【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど

七地潮

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ヒロイン 6

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謝恩会当日、軽くメイクをして、髪にはお気に入りのバレッタを着けて会場へ。

謝恩会は学園の行事なんだから、ドレスコードは制服。
卒業パーティーはドレスアップするんだけど、一学期が終わっただけなんだから、ガッツリパーティーって感じじゃないんだって。

会場と言っても講堂なんだけどね。
バイキング形式の食べ物のコーナーと、小さなテーブルと椅子のコーナー、ゆっくりできるソファーのコーナー、後はダンスのスペースって感じになってるみたい。

んー、確かゲームなら、ここで攻略対象者がエスコートしてくれて、断罪イベントになる筈なんだけど……。

王子は公爵令嬢と微笑み合いながら踊っているし、他の攻略対象者もそれぞれパートナーが居る様な………。

あれー?
もしかしなくても攻略失敗、バッドエンドですか?

もしかして、このパターンはネット小説で散々読み散らかして来た【ヒドインざまぁ】のパターンなのでは?

まあ、考えてみれば攻略失敗100%だよね。

だってちょっと前まで平民だった下位貴族の男爵令嬢が、王子や公爵令息なんかに相手にされるわけないわな。

頭も良くない、特技もない様な一般ピーポーの小娘が、首相の息子とか、財閥の御曹司とそうそう簡単にゴールインできるわけないのと同じだよね。

冷静に考えると、色々責任とか周りの目とか考えると、面倒くさそうだし。
そんなのと遊びならまだしも、結婚前提になんて付き合えないよ。
生活水準も価値観も全然合いそうにないし。

それによくよく思い出してみると、
『貴方が頑張っていることはよーくわかっているよ』
とか
『貴方を癒したい』
とか
『たまには力を抜いてもいいと思うわ』
とかとか、知ったかぶりする女って、しかもたいして親しくもないのに馴れ馴れしく言ってくるって、どこのデンパやねん。

それに見知らぬ相手の手作りクッキーの差し入れとか、何が入ってるか分かんないのに、怖くて受け取れないっしょ。

第一勝手にニックネームで呼ぶとか、攻略対象だからアリかと思って呼んでたけど、冷静に考えると、何勝手に名前呼んでんねん!だよね。

会社で苦手な上司にいきなり下の名前で『○○ちゃ~ん』とか呼ばれたら、セクハラって叫んでやるところだよ。
よく王子達スルーだけで済ましてくれてたよね。

この世界では普通なんだけど、前世の記憶のある私からすれば、16歳で婚約とか早過ぎだっちゅーねん。
20歳までに結婚、出産するのが当たり前、20歳過ぎたら行き遅れだなんて、24歳だった前世の私に謝れって感じ。

まあ、ゲームのキャラを生で近くで見られたんだし、これからはゲームの事なんて忘れて取り敢えず彼氏でも探すかな。



なんて事考えながら、ケーキバイキングを堪能している私の元へ、近付いてくる一人の男性……

「ドルシュド嬢、少し良いかな」

おおー、脳筋騎士のモーディフじゃないですか。

なーんだ、攻略成功してたんだね、いつの間にか知らないうちに。

「はい、なんでしょうか」
「ぜひ君に受け取ってもらいたいものが有るのだが、会場へは持ち込んでいないんだ。
教室まで取りに戻るから、そうだな…中庭のモミの木の下で待っててもらえるかな」

おおー、きっと中庭のもみの木は告白スポットなんだろうね、勿論待ちますよ~。
ニッコリ微笑み了解の返事をして待ち合わせの場所へ行く私。

何かな、何をもらえるのかな。
真っ赤な薔薇の花束?
可愛いデザインのネックレス?
それとも指輪だっり?
キャ~~、モーディフってば気が早いわよ!
告白と同時に指輪なんて!
まあ、断るなんて事しないけどね。

色々想像しながら待つ事しばし。
鞄を手にやって来たモーディフ。
花束じゃないね、指輪かな?

「前から君に渡したかったんだ。
良ければもらってくれ」

言いながらカバンから取り出されたのは…………



【これであなたも揺らがない!

初心者から上級者まで、体軸トレーニング  これ一冊!

わたしはこれで成功しました】



「……………………………」
「ほら、君よく転ぶだろ?
体軸が弱いと思うんだ。
この本は初心者でも無理なくできるトレーニングも載っているから、オススメなんだ。
これで鍛えて転ばない体を作ってくれ!」
「……………………………………………………」
「じゃあな!」

脳筋は一冊の本を残して、晴々とした顔で去っていきましたとさ……って何でやねん!!!

別に体軸弱くないわ!
コロコロ転けてたのはワザとだっちゅーねん!

私は本を思いっきり地面に投げつけてやったとさ。




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