がり、窓ガラス越しに夜の庭を見つめた。そこには、月光を反射して白く輝く、エリーゼの部屋の窓が見える。
「……ギルバート。王都の屋敷の改装を、直ちに開始させろ。それも、ただの豪華な改装ではない。……このアルカディアの別荘を、配置から景観、家具の傷一つに至るまで、完全に写し取った空間を作れ」
 ギルバートは驚きに目を見開いた。
「……殿下、それはまさか……」
「王宮へ戻る準備だ。……だが、エリーゼが『自分が王宮に連れてこられた』と気づく必要はない。彼女が目覚めたとき、そこがこの別荘の続きであると信じ込ませるほど、完璧な再現を行え。……庭園にはアルカディアから移植した樹木を植え、湖の代わりとなる魔導池を造る。……彼女が『引っ越した』ことにすら気づかないほど自然に、そして圧倒的な幸福の中に沈めてやらねばならない」
 それは、究極の「囲い込み」の宣言だった。
 彼女を王都へ連れて行くのではない。王都に、彼女のための「アルカディア」を、より広大で強固な「神域」を再構築するのだ。
「……御意。殿下の愛は、もはや底なし沼でございますな。エリーゼ様も、まさか自分が一国の王宮を『別荘の管理人』として運営することになるとは、夢にも思われないでしょう」
「ふん。……当然だろう。彼女は、暗闇にいた俺を救い出した、唯一の光なのだから。俺の全権力を注ぎ込んで、彼女を一生、この幸せな勘違いの中に閉じ込めてみせる」
 レオンハルトは、左手の薬指に視線を落とした。
 そこには、先日エリーゼが「安物ですが、魔除けに」と言ってプレゼントしてくれた、手作りの粗末なリングがはめられていた。
 王室に伝わるどんな国宝の宝石よりも、その手作りのリングの方が、彼にとっては価値がある。
 彼はそのリングを愛おしげに指先でなぞり、そっと唇を寄せた。
「(エリーゼ。……君は何も知らなくていい。君を泣かせた過去も、君を追い詰めた悪意も、すべて俺が消してやった。……君はただ、この楽園で、俺を養い続けてくれればいい。……俺のすべてを使って、君のその優しい勘違いを、永遠の真実へと変えてやろう)」
 暖炉の火が最後の一跳ねを見せ、静かに消えていく。
 暗闇の中、レオンハルトの瞳だけが、獲物を永遠に離さないと誓った龍のように、不気味に、そして美しく輝いていた。
 王都での大粛清を経て、二人の関係は「逃避行」という名の短いモラトリアムから、レオンハルトによる「究極の独占」へと、その段階を一つ進めた。
 明日の朝、エリーゼが目覚めたとき、彼女はいつも通り「騎士様のために美味しい朝食を!」と元気にキッチンへ向かうだろう。その背後で、彼女を守るためなら世界そのものを作り替えることを厭わない「背景」の騎士が、甘い微笑みを浮かべて彼女を見守っていることも知らずに。
 新たな誓いを胸に、王弟殿下は静かに書斎を後にした。
 彼の足音は、かつて王宮の石畳の上で誰にも聞かれなかった音とは違い、今は一人の愛する女性へと続く、確かな喜びのリズムを刻んでいた。
 夜の静寂が再び別荘を包み込み、伝説の魔獣ポチが、誰にも邪魔されないように玄関の扉の前で静かに目を閉じる。
 アルカディアの原生林を吹き抜ける風だけが、王都に訪れるであろう巨大な変革の予兆を、静かに物語っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。

ムラサメ
恋愛
​「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」 ​婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。 泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。 ​「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」 ​汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。 「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。 ​一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。 自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。 ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。 ​「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」 ​圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。 学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。 そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。 しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。 会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった? この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。 一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

処理中です...