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第三章 異世界の馬車窓から
続・スイのコンプレックス…いや、スイアワー?
しおりを挟む空の散歩を堪能した後、ユキさんは住処の山頂へ戻って行った。
地上に戻った時には秋彦さんとヤシさんの姿はなく、僕はスイと馬に乗ってのんびりとトキ商事に戻った。
ドラゴンについて聞いてみたい事は有ったけど、スイに聞く事は憚られたので、ついつい無言になってしまう。
するとスイがゆっくりと話始めた。
「……2年ぶりなんですよ」
何が……ってユキさんに会ったのがかな?
「トキの家に行って思いませんでしたか?
私や祖父と雰囲気と言うのでしょうか、空気空気が違うと」
うん、それは思った。
トキ家の人達ってまんま商売人って感じだけど、スイとケチさんは真面目な堅物って感じだよね。
「私の曽祖父は四人目の子が生まれてすぐに亡くなられたそうです。
祖父は長男として高祖母や曽祖母に、厳しく躾けられたそうです。
それでも性格なのでしょうね、それが辛いと思った事は無いそうですよ。
ただトキ家の後継として商会を束ねていたのですが、商売人には向いていなかった様で、カモさんが後継として成人した後、誘われるままに財務省に努める様になったそうです。
父は小さな頃から高祖父殿に懐いていたそうで、成人した後は世界を巡ってくると旅人となっりました。
旅の途中、うっかりドラゴンのテリトリーに入ってしまい、なぜかそこで母を射止めたと言うのですから、面白いですよね。
だって自分より大きくて力も強いドラゴンですよ。
ただの旅人が射止めるとは、同じ男としては、素直に凄いと思います。
ただ母はそうそうテリトリーを離れられませんし、父は母の元に通って行くので、私は祖父に育てられました。
その頃祖父は役職に就いていましたから、私は城の中で育ちました。
勿論忙しい祖父ではなく、城に勤められている方々に育てられたのですが、主に面倒を見てくださったのが、当時のメイド長と執事の方です。
私は見ての通り黒髪で、トキ家の後継なのですけれど、商売人には向きません。
なので祖父の跡を継ごうと思っていたのですけれど、好きにしていいと言われましてね…。
私は今将来を模索中なのですよ。
中途半端な状況ですので、将来が決まるまでは母に会わないつもりだったのですけど、会ってしまいましたね。
ニトなどに言わせると、真面目で頑固な堅物ですけど、実際は行先も決められていないヘタレというやつなんですよ」
静かに語るスイの話を聞いていたけど、完璧に見えるスイだけど、ドラゴンの事といい、割とコンプレックスが強いのかな。
久しぶりに母親と会ったり、ドラゴンへと変身した事で何か思う事が有ったのかな。
真面目に考え過ぎているだけだと思うけど、こう言う事って周りが何を言っても、本人が納得しないとどうしようもないことなんだよね。
僕は黙って話を聞くだけだ。
*****
ゆっくり歩みを進めていた馬が商店の前に着いた。
「つまらない長話をしてしまってすみません。
…まあ高祖父殿の話と合わせてこれがトキ家の現状だと思って下さいね。
朝食の準備が出来ているか聞いてきます」
僕を馬から降ろして、スイは馬を連れて離れて行く。
ずっと近くにいたけど、スイの事がもっと沢山知られたひと時だった。
朝食の頃にはいつものスイに戻っていたけどね。
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