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引きこもり君は引きこもらない

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ぬか喜びだった、カレーが食べられる、味噌や醤油が手に入る…一瞬で消えた夢まぼろしでした…。

手に入ると思った分、がっかり感がハンパないです。

でもどんなに一生懸命に考えても、部活とバイト生活の、親や祖母と同居の一般学生に食材の知識なんて有りません。

魔法も使えない、チートも無い、ハーレムも無い上に食材知識も無い、俺は何にも出来ない奴なんです………はー……………。

「……おい…大丈夫か……おい…」

余りにもガチで落ち込んでる俺に、引きこもり君が遠慮がちに声をかけてくる。

……うん、元から無いものや知らない事を、いつまでもグジグジ言ってても仕方ないよね。
出来ない事は出来ない、それなら引きずってないでできる事をしなきゃね。

「あ、ごめん。
カレーとか諦めるから何か思い出せるものがあった時よろしく、でいい?
一緒に来てくれるんだよね?」

ショックから口調が崩れてるけど、もう良いか。
元からキチンとした敬語とかも使えてないだろうし、歳下相手くらい良いよね?
……歳下だよね?

「……一緒に行くのは…良いけど……条件……。
…他の人と会わない調合場所……」
あー、人見知りだもんね。

「それなら城を作る時に一番奥で、僕と君の同族以外と会わなくて良い配置にすれば良い?
薬草やハーブ集めるの自分じゃやらないんだよね?」
「………それで良い……」

でも疑問、
「君ワーウルフなのに走り回ったりしたくならないの?」
ワーウルフの人達って走るのが好きなんだよね?
「………走ってる……夜中とか……雨の日とか……」
「え?雨の日って風邪ひかない?」
「……そんな…ヤワじゃない……もしひいても……薬…有る……」
「大丈夫ならいいんだけど。
んじゃさ、ワーウルフ以外立ち入り禁止の地区とか作ったら晴れた昼間でも走り回れるんじゃない?」
「!……そんなの…出来る?……」

おお、目がキランとした。
やっぱり走り回るのは好きなんだな。
「立地条件確認してみないと確約できないけど、そう出来るよう考えてみるよ」
「!!……それ……嬉しい…かも…」
「うん、だから何か思い出したら色々作ってもらうよ」
引きこもり君は頷く。

一緒に来てくれると決まったけれど、この場所で街ができるのを待つかどうか話し合った。
ワーウルフの人達も、町ができるまで連絡係以外は今まで通りの生活をするのだから、引きこもり君は人見知りも有るし現場待機かな?

「.………」

無言なのに葛藤が伝わってくる。

「……………………」

「どうする?」
「…………人と会いたくない……でも知らない事…有るのわかった今……知らない事いっぱいのまま……コーと…一緒だと……なんとかなる?」
なんだか懐かれた?

「俺も知らない事だらけだよ」
「………でも…違う世界……色々聞きたい……知りたい…。
…待ってるの……苦痛………
……それに…旅の途中……知らない薬草…ハーブ…手に入る……かも…」

引きこもりたいのと、知的好奇心の葛藤が伝わってくる。

「うーん、ならさ馬車で移動しないで、ワーウルフの人とちょっと離れたところから付いて来るってのは?」

別にべったり一緒じゃなくても、走るの好きだし、それなりの体力や持久力があるなら、走って付いて来ればすれ違う魔族と会うくらいで、顔を合わせるわけじゃ無いから、馬車に居るよりマシなんじゃないかな?

「馬車だと俺達かオニギリ達と一緒になるけど、すれ違うくらいなら何とかなんない?」
「……?……オニギリ?……」
「あ、ごめん、説明無かったね。
一緒に移動してるオーガの仲間」
「……馬車でずっと一緒……無理…。
…少し離れて…走って付いて行く……それにする……。
でも、馬車だとコーと話せる………たまに馬車に乗る……かも?」

人見知りより知的好奇心が勝ったか。
なんだろう、話してて感じたんだけど、性格とか別にして、この知りたがりな知識欲旺盛ところ母さんに似てる。

いや、母さんは社交的でおしゃべりで、40過ぎてるのにモエモエ言ってるオタクな腐女子(女子?)の小説家なんだけどね……
あれ?ヤバさ的には人見知りの引きこもりより上な気がする……。

とにかく!話し合いは終わったし、外に出て次に行くか。

荷物は調合に必要な最低限の物以外は、住む場所が出来るまでこのまま置いておく事にした。

「場所が決まったらワーウルフの人達が運んでくれないかな……って寝てんじゃねえよ!」

思わず突っ込んだけど、話が長かったからか、洞窟に入って来てたワーウルフは犬の様に丸まって寝てた。

『んあ?……決まったか?
なら出発するか?
コイツはどうせ待ってんだろ?』
引きこもり君を指差して言う。

「いや、一緒に行くよ」
俺が言うと余程びっくりしたのか、ワーウルフのミミと尻尾がピーン!となった。

『え?お前一緒って、大丈夫なのか?
他にも何人も居るんだぜ?』
話の途中で寝てしまうとか興味無いのかと思ったけど、同族だから心配するくらいは大事に思ってるのかな?

「……馬車…乗らない……離れて走る…から大丈夫……」
『へー、スゲーな。
コイツを穴から引っ張り出すなんて流石スライムの主人』

あれ?ここでもアンズ?
やっぱり力が一番の脳筋だから、わかりやすいのは最強生物の主人ってところ?

まあいいけど…。

「あ、そうだ、離れて付いてくるのはいいけど、最初の挨拶だけは宜しく。
付いて来てるのが仲間だって知らせとかないと、他の人が不安になるし、喧嘩ふっかけられるかもしれなくなるから」
洞窟の出口に向かいながら引っ張り君にお願いする。

「…………わかった……頑張る…」

引きこもり君はこくりと頷いた。






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