69 / 161
第三章 異世界の馬車窓から
感情って厄介だよね
しおりを挟むニヤ達にも確認したけど、やはりこのアモリは、僕達の食糧となる為に近寄って来たようだ。
『あのね、人間って魔獣食べるよね。
この子とうちゃんが近くに来たって分かって、若い子達や危ない子がとうちゃん傷つけ無いように、自分が来たんだって』
『自分はもう年だから、遅かれ早かれ他の獣や魔獣に食べられちゃうの。
それならとうちゃんのお腹を満たす役立てて欲しいそうなの』
『でね、でね、自分の分まで頑張って生きてねって』
「…何で……」
言いたい事は沢山あるけど、どう言葉にすれば良いのかわからない。
確かに僕達は、旅の間の食糧は、獣や魔獣を狩って食べる予定だった。
狩りをする時は、見てわかるほどの幼体は流石に狙わないけど、そこそこ育った獲物は狩る。
このアモリは自分の群れの仲間を守るため、それと無駄な戦いを避けるために、生い先短い自分を差し出してきたのだ。
だから、僕は…、このアモリの意志を、ニヤ達を通じて知った僕が………。
アモリを抱きしめようと思ったけど、僕の身体は小さくて、彼の首にしがみつく事しか出来ない。
暫くしがみついていたけれど、促すようにアモリが鼻を鳴らされた。
僕はナイフをスイから受け取り、ピヤに尋ねた。
「……どこだと…一番苦しくないのかな……」
『ここだよ』
ピアが指した場所にナイフを充てがうけれど、震えている手はか弱くて、今の僕の力では苦しめてしまいそうだ。
「…スイ、ごめんけど…………」
全てを言えずにいたけれど、察したスイが僕のナイフを持つ手に手を添えてくれる。
「………ありがとう…………」
アモリになのか、スイになのか、僕の呟きはどちらへ向けた言葉だったのだろう……。
飼育員をしていても、肉は好きだよ。
沢山食べてたよ。
牛も豚も鳥も。
ジンギスカンだって食べるし、馬刺しも食べた事がある。
ジビエを食べに行った事さえある。
だから今更生き物を食べる事に罪悪感を感じたり、可愛そうだとか思うと思わなかった。
だって動物は動物だし、肉は肉としてしか見ていなかったから。
今まで食べてきた肉だって、元は生き物で、誰かが代わりに命を食べ物にしてくれているのだから。
それに釣りに行ってその場で魚を捌く事もあったのに、魚なら良くて動物はダメ、などと言うのは矛盾だ。
言ってしまえば植物だって生きている。
水の中にだって生命体は存在している。
【人間は命を食べなければ生きていけない、罪深い生き物だ】
と何かで読んでも、「成る程ね」と思っただけで、理解していたわけではなかったんだな。
僕に…僕達に出来るのは、いただいた命に感謝しをて、無駄にしない事なのだろうな。
【「いただきます」という言葉は「命をいただきます」と言う意味だ】
と言う言葉もどこかでみかけたな。
などと言うことを、解体されて、生き物だったモノが食糧となっていくのを、眺めながら考えていた。
その夜僕は熱を出した。
*****
三十路を超えて知恵熱を出すとは思わなかった。
子供ではない、いい年をした大人が、今更そんなことで…と言われそうな事で。
熱はニヤ達が治してくれたけれど、それからも毎日魔獣や動物が、僕の前に横たわるのは続いた。
スイ達が「替わります」と言ってくれるけど、これは僕がやらなければならない事だと思うから…僕にその身を差し出してくれているのだから、目を逸らしたらダメなんだと思う。
決してこの事に慣れてしまうのもいけない事だと思う。
だから僕はいつも感謝と祈りを込めて、命をいただく。
僕は色んなものに生かされていると言うことを、再確認しながら。
それでもやはり、夜には熱を出してしまう。
テントの中でニヤ達に熱を取ってもらっていると、同じテントの中で横になっている団長が話しかけてきた。
「私達や国軍は、年に数度演習を行っています。
野営の時は勿論獲物を狩り、それを食べます。
しかし狩をするのも、若い者達の間では、誰が大物を狩れるか、誰が先に獲物を倒せるかなど、ゲーム感覚の者達も居るのですよ、お恥ずかしながら。
いくら口で言っても、理解する事は難しいのです。
でも今回この旅に来ている者達は、命というモノを理解する事ができたと思います。
彼らの成長に助力してくれた事に、感謝致します」
そっか、僕だけの為だけではなく、皆の為にもなっているのか。
「ウチが居なければ、出会った魔獣や獣を手当たり次第…って事になっていたかもしれないんだから、やつらの為にもなっている部分があるんじゃないの」
そうだよね、どのみち食事の為には狩をしなければならないんだし、もしかしてその狩で若いメスを狩ってしまってたかもしれない。
そうならない為にも彼らは僕の所へ来たのかもしれない。
『だからそうなんだって。
とうちゃんが身体壊す事なんかないよ』
『そうそう、とうちゃんの為になりたいって思ってたのに、そのせいでとうちゃんの体調崩したってなったら、あの子達哀しむの。
だから思い詰めないの』
皆に慰められる。
「頭で理解してても感情がついていかないんだよ。
そのうち慣れるのではなくて、折り合いつけるから、もう暫く弱い僕を見守っていて下さい」
弱い自分を口に出すのは恥ずかしく、僕は毛布を頭から被って眠りについた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
44
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる