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南方商会
しおりを挟む3人でスカーレットの馬車に乗って街へ出る。
スカーレットに紹介された店は、案の定と言うか、モースディブスの店だった。
うん、そんなもんだってわかっていたよ。
武具の店も近所だそうで、クリスティーナに場所を教えてもらい、二人はそのまま帰宅した。
俺は一人で(ちゃんと護衛は付いてきてるよ)モースディブスの店、【南方商会】だ。
【南方商会】元々はその名の通り、出身地の南大陸の珍しい物を取り扱っていた。
南大陸から王都の南の国、イスラリアルでまず店を出し、そこを足がかりに王都でも出店した。
派手でカラフルな品々は珍しく、王都でも高い人気だ。
おかげで店の規模が拡大して、支店も複数できてきている、大商店だ。
生活雑貨から、衣料にアクセサリー、食料品まで幅広く店を出している。
【取り扱ってないのは人間だけ】などと言う笑い話もあるくらい、様々なら物が手に入る。
そんな大店(おおたな)の跡取りがモースディブスだ。
クリスティーナ、このルートに行けば、嫌っている貴族社会から一歩引けるんじゃないのかな。
商売について教えてもらったり、仲良くしているんだから、くっついちゃえば良いのに。
モースディブスは放課後店に出ているらしい。
けど、決まった店にいるわけでなく、色んな店を回っているとか。
店で取り扱うものによって客層も販売方法も変わるから、後継の勉強としてあちらこちらの店に出ているんだって。
見た目は軽そうだけど、結構……いや、かなり真面目なのか?
そんな感じで色んな店を回っているんだから、居ないだろうと思ったけど、やっぱりいるんだよなぁ。
いや、こうなるだろうってわかっていたよ、うん。
「やあ、アルバートのお姫様、ようこそ当店へ。
今日はどういった物をお探しですか?」
左手を腹部に、右手を後ろに回す……えーと確かBow and scrapeとか言う挨拶だっけ?
なんだかちょっと大袈裟と言うか慇懃無礼と言うか……、そんな風に感じるのは穿ち過ぎ?
「こんにちは、ベクトリグ様。
今日は空(から)の魔石を探していますの。
兄様の誕生日プレゼントにお守りを作ろうと思いまして。
空の魔石の在庫はございますか?」
「どうぞモースディブスとお呼び下さい。
なにせこの店にはベクトリグ姓の者が数多く居ますからね」
そりゃそうか。
別に本人がそれで良いと言うなら、名前呼びさせてもらおう。
スカーレットに勧められて店に来たことを告げると、先日の学園祭での発表に使った魔石を、ここで入手して行ったとのことだった。
なる程、モースディブスの店なのに、クリスティーナに紹介されなくて、何でスカーレットかと思ったけど、魔石を買ったばかりだからか。
「空の魔石ね。
魔石って普通は使い捨てだから、空の魔石って店頭に並ぶことは少ないんだよ」
うん、知ってる。
魔石はあくまでも補助で使う物であって、無くても全然問題ないから、元々需要が少ないんだ。
なんて言っても死体から出てくる物なんだから、気持ち悪いって思う人は多い。
無くても大丈夫だから、使われることが少ない。
だから販売されている魔石は安く、空になると皆気軽に廃棄する。
勿論買取もしているけど、子供の小遣い以下なので、使い終わった物をわざわざ店に持って行く人はほとんどいない。
んー、日本でペットボトル買取業者が居ても、安いし面倒だし皆捨てるじゃん?
そんな感覚かな?
とにかく、空の魔石はいつでもあるわけではない。
知っていたけど、ほら、ご都合主義なゲーム内世界だからさ、
「まあ、たまたま昨日少量だけど持ち込みがあったんだ。
タイミングが良かったね」
有ると思ったんだ。
在庫があるだけ見せてもらった。
小指の先の大きさから、握り拳の大きさまで、大小様々な魔石が30個ほどある。
大きいのは術式を付与しやすいけど、却下だ。
剣帯に付けるのに、直径10センチ近いのはないだろ。
だからと言って小さすぎるのも、付与が難しくなる。
魔石の形も丸みを帯びた物、角張っている物、色も元の魔石によって様々だ。
あれでもないこれでもないと真剣に選んでいると、モースディブスが声をかけてきた。
「とても真剣に選ぶんだね。
本当に君が付与をするの?」
「ええそうですわよ。
お兄様に渡すんですもの、あまり得意ではありませんが、頑張りますわ」
俺の返事に、ふーんと返す彼は少し考え込む。
「君なら自分で付与しなくても、神殿で買ってきた方が早いんじゃないのかい?」
「そうですわね、確かにそちらの方が簡単ですわ。
それでもやはり、兄様へのプレゼントですから、ちゃんと自分で付与を施したいのです」
「素人がやるより、神官の付与の方が、より強力で確実だと思うけど?」
「それも存じていますわ。
それでも、やっぱり大切な人へのプレゼントですから、心を込めたいです」
……うん、妹にめちゃガチな探索魔法かけたりするシスコンだけど、妹より美少女で、女の立場とすれば複雑だけど、大切な家族なのは変わりない。
金に物を言わせたり、手抜きをするのは俺が嫌だ。
「へえ……身内に大事にされてるってわかってるんだ。
…………君ってさ、貴族っぽくないよね。
人に言われない?」
うっ……まあ、普通の貴族令嬢なら、自分の手を煩わせず、お金で解決するか、人任せにするよな。
人を使うのも貴族の仕事ではあるし。
でもさあ、本人にズバッと言うことか?
「そんなこと言われたことありません。
家族に大事にされているとわかっているからこそ、自分の手で感謝の気持ちを表したいと思うのはおかしなことですか?」
「いや、それは普通の感覚だけど、貴族の感覚ではないよ」
なんかやたらに突っかかって来るなぁ。
「モースディブス様は貴族に偏見がおありなのではなくって?」
「無いとは言わないけれど、我が家の客は貴族階級の方も多いから、色んな方とお会いしている。
だから君の考え方が一般の貴族の方と違うと思うのだけど……」
一旦言葉を止めて、真っ直ぐに視線を合わせてくる。
な……なんだよ…。
「そう言う考え方、俺は好きだな」
ひょーーーー!!
いや、何?なんだかさっきまでと目の色が違うくない?
いやいやいやいや!簡単すぎないか?
お前はチョロ男か!
「君は儀式はまだなんだろ?
俺が優しく教えてあげようか?」
いやーーーーーーーーーーーーー!!!!
余計なお世話だ!
全く持っていらんことだ!
真っ昼間から何言ってんだ!
お前はエロ男か!
「モースディブス様、こんな所で言うことでは無いですわ。
それに………済んでいます」
小声で言ったんだけど、何でそこで「え?マジか?」って顔するんだよ!
何でクリスティーナだけでなく、同じ反応するんだよ!
一度だけ…………いや、一晩だけとはいえちゃんとやることヤッたよ!
え?なぜ言い直したかなんて突っ込むのはやめてよね!
「そうか、それは失礼した。
でもその相手と付き合っているわけでは無いよね?
どう?俺と付き合わない?」
「急に何を仰るのですか?
モースディブス様は私のことご存じないですわよね?」
「そうだね、あのアルバートの大切な妹で、成績はなかなか優秀、魔法も一人で魔獣を倒せる腕前で、虐められてもしれっと冷めた目をして、泣きもしない。
家族を大切にする、貴族っぽくない背の低い女の子、それくらいしか知らないね」
……いや、なんか色々知ってないか?
「なぜそんなことをご存知なのですか?」
「アルバートの大切なお姫様だからね、君が思っている以上有名なんだよ」
兄のせいかーー!
「君と付き合うときっと面し……楽しいと思うんだ。
俺と付き合うこと考えてみてくれない?」
いや、考えたくない!
しかも今面白いって言おうとした?
「それとも付き合っている相手か、婚約者が居るの?」
「それは居ませんが…」
あ、正直に答えるべきではなかったか。
「答えは今でなくていいよ。
ゆっくり考えてね」
いや、考えなくない!
断ろうと口を開けかけたとき、モースディブスを呼びに来た店員が、店の奥から出てきた。
「接客中にすみません、先日の取引先から問い合わせが来ていますけど」
わかったと答えたモースディブスが、ニコッと笑った。
「タイムオーバーみたいだね。
いや、ナイスタイミングと言うべきか?
答えは今聞く暇なくなっちゃったから、即答しないでちゃんと考えてね」
断ろうとしてたのバレバレだったか?
またね、とひらりと手を振り、店の奥に去って行く。
代わりに呼びに来た店員が引き継ぎ、俺は2センチほどの楕円形の魔石を買って店を出た。
な………なんか疲れたーー!
でもまだ武具屋に行って、神殿にも行かなきゃなんだよね。
神殿か………後日にしたいけど、多分一人で出歩くのは厳しそうだから、今日中に済ませないとな。
でも本当に疲れた……。
応援ありがとうございます!
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