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第三章 異世界の馬車窓から
誤解発生
しおりを挟む店を案内しますからと、スイが強引に僕を連れ出してくれた。
ありがたい。
広場には多種多様な人々が行き交っていてとても賑やかだ。
事故を避けるため、この広場には馬車の乗り入れを禁止しているそうで、大量購入の人の為に、小型のリヤカーの貸し出しもしているそうだ。
城下町の一部というより、本当に小さな自治区と言う方がしっくり来る気がするけど、独立していないのは何か意味があるのかな?
などと歩きながら考えていると、隣を歩くスイが頭を下げて来た。
「すみません、高祖父殿はウチ様と同じ世界から来られたので、お話をされるのも良いかと連絡を取ったのですが、まさか父まで居るとは……。
2人揃うなんて、予定外でした」
申し訳なさそうに言う。
「スイやケチさんと違って何というか……明るい人だね」
フォローしてみるけど、力無く笑って、
「ハッキリと言われて結構ですよ。
高祖父殿はカルイのです。
その上ノリが何とも特殊で、一族の大半の者は付いていけません。
普段は仕入れで各国を回って居るので平穏なのですが…」
「確かにノリが違う感じだね」
「そうですね、その血を濃く継いでいるのが父なのです。
父以外は、とても真面目な方だと言われていた、曽祖母に似ているそうです」
有難い事にとため息混じりのスイ。
ひいお婆さんは亡くなられているみたいだな、深く聞くのは辞めておこう。
話しているうちに一番賑わいのある食品店の並びに着いた。
「すみません、大叔父上はいらっしゃいますか?」
「や~スイさんじゃないかい、久しぶりだねえ。
会長は奥に居るよ、呼んできてあげようか?」
店先に居たおばさ……ご年配の女性がスイの肩をバシバシ叩きながら言う。
パワフルだ。
その女性が僕をチラリと見てもの凄い笑顔になった。
「ちょっとあんた!いつの間に子供作ったんだい!」
「ぶっ!」
大きな声で言う女性の言葉に思わず吹き出してしまった。
「いや~、全然浮いた話が無いからもしかして何かあるんじゃ無いかって皆で言ってたんだよ」
「何だい何だい、秘密にしてたのかい」
「久々に戻ってきたと思ったら目出度い報告かい?」
「それであんた、奥さんはどこなんだ?」
「ま~子供も随分大きいじゃないか、いつの間に作ったんだよ」
「え?スイに子供が?」
「成る程ね~、黒髪だからスイの次の跡取りかい」
「すました顔してもやる事はちゃんとやってんだな」
「何にせよ目出度い事だ」
女性……もうおばさんでいいや。
おばさんの大きな声で、他の店の人が集まって来て取り囲まれたよ。
それだけスイがここのおじさんやおばさんに可愛がられて居るって事なんだろうけど、訂正する口を挟む暇もない。
「おめでとーう!おめでとーう!おめでとーう!」
って万歳三唱まで始まってしまった……このノリは秋彦さんわヤシさんと同じだな。
2人以外は真面目だったと言うひいお婆さんに似たって言ってなかったっけ?
さてどうしたもんだ、と思っていたら、店の奥から一本角の大男が出て来た。
「おいおいおい、店先で何の騒ぎだ?」
「会長、スイさんが子供を連れて戻って来たよ!」
「ほらほら、スイさんと一緒の黒髪だ」
一本角の大男は、取り囲んで居る人を掻き分けて近づいて来た。
「おう、久しぶりだなスイ。
その子が連絡の有った客人かい?」
良かった、話は通ってるみたいだ。
「そうです。
祖父からも詳しい話は通っていると思いますが、ウチ様です」
「どうも初めまして、トウ・ドウ・ウチです。
暫くお世話になります」
僕が頭を下げると、初めに勘違いしたおばちゃんが、
「なんだよ、スイさんのお子さんじゃないのかい?
黒髪だし利発そうだし、私ゃてっきり……」
ちょっとガッカリした感じのおばさんが、頬に手を当ててため息をつく。
「前もって連絡してたろ、スイが大事な客人を連れて来るって」
一本角さん…会長さんが言うと、周りのおばさん達が、口々に言う。
「いやだからさ、奥さんを連れて来るもんだとばかり」
「だよな、大事って言うからてっきり結婚の報告だと思ってたよ」
「皆楽しみにしてたのに……」
見て分かる程肩を落とすおばさん達。
なんだろう、悪い事した気になるよ。
「ほらほら、誤解は解けたろ、客が待ってるぞ、皆仕事に戻れ」
会長さんがパンパンと手を打ちならすと、しょんぼりとしたおばさん達は持ち場に戻って行った。
「すまんな、何だか皆勘違いしてた様で。
コイツがいい年なのに浮いた話の一つもないから、皆心配しての事なんだ。
悪気は無いから許してくれ」
膝を折り、目線を合わせて頭を撫でてくる。
「いえ、大丈夫ですよ、僕は」
言いながらチラリとスイを見ると、とても複雑そうな顔をしていた。
「さあさあ、こんな所に居ても通行人の邪魔だ」
中に行こうと言いつつ、ナチュラルに抱き抱えられてしまった。
まぁ今更驚く事でも無いけど、このナチュラルさは子供や孫を抱っこし慣れている感じで、他の人の抱っことはちょっと違う感じがする。
ともあれ人ごみを抜けて、店の奥にある建物…倉庫に入った。
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