134 / 161
第五章 問題は尽きないようです
お山越えの策
しおりを挟むその夜自宅の部屋のベッドで寝て居ると、頬をペチペチ叩かれて目を覚ました。
『とうちゃんとうちゃん、起きて~』
『とうちゃん起きるの』
「うーん…何?どうしたの?」
目をこすりながら身体を起こすと、ニヤとピヤがニコニコ笑顔で顔の前にいた。
『あのねあのね、相談したの。
そしたら連れて来いって言われたの』
「相談?会議中に言ってたやつ?」
『連れて来たら良いよって言われたから迎えに来たよ』
「いや、だから誰に言われてどこに行けって言うの?」
『誰に…?わかんないの』
『どこに?僕たちのところだよ』
「僕たちのとこって、湖の事?」
そうそうと頷く二人。
向かう場所はわかったけど、一体誰に言われて迎えに来たんだよ。
「そこに行けば何かあるんだね」
『そうそう。
お山の事を相談したら、とうちゃん連れて来て良いよって言われたの』
『だから行くよ』
要領得ないけど、何か進展する事があるのなら、行かないってわけにはいかないよな。
僕がベッドから降りようとすると、いつもの様に熊澤さんが首に巻きついて来た。
「……熊澤さん連れて行くのは大丈夫なの?」
『ん~~、ダメ?』
『う~ん、ムリなの?』
いや、だから聞かれても……。
僕は熊澤さんを連れてスイの部屋を訪れた。
「スイ、起きてる?」
ノックをすると、中からドアが開き、スイが顔を覗かせる。
「ウチ様、こんな夜更けにどうかされましたか? 」
「もしかしなくても寝てた?
起こしたのならごめん」
「いえ、まだ起きてましたから大丈夫ですよ。
何かありましたか?」
聞いてなんだけど、こんな時間なのに起きてたんだ。
「スイって今起きてる事件知ってるよね?」
スイが頷いたのを見て、今自分でわかってる事をざっと説明する。
「で、どうやら山脈の向こうに妖精達が行けるようになる術(すべ)があるみたいなんで、ちょっと出て来るね。
どれくらいで戻って来れるかわからないけど、心配しないで」
「……お一人で大丈夫なのですか?」
心配そうに聞かれるけれど、
「ニヤ達が一緒だし、この子達が僕を危ない場所に連れて行くわけないから大丈夫。
それと、どうも熊澤さんは連れて行けないみたいだから、お願いしていい?」
「お預かりするのは問題ありませんが………。
目的地までお送りしましょうか?」
近くまで送ってもらって良いのかな?とニヤ達を見ると、ふるふると頭を振っていた。
「何でかわからないけど、ダメみたい」
スイは黙って考え込んでしまったけど、ため息とともに頷いた。
「わかりました。
では私は大人しく待っていますので、くれぐれも無茶をせず、無事に戻って下さい。
熊澤さんは責任を持ってお預かりさせていただきます」
入り口まで見送りを…とスイは言ったけど、ニヤ達に言われて向かった場所は僕の私室だ。
「部屋に戻ってどうするの?」
『んとね、危ないからベッドに横になって』
横になるってもしかして、
「精神だけ連れて行くとか?」
僕の問いかけに、そうそうと頷く二人。
「スイ……どうも中身だけ連れて行って、身体はここに置いて行くみたい」
「大丈夫なのですか?」
不安そうなスイに反して、ニヤ達は自信満々だ。
『あのね、眠りの子に深ーく深ーく眠らせてもらうの。
それで私たちが連れてくの』
ちゃんと戻って来れるんだろうねえ……。
スイに心配かけないよう、頭の中で問いかけると、二人は腰に手を当て胸を張る。
『大丈夫なの。
眠りの子に深く眠らせられたら、眠りの子に起こしてもらうと大丈夫なの。
でも他の人が起こすと危ないの』
大丈夫ちゃうやん!
「……あの…スイ、今から妖術で深く眠って精神だけで行くらしいけど、途中で起こすとヤバイみたいだから、僕が自分で目覚めるまで……眠りの子に起こしてもらうまで、身体の見張りよろしく」
僕の言葉にスイの眉間にシワがよる。
「本当に大丈夫なのですか?」
「まあ、大丈夫だよきっと。
僕はニヤ達を信じてるから」
そう言うと、二人が顔に張り付いて来た。
そして眠りの子を呼んで、僕は深い眠りに入って行く……。
2
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる