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第三章 異世界の馬車窓から
スイの身内の方々…?
しおりを挟む抱きついたスイに邪険に引き剥がされたのは、三十代半ばくらいの若い男だ。
「いや~元気だったか?
相変わらずの美人さんだな~、うんうん」
スイに抱きついたまま頬ずりまでしそうな勢いだ。
「だから何故居るのかと聞いて居るのですが、父上」
父上?スイの父親?
父親と言うより兄と言うのがしっくりくる見た目だけど、この世界見た目で年はわからないからな。
しかし似てない、見た目も性格も。
ケチさんの息子でスイの父親と言われても、納得できない軽さが滲み出ているんだけど…。
「父上なんて可愛くないし堅っ苦しいだろ、「お父さん」って呼んでよ~。
あ!勿論「パパ(ハート)」でも良いよ」
…………本当に血の繋がった身内なのか?
あ~あ、とうとうスイが力技で引き剥がした。
「何度も同じ事を言わせないで下さい、何故ここに居るのかと聞いているのです」
引き剥がした上に思いっきり距離をとってる。
「あ~冷たいなぁ、久しぶりの再会なのに」
唇を尖らせて、頭の後ろで腕を組む。
え~…スイのお父さんと言うことは結構な年齢だよね?
思いっきり子供の仕草じゃん。
「ふふふふふ、東北の方の国に居たんだけど、たまたまひい爺さんに会ってね、スイが珍しく城から出てくるって聞いたから戻って参りました」
言いながらビシッと敬礼する………えー、本当にこの人スイの父親?
「高祖父殿のせいですか……口止めするの忘れてた」
後半苦々しそうに呟いている。
父親と仲悪いのかな?まぁ合いそうにない感じだけど。
「さあさあ、店の前で立ち話してると、営業妨害だーってズルが怒るぞ。
中に入った入った~」
スイの背中を押して店の中に入れようとする父親。
「ちょっと待って下さい、私は案内で…………」
スイを店に入れると、ピシャリと扉を閉めた父親。
何だろう…とてもパワフルな人だな、スイの父親。
そして置いてけぼりの僕……。
入って良いんだよね?
扉に手をかけると、中から【ボコッ!】と鈍い音がしたけど、聞こえなかった事にするよ、うん。
*****
「いやー、メンゴメンゴ、うちのひ孫が迷惑かけたみたいだねぇ」
メンゴ?
「俺は土岐 秋彦、リサイクルショップをやってたヤンエグだ、宜しくな」
ヤンエグ?
「リサイクルショップですか。
……因みにいつ頃からこちらに来られたのですか?」
「ん?気になっちゃう?
まぁその話は長くなるし後でね。
それより家の商会を紹介しょうかい」
……うわ~お爺さん………思わずスイに助けを求める視線を向けるけど、目を逸らされてしまった。
ショップ内の入り口横の壁に、トキ商会のマップが貼ってあり、それを元に商会の説明をしてくれた。
中央に広場が有り、ぐるりといろんな店が並んでいる。
この区画で仕入れて来たものを纏めているそうだ。
やっぱり問屋商店みたいな感じみたいで、ここでも勿論商品を小売りしているけど、主な品々はここで仕分けして、契約している店に届けているそうだ。
そしてこの区画に並んでいる小売店は、まずは食品の店のスペースで、野菜や果物、魚介や麦に米と、多種多様な調味料、スパイスやハーブなどが取り揃えている。
謂わば素材の店が集まっているスペースだ。
その並びには、加工品の店のスペース。
パンや惣菜や菓子など、そのまま食べれる物の店と、今は飲みたいとは思わないけど、僕も大好きだったお酒類。
飲まなくても興味があるから後で店に行ってみよう。
そこで一旦通路を挟んで、衣類、家具、金物屋と並んでリサイクルショップ、ここまでで広場を囲んでいる。
一旦途切れた通路の奥が、お酒以外の嗜好品の店と、輸入品などの各地の特産品、装粧品など日常必需品ではない店が並んでいる。
「金物屋には調理器具や農具に工具、武器に防具と職人の作った物の代理販売をやっている。
嗜好品の店は絵画や置物、書物などかな。
俺を筆頭にそれぞれ得意分野の仕入や店の運営をしてるんだ」
さあ褒めろとばかりに、 両手を広げて、ドヤ顔の秋彦さん。
何だろう、この人のノリって、スイの身内とは思えない。
「スゴイデスネェ」
「だろだろ?
俺は普段は色んな国の特産品なんかを仕入れていて、あちこちに行ってんだけど、スイスイから連絡が入ったからね」
……スイスイ?
「君も日本から来たんだって?
後でいっぱい話を聞かせて…くれるかな~?」
独特なイントネーションの語尾に、右手を耳に当てる、昔昼間にテレビで見たことのあるポーズ……。
え?このフリはもしかして……え~言わなきゃいけないの?
耳に手を当てたまま待ってるよ……
「い…いいとも~」
僕の返しに満足そうにうんうんと頷く。
…………頭を抱えているスイと一緒に城に戻りたい……。
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