【完結】英雄召喚されたのに色々問題発生です【改訂版】

七地潮

文字の大きさ
74 / 161
第三章 異世界の馬車窓から

三人でいるのが一番落ち着くね

しおりを挟む

牧さんのダメージが大き過ぎて、その場は一旦解散となった。


「………………」
「………………………………」
「………いや、濃いね……」
「返す言葉がございません」
苦笑いを浮かべて、軽く頭を下げるニト。

「凄くダメージ受けてたけど、大丈夫なの?」
「喧嘩したらいつもの事だか……ですから」
「でも何があんなにダメージを与えたんだろう」
だってロリさん、とても美人さんなんだよ?

「そうですね、曽祖父に言わせますと、【自分は真性だけど、元の世界では犯罪になった事でも、ここでは合法だ】と幼い頃聞いた覚えが有ります」
真正って……ガチめに犯罪じゃん。

「まぁ、ロリさんは五百歳なんだから犯罪ではないかもしれないけど。
どのみち僕にはわからない世界だな」
「性癖はそれぞれという事ですね」
まさにそれだね。

「………………ところでニト……気持ち悪い」
気軽い会話に慣れてるのに、改められると他の人と話してるようだ。
「そう言われましても……」
ちろりと後ろに視線を向ける。
勿論その視線の先に居るのはスイだ。

会話は聞こえて居るはずなのに、いつものポーカーフェイス。
秋彦さん達以外の相手だと崩れにくいんだなぁ。


宿泊する部屋に入り、ソファーに腰を下ろす。
「この後の予定は、本日はユウ様ご家族と晩餐と、その後(のち)少し時間が欲しいとユウ様から申しつかっております」

どうされますか?とスイに尋ねられたけど、さっきまではあのノリと、ツルスベ対モフ……価値観の相違で殆ど話し合いになってないから。

僕が了承すると、
「では先方へ伝えてきますので、お寛ぎになってて下さい」
軽い会釈をしてスイが部屋を出る。
と、それまで僕の対面のソファーに座っていたニトが、ゴロンと横になった。

「あ~~本っっっっ当に堅物なんだから。
公務つったって俺の実家だよ?
別に良いじゃんねぇ」
「そうだねと頷きたい気持ちは有るけど、休みで帰って来たとかじゃなくて、僕の付き添いと考えると、何とも言えないかなぁ」

丁寧に喋るニトに違和感は感じるけどね、やっぱりスイの言い分は間違ってないと思うから。
気持ち悪いのは気持ち悪いんだけど。

「あ~、ウチも奴の味方なんだ」
言いながらソファーから起き上がり、テーブルを回って来たニトに抱き上げられてしまった。

「こーんなに仲良しな俺より奴の方が良いんだ」
抱えた僕の頭に顎をグリグリ押し付ける。

「ちょ…痛いからやめてくれよ」
「やーだね、俺の心の方がもっと痛いんだから」
「痛い痛い痛い!髪の毛が攣るって!禿げるって!」

ジタバタしてたら、僕の危機だと思ったのか、熊澤さんがニトの腕に噛み付いた。

「イテーーーー!」

「うわぁ!熊澤さん、離して!イジメられてたんじゃないから!ふざけてただけだから!」
「毒!毒はちゃんと抜いてるの?」
噛まれた腕に息を吹きかけながら聞いてくる。

「それは大丈夫………だと思う」
「おい、ちゃんと断言してよ」
ドタバタして居るところに戻ってきたスイが、無言で荷物から応急セットを取り出し、ニトに投げる。

「手当してくれないの?自分でしろって?」
「どうせウチ様に下らないイタズラでもしていたのでしょう。
自業自得です」

喚くニトをスルーして、優雅にお茶を淹れてくれたけど、熊澤さんが噛んだんだから放ったらかしてお茶を飲むなんて、ちょっと無理かな。

ニトの手当をしようとしたら、横から取り上げられて、
「ウチ様の手を煩わせる事は有りませんよ」
と、結局はスイが手当をした。

仲が良いんだか悪いんだか……。
でもいつもの空気で落ち着くわ。


*****


「先程は取り乱してすまなかった」
夕食の後、憔悴したままの牧さんが、僕に頭を下げる。

「いえ、こちらこそムキになってすみません」
大人気なかったよな……お互いだけど。

「ちゃんと謝ったからもう勘弁して」
「ちゃんと反省した?」
「十分に」と神妙な顔でロリさんと向き合う牧さん。

「おかのした」
意味不明な返事をした後、ポンっと音を立てて八頭身美女は幼女に戻る。
「おおおおお~、神の如きちっぱい!もふもふシッポにピクピクおミミ~~」

危ない呪文でも唱える様な言葉を並べて、牧さんはロリさんを抱き上げる。
…………部屋に戻って良いかなぁ。

思わず逸らした視線の先で、ニトが「ファイト!」と小さくガッツポーズをしている。
頑張りたくないけど、頑張るわ。
頑張りたくないけどね…。

とりあえずスイの淹れてくれたお茶で気持ちを落ち着けよう。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...