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第三章 異世界の馬車窓から
スイのコンプレックス
しおりを挟む「…母上、どうして止めてくれないのですか」
ため息混じりにスイはユキさんに言う。
秋彦さん達に言っても拉致があかないと思ったのだろう。
「あら、私が言ったくらいで聞く二人だと思うの?」
きっと誰が何と言っても、二人共自分の好きにしかしないと思う。
「それに貴方にも会いたかったからね」
ユキさんはそういう時、そっとスイを抱きしめた。
「貴方も義父様もお城に行ったきりでしょ、仕事が好きなのはわかりますけど、たまには逢いに来てくれないと寂しいわ」
小首を傾げる母親に、少し気まずそうに頭を下げるスイ。
「……すみません」
「あら、謝って欲しいわけではないの。
真面目なのは良い事なのだけど、もっと顔を見せて欲しいわ。
勿論私だけじゃなくて、他の家族の皆も同じだと思うわ」
「……そうですね、もう少し顔を出すようにします」
「そうしてあげてね。
でも無理をしてはダメよ」
「ありがとうございます」
おお、なんだかスイが可愛いぞ。
昨日今日とスイの珍しい顔を見られて楽しいな……嬉しいと言うべきか?
距離が近くなった気がする。
「それでね、久しぶりにスイも空を飛びましょう。
貴方がお世話しているウチさんは私が乗せてあげるから」
え?今何と?
「スイって空を飛べるの?」
「…………ええ」
「スイはね、祝福も受けているけど、私の血が強いのか、変体できるのよ」
「ほおおおお、て事はスイってドラゴンになれるの?」
ついつい食いついてしまうのは仕方ないよね?
「……一応は…」
何だ?ドラゴンに変身できるって言うのに、歯切れが悪いなあ。
「あのな、ドラゴンはサイズが大きい方が良いとされているんだけど、スイはドラゴンになっても、あまり大きくなれないんだよ、ハーフだからなのか。
だからあまりドラゴンになりたがらないんだ。
ドラゴンは力の強さだけじゃなくて、身体の大きさでも優劣がついちゃうんだ。
でもさ、スイはドラゴンじゃなくて、ハーフでドラゴンになれる人間なんだから、ドラゴンの世界の優劣は関係ないのに、負けず嫌いだからねぇ」
ヤシさんが近づいて来て、小声で教えてくれる。
成る程、大きな方が良いと言う価値観がドラゴンの世界に有ったとしても、スイは人間社会で生きていくんだから関係無いよね。
それでもそこを気にするのがスイか。
第三者からみると、ドラゴンに変身できるってだけで凄い事だと思うけど。
「久しぶりでしょ、一緒に行きましょう」
「勿論今の姿が本来の姿なんだけど、ドラゴンもあいつの一部なのに、頑なにドラゴンになろうとしないんだよ。
一部を抑えつけてるって不自然だろ?
でも俺達が何と言っても聞かないから、たまにユキさんにお願いしているんだよ」
僕の後ろに立った秋彦さんが小声で言う。
茶化してるようで、スイの事を考えての行動なんだ。
もしかして僕の方が巻き込まれたんじゃないのか?
「……そうですね。
ウチ様に空から国を見て頂くのも良いかもしれません。
母上、ウチ様をよろしくお願いします」
そう言ったスイが、母親の抱擁から身を離し、少し離れた所で目を閉じて大きく息を吸う。
スイの姿が滲んだ様に見えたかと思うと、次の瞬間そこには一匹の黒いドラゴンが居た。
「うぉおおおおおお!凄い!」
体長3メートル程の、黒い鱗が艶やかに輝くドラゴンだ。
「それじゃあ私も本体に戻りますからウチさん、私の背に乗って下さいね。
アナタ、後は任せましたよ」
「あゝ……ボク以外の男がユキさんに乗るなんて」
わざとらしくヤシさんが嘆く。
「でもユキさんのお願いは何でも聞くのが男の包容力!」
一人芝居ですか?
突っ込みませんよ、僕は。
ユキさんも変身した。
ユキさんは髪と同じ水色のドラゴンになった。
大きさはスイより一回り大きいくらいだった。
ん?大きいのがステイタスなのに、小さくない?
「ユキさんの本来の姿は今の十倍くらいかな。
でも君を乗せるのに大き過ぎたら都合悪いから、最小サイズになったんだよ」
秋彦さんが僕の疑問顔を見て教えてくれた。
その秋彦さんに支えてもらってドラゴンユキさんの背へ。
「鬣をしっかり持ってね~。
安全飛行だと思うけど、気をつけて。
風の抵抗はユキさんの魔法でどうにかしてくれるから」
「詳しいですけど、秋彦さんも乗った事あるんですか?」
秋彦さんはニヤリと笑ってサムズアップする。
「本来のサイズに乗せてもらってるよ」
ユキさんとスイはゆっくり地上を離れ空へと舞い上がる。
空の散歩はサイコーでした。
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