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第三章 異世界の馬車窓から
三人でいるのが一番落ち着くね
しおりを挟む牧さんのダメージが大き過ぎて、その場は一旦解散となった。
「………………」
「………………………………」
「………いや、濃いね……」
「返す言葉がございません」
苦笑いを浮かべて、軽く頭を下げるニト。
「凄くダメージ受けてたけど、大丈夫なの?」
「喧嘩したらいつもの事だか……ですから」
「でも何があんなにダメージを与えたんだろう」
だってロリさん、とても美人さんなんだよ?
「そうですね、曽祖父に言わせますと、【自分は真性だけど、元の世界では犯罪になった事でも、ここでは合法だ】と幼い頃聞いた覚えが有ります」
真正って……ガチめに犯罪じゃん。
「まぁ、ロリさんは五百歳なんだから犯罪ではないかもしれないけど。
どのみち僕にはわからない世界だな」
「性癖はそれぞれという事ですね」
まさにそれだね。
「………………ところでニト……気持ち悪い」
気軽い会話に慣れてるのに、改められると他の人と話してるようだ。
「そう言われましても……」
ちろりと後ろに視線を向ける。
勿論その視線の先に居るのはスイだ。
会話は聞こえて居るはずなのに、いつものポーカーフェイス。
秋彦さん達以外の相手だと崩れにくいんだなぁ。
宿泊する部屋に入り、ソファーに腰を下ろす。
「この後の予定は、本日はユウ様ご家族と晩餐と、その後(のち)少し時間が欲しいとユウ様から申しつかっております」
どうされますか?とスイに尋ねられたけど、さっきまではあのノリと、ツルスベ対モフ……価値観の相違で殆ど話し合いになってないから。
僕が了承すると、
「では先方へ伝えてきますので、お寛ぎになってて下さい」
軽い会釈をしてスイが部屋を出る。
と、それまで僕の対面のソファーに座っていたニトが、ゴロンと横になった。
「あ~~本っっっっ当に堅物なんだから。
公務つったって俺の実家だよ?
別に良いじゃんねぇ」
「そうだねと頷きたい気持ちは有るけど、休みで帰って来たとかじゃなくて、僕の付き添いと考えると、何とも言えないかなぁ」
丁寧に喋るニトに違和感は感じるけどね、やっぱりスイの言い分は間違ってないと思うから。
気持ち悪いのは気持ち悪いんだけど。
「あ~、ウチも奴の味方なんだ」
言いながらソファーから起き上がり、テーブルを回って来たニトに抱き上げられてしまった。
「こーんなに仲良しな俺より奴の方が良いんだ」
抱えた僕の頭に顎をグリグリ押し付ける。
「ちょ…痛いからやめてくれよ」
「やーだね、俺の心の方がもっと痛いんだから」
「痛い痛い痛い!髪の毛が攣るって!禿げるって!」
ジタバタしてたら、僕の危機だと思ったのか、熊澤さんがニトの腕に噛み付いた。
「イテーーーー!」
「うわぁ!熊澤さん、離して!イジメられてたんじゃないから!ふざけてただけだから!」
「毒!毒はちゃんと抜いてるの?」
噛まれた腕に息を吹きかけながら聞いてくる。
「それは大丈夫………だと思う」
「おい、ちゃんと断言してよ」
ドタバタして居るところに戻ってきたスイが、無言で荷物から応急セットを取り出し、ニトに投げる。
「手当してくれないの?自分でしろって?」
「どうせウチ様に下らないイタズラでもしていたのでしょう。
自業自得です」
喚くニトをスルーして、優雅にお茶を淹れてくれたけど、熊澤さんが噛んだんだから放ったらかしてお茶を飲むなんて、ちょっと無理かな。
ニトの手当をしようとしたら、横から取り上げられて、
「ウチ様の手を煩わせる事は有りませんよ」
と、結局はスイが手当をした。
仲が良いんだか悪いんだか……。
でもいつもの空気で落ち着くわ。
*****
「先程は取り乱してすまなかった」
夕食の後、憔悴したままの牧さんが、僕に頭を下げる。
「いえ、こちらこそムキになってすみません」
大人気なかったよな……お互いだけど。
「ちゃんと謝ったからもう勘弁して」
「ちゃんと反省した?」
「十分に」と神妙な顔でロリさんと向き合う牧さん。
「おかのした」
意味不明な返事をした後、ポンっと音を立てて八頭身美女は幼女に戻る。
「おおおおお~、神の如きちっぱい!もふもふシッポにピクピクおミミ~~」
危ない呪文でも唱える様な言葉を並べて、牧さんはロリさんを抱き上げる。
…………部屋に戻って良いかなぁ。
思わず逸らした視線の先で、ニトが「ファイト!」と小さくガッツポーズをしている。
頑張りたくないけど、頑張るわ。
頑張りたくないけどね…。
とりあえずスイの淹れてくれたお茶で気持ちを落ち着けよう。
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