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第三章 異世界の馬車窓から

野宿中に起こった出来事

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旅の一日目は南方の山へ向かって進み、残り三分の二程度の地点で野宿だ。
そこで問題が発生してしまった。


*****



まずは寝床のテント張りからだ。

僕は見ているだけだったんだけど、てっきり荷物にテントが有るのだと思っていたら、違った。

まずは荷馬車の幌を外し、支柱を取り外す。
その支柱を外したり、ずらしたり、ジョイントで留めたりで、骨組みの出来上がり。
取り外した幌は荷馬車に被せて、飛ばないようロープを掛ける。
テントの幕は荷物の中に有った、水に棲む魔獣の皮だそうだ。
それを骨組みの上に被せるけど、支柱の半分くらいの長さしか無い。
下半分はコの字に布を巻き、入り口は魔獣の皮に別の魔獣の皮をのれん状に垂らす。

何故パーツが三つも有るのか聞いてみたら、水に棲む魔獣の皮は雨をほぼ完全に防ぐけれど、通気性が悪い。
布は魔虫の糸を使った物で、軽く水を弾き、通気性が良いそうだ。
ただ水を弾くだけで、しっかりと防げないので、屋根部分には使えない。
そして入り口の魔獣の皮は、人には分からないけれど、害虫が嫌う匂いを出す獣の皮で虫除けだそうだ。

出来上がったテントは、キャンプのテントと言うより、イベントテントの形をしている。
そのテントの一つが、僕とスイとニトと団長さん、残りの二つに団員さん用だ。
団員さん達は六人ずつに分かれて、三交代で見張りをしてくれると。
見張りに六人もいるのかな?と思ったけど、火の見張り、馬の見張り、荷台の荷物の見張り、人の寝てるテントの見張り……一人や二人では無理だね。

「申し訳ないけど安全の為に宜しくお願いします」
と挨拶をしたら、皆さん
「これが仕事ですから」
と笑って言ってくれた。
感謝の気持ちだけは忘れないようにしなければ。


問題は寝床では無く、食事だ…。

テントを張り終えてから団長が、野宿の準備をするメンバーと、見張りと、食糧調達にメンバーを割り振り、いざ行動…と言うタイミングで、一匹の魔獣が姿を現した。

「団長、アモリです!」

団員さんの指す方を見ると、水牛の様な角を持つ、ダークグリーンのカバの様な魔獣がこちらへ向かい歩いて来ている。
サイズはカバより一回り大きいくらいだ。

「危ない獣なのか?」
隣にいたニトに聞いてみる。

「草食なんだけど、中型の肉食獣くらいなら、あの角と体格で追い払えるくらいの強さだな。
テリトリー意識が強くて、テリトリーに入ったら体当たりでドーン!だよ」
あのガタイの体当たりはキツいだろう。
盾で防げるレベルではないと思う。

「この辺りってテリトリーなの?」
「いや、今走っている道って、危ない魔獣達のテリトリーに入ってない筈なんだけどね」
スイの言葉に護衛さんが頷く。

「テリトリーを外して道を通している筈ですが、この辺りが新たなテリトリーになったのかもしれませんね」

んー、ちょっと疑問だ。
魔獣だけど、野生生物なら、人喰いでない限り、人は天敵だろう。
その天敵のテリトリーに、迂闊に近寄ると狩られてしまうから、近寄らないのではないのか?

だから人のテリトリーに新たに自分のテリトリーを作る事は無いのではと思うのだけど…、こちらの世界では違うのかな?

「まあどっちにせよ、今日の夕食だな、アイツは」
話している間にもどんどんと近付いて来て、僕達迄7、8メートルくらいだ。
団員さん達が弓を番えて剣を構える。

でもあの魔獣…………。

「ちょっと待ってください」

今にも弓を放とうとした団員さんの元へ走って行く。

「ウチ様!危ないです!
こちらへ戻って下さい!」
「危ないから下がって下さい!」
スイと団長の声が聞こえるけど、僕はそのまま魔獣…アモリの方へ歩みを進める。

アモリへ近寄りながら頭の中でニヤ達を呼ぶ。
アモリは立ち止まり、僕が近寄るのを待っていた。

いよいよ角が届く距離まで来た時に、アモリは膝を折り、その場へ横たわった。
後ろの方から騒めきが聞こえるが、振り返らず横たわるアモリに触れる。
頭を撫でると、アモリは満足そうに一声鳴き、瞼を閉じた。

「……ありがとう。
その気持ち受け取らさせて頂くね……。
すみません、どなたかナイフを貸して下さい」

まだ騒ついている後方へ向かい声をかけると、スイが刃渡り30センチ程のナイフを持って来てくれた。

「ウチ様、この獣はもしかして…」

「うん、そう、僕達に食べられる為に来てくれたんだって」





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