『元悪役令嬢、追放先で奇跡の果樹園(フルーツパーラー)を開店する ~前世パティシエールの技術でスローライフのはずが、王室御用達になってしまい

とびぃ

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第八章:開店(パーラー『秘密の庭園』)

8-4:究極の『奇跡のパフェ』の試作

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パーラーの完成と同時に、エリアーナとリュカ、アンナの三人は、開店を飾る最初の目玉商品の開発に没頭した。それは、バルト商会が最高純度のナッツとスパイスを調達したことで、『レシピLv.3:奇跡のパフェ』としてインターフェイスに解放された、究極のデザートだった。
「パフェとは、『純粋性のタワー』よ、リュカ殿」
エリアーナは、滅菌されたガラス製の細長いパフェグラスを前に、厳かに語りかけた。そのグラスは、王都の流行とは無縁の、極めてシンプルで機能的な形状をしていた。
「コンフィチュールは、この地の『テロワール』。タルト生地(パート・シュクレ)は、『精密な化学』。そして、今回新たに使う、バターと卵の『純粋なムース』は、『柔らかな光』。この三層を、冷気で完璧に固定し、それぞれの味が『ノイズなく』響き合う構造でなくてはならないわ」
リュカは、その『構造体』という言葉に、パティシエールとしての血が騒ぐのを感じた。彼の脳裏には、パフェの層が、単なる素材の積み重ねではなく、温度と食感の完璧な『方程式』として組み上がっていく。
「ムースの安定化には、卵黄の乳化力と、最高純度の砂糖の凝固力が必要です。王都の卵は、水分が多すぎて、ムースの『清涼感』をすぐに奪ってしまう……」
リュカは、王都で直面した素材の限界を語った。彼が求めた「ムースの冷涼感」は、王都の湿度の高い卵と、不純な砂糖では、一瞬で「濁った」味に変わってしまった。
「問題ないわ、リュカ殿。バルト殿が調達した『辺境の村で放し飼いにされた鶏の卵』は、インターフェイスの鑑定で『脂質とタンパク質の純度が極めて高い』と出たわ。水分は少なく、乳化に必要な脂質が凝縮されている。そして、この『白夜の桃のシロップ』が、ムースの安定化を助ける。ムースの温度は、マイナス0.8度を厳守。冷気で、すべての風味を閉じ込めるのよ。ムースを空気のように軽く、しかし崩れない『冷気の壁』にする」
エリアーナは、ムースの調整に、最新式の魔導冷却室(マジック・フリーザー)をフル活用した。ムースの温度がマイナス0.8度に達すると、リュカが魔導泡立て器を駆使し、空気をムースの中に、均一に、しかし優しく抱き込ませる。その作業は、まるで繊細な魔力の制御を見ているかのようだった。
アンナは、師匠とリュカの知的な対話についていくことに必死だったが、彼女の『味覚センサー』は、このムースの「純粋な設計図」を完璧に捉え始めていた。彼女の目には、ムースの気泡一つ一つが、均一に、そして透明に輝いているのが見えているようだ。
「師匠……! このムースは、舌に乗せた瞬間に、『桃の香り』が最初に爆発し、その後、『冷たいバターの風味』が追いかけてくる構造ですね! バターの脂肪分が、香りの分子を舌の上で瞬時に解放する……! この『ムースの崩壊』こそが、パフェ全体への『冷気の伝播』を促している!」
アンナの正確なフィードバックに、リュカは驚愕した。彼は、アンナが技術ではなく、感覚で、彼のムースの物理的構造を理解していることを悟った。
「すごいな、アンナ嬢。君の舌は、私の『脳内設計図』を、そのまま読み取っているようだ……。このムースは、熱を遮断するための『断熱材』でありながら、風味を拡散させる『起動剤』でもある。それを一瞬で理解できるとは……」
エリアーナは、満足げに頷いた。彼女の『知恵』、リュカの『技術』、アンナの『才能』。この三位一体が、最高の作品を生み出すための、完璧なシステムとして機能していた。
そして、完成した『奇跡のパフェ』は、まさに「食べる芸術」だった。グラスの底には、エリアーナが改変した「白夜の桃」の、生の果肉が惜しみなく敷かれ、その上をコンフィチュールが清涼な琥珀色に輝いている。その上には、アンナが完璧に焼いたパート・シュクレが砕かれて敷かれている。タルト生地の「サクサク」という食感の『ノイズ』が、ムースの「冷たい静寂」を引き立てる役割を果たしている。
最上部には、マイナス0.8度で完璧に安定化された桃のムースが、夜明けの霧のように優しく盛られ、その横には、バルト商会が調達したシチリア産ピスタチオが宝石のように散りばめられている。このピスタチオは、エリアーナが155度で正確にローストしたもので、「風味の爆発」という、パフェの最後の『ノイズ』を担っていた。
エリアーナは、リュカとアンナに、滅菌されたスプーンを渡し、最終鑑定を促した。
リュカは、その一口を口にした瞬間、全身に戦慄が走るのを感じた。彼は、パフェのすべての層を、均一な冷気が貫いているのを感じた。
「……っ! これだ! これが、『純粋性のタワー』! 舌の上で、すべての素材が完璧に調和し、一切のノイズがない! コンフィチュールの酸味、ムースの冷気、タルト生地のサクサク感……この食感と温度のコントラストが、桃の香りという『光』を、最大限に輝かせている! このパフェは、この辺境の地の『気候』そのものを凝縮した、奇跡の構造体だ!」
リュカは、興奮で手が震えるのを抑えられなかった。彼が王都で追求しても得られなかった『完璧な調和』が、この辺境の地で、エリアーナという女性によって、化学の設計図として完成されていた。
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