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兄へのプレゼント
しおりを挟む学園の後期のメインイベント、学園祭が終わって4月も半ば、学園生活は問題なく過ごせている。
女生徒ABCも大人しく(儀式の相手との親交を深めているようだ)学業も問題ない。
家族仲も相変わらずだし、ヒロインの『男?そんなのより我が道をゆく』も相変わらずだ。
そんな4月の個人的行儀と言えば、シスコン兄さんの誕生日だ。
兄への誕生日プレゼントは、キャスティーヌの記憶を辿っても、毎年悩みどころだったみたいだね。
因みに去年は、両親から新しい馬具一式を、祖父母からは別荘を、リズヴァーンからはナイフを貰っていた。
キャスティーヌからは自分で育てた花を贈られていた。
美少女フェイスが、白とピンクの可憐な花束を持って微笑む画像が浮かんでくる。
うん、すげー似合う。洒落になんないほど。
それまでも、キャスティーヌは手作りのプレゼントを渡している。
今年も……と思うのだが、花を育てるのには時間がないし、刺繍や小物などは俺が作れない。
手作りクッキーやお菓子も作れない。
似顔絵……肩叩き券………ナイワー。
「それで悩んでいますの」
放課後カフェテラスで、クリスティーナ達に相談してみた。
「手作りが良いんですの?」
スカーレットが聞いてくる。
「ええ、お金で買えるものなら、両親や祖父母が渡し尽くしてますし、私の購入できる範囲では、お兄様に喜んでいただける物はなかなか……」
「でもアルバート様なら、キャシーが贈る物ならなんでも喜んでくれるのではないかしら?」
兄のシスコンぶりの一端を知っているクリスティーナが、真っ当なことを言うけど、やはり喜んでもらいたいじゃん。
「ちょっとした小物や、ハンカチに刺繍をするのはどうなんですの?」
「スカーレット…私手先が器用ではないんです」
「お菓子などは?」
「あら、クリスティーナ様、貴族の娘が厨房に入るのは如何かと思いますわ」
うん、作れないけど、厨房に入るのもダメだと思う。
「そうですか。
私は料理することも好きなので、わりと厨房に立つのですけれど、上級貴族の方々ですと、やはりはしたないことになるのですね」
「そうね、それにコックやメイドの仕事を奪うことに繋がりますから、やはり屋敷内の仕事には、極力手を出さない方が良いかと思いますわ」
「私は田舎にいる頃、メイドも少なかったですので、率先して動いてましたの。
その頃の習慣が抜けていませんのね。
王都に戻って生活するからには、少しずつ直していかないといけませんわね」
「その方がよろしいかと思いますわ」
二人の話を聞きながら、お茶を飲む。
うーん、本当にどうしようかと考え込んでいると、クリスティーナが「そうですわ」と明るい声を上げた。
「お守りなんてどうでしょう」
「お守りですか?」
クリスティーナによると、母親の看病をしている頃、手作りのお守りの作り方を、療養所の看護師から聞いて作って渡したそうだ。
お守り……頭に浮かんだのは、神社などで売っている『家内安全』『合格祈願』などだけど、ここでのお守りはそう言うんじゃない。
小さな巾着に乾燥させた薬草や、毒消し草を詰めたり、獣除けの香を詰めたポプリなどの事だ。
うん、まっすぐ縫うくらいならなんとかなると思う。
中身を考えれば良いプレゼントになりそうだ。
「そうですわ、魔石に加護を付与した物などはどうでしょう」
「それは良いですわね、回復の加護などでしたら、広く使えますわよ」
スカーレットの提案に、クリスティーナも更に具体案を出す。
「そうですね、お兄様は鍛錬を欠かしませんし、体力か魔力の回復の加護でしたら、お役に立てるかもしれませんわ。
強力なのは無理だとしても、少しの加護ならできるかもしれません」
「身に付けるのも、剣帯に取り付けられる物ですと邪魔にならないかもしれませんね」
「そうですわね、ポケットなどに入れていて落とすといけませんから。
それに首から下げるのも、アルバート様には少しばかり………」
想像してみた。
首から長い紐を通した巾着をぶら下げるアルバート………ナイデスワ。
「良いアイデアをありがとうございます。
お二人に相談して良かったですわ。
これでお兄様に喜んでいただけますわ」
二人に感謝の言葉を述べると、二人とも同じように喜んでくれた。
友達ってイイね!
それならばと、加護を付与しやすい魔石を取り扱っている店をスカーレットが、剣帯などの小物を豊富に扱っているお店をクリスティーナが教えてくれたので、早速放課後行ってみることにした。
……あ!一人で買い物だけど、一人じゃないからね。
当たり前だけど、視界に入らないところに護衛はついて来るよ。
貴族の令嬢が一人でフラフラなんて、いくら治安の良い王都でも無理だから。
まぁ、下級貴族には付いていない(経済的にも付けれない)けど、伯爵令嬢だからね。
ちゃんと警備兵が見回りしているから、男性の場合は一人で出歩く人はいるけど、女性はねぇ。
せめてもの配慮で視界に入らないようにしてくれている。
だから今日も一人で学園の門を潜ったんだけど…………。
「やあ、キャシー、今帰りかい?
一緒に帰ろうね」
………シスコン様登場。
兄の誕生日プレゼント手配しに行くのに、兄に付いて来られるのはダメでしょう。
今日は諦めて家へ戻った。
………やっぱりGPS付いているよ、絶対。
応援ありがとうございます!
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